第1章|受取配当等の益金不算入制度
本章では、法人が受け取る配当等が、企業会計上は収益として計上されながらも、法人税の計算上では益金に含めないとされる理由を整理します。
そのうえで、益金不算入の対象となる配当等・ならない配当等の違いを確認し、実務上の計算方法や留意点もあわせて見ていきます。
受取配当等が益金に含まれない背景
法人課税の考え方
法人課税と個人課税の関係には、大きく分けて二つの考え方があります。
ひとつは「法人実在説」で、法人を個人とは別の独立した納税主体とみなす立場です。
この立場に立つと、法人段階と個人段階のそれぞれで課税が行われたとしても、あえて調整を行う必要はないという考えになります。
もうひとつが「法人擬制説」です。
こちらは、法人の納税をあくまで個人に対する所得税の前払と捉える考え方で、最終的な課税主体は個人であるという前提に立ちます。
この場合、法人が納めた税額は、個人の税額から控除するなどの調整が必要になります。
現在の法人税制度の考え方
現行の法人税法では、基本的に法人擬制説に近い考え方が採られています。
つまり、法人で課税された所得が個人に配当として渡る際には、二重課税にならないよう調整を行う仕組みが設けられているということです。
特に法人が法人から配当を受け取る場合、中間段階で課税してしまうと、最終的に個人に至るまでの各段階で何度も税負担が生じかねません。
そこで、法人が受け取った配当等については、一定の割合で益金不算入とすることで調整が図られています。
もっとも、株式の保有割合が低い場合には、完全な調整はされず、段階的に課税関係が整理されています。
益金不算入の対象となる配当等
不算入の対象となる配当等の範囲
益金不算入の対象となる配当等は、基本的に「株式等または出資に係る剰余金の配当」「利益の配当」「剰余金の分配」など、投資に対するリターンとしての配当が該当します。
具体例として、以下のようなものが挙げられます。
- 株式等に係る剰余金の配当・利益の配当・剰余金の分配
- 投資信託や投資法人の一定の金銭分配
- 資産流動化計画に基づく中間配当
- 特定株式投資信託の収益分配
これらはいずれも、法人間の配当でありながら、一定の条件を満たすことで益金に含めない取り扱いが認められています。
不算入とならない配当等
一方で、「配当」という名称が付いていても、益金不算入の対象とならないものも存在します。
以下のような配当等はその典型例です。
- 外国法人、公益法人、人格のない社団等から受ける配当等(外国子会社からの配当を除く)
- 保険会社の契約者配当
- 協同組合等の事業分量配当
- 特定目的会社や投資法人から受ける利益配当など
これらについては、そもそも二重課税の調整が不要であることや、実質的に売上割戻し的性格を持つと判断されていることが背景にあります。
益金不算入額の計算方法
株式等の保有割合に応じた計算
法人が保有する株式等は、保有割合によって次の四つの区分に分類されます。各区分ごとに、益金不算入額の計算方法が定められています。
区分 | 保有割合 | 不算入額の計算式 |
---|---|---|
完全子法人株式等 | 100% | 配当等の額の全額 |
関連法人株式等 | 1/3超 | 配当等の額 - 関連法人株式等に係る負債利子額 |
その他の株式等 | 5%超~1/3以下 | 配当等の額 × 50% |
非支配目的株式等 | 5%以下 | 配当等の額 × 20% |
なお、「負債利子額」とは、株式取得のための借入金に係る利子を指します。
たとえば、借入金で株式を取得し、受け取った配当を全額益金不算入としつつ、その利子を損金として認識すると、結果的に過大に課税所得を減らすことになります。そうした不均衡を防ぐため、一定の調整が設けられています。
適用手続上の注意点
この制度を適用するには、確定申告書や修正申告書において、益金に含めない配当等の金額や計算根拠を記載した明細書を添付する必要があります。
制度の適用に際しての留意事項
短期所有株式等に対する制限
配当等の支払に係る基準日の前1か月以内に取得し、その基準日後2か月以内に譲渡した株式等(短期所有株式等)については、益金不算入制度の適用が認められていません。
これは、配当権利日の前後で株式を移動させることにより、制度を利用した課税回避が行われることを防ぐ目的があります。
外国子会社からの配当等に対する95%益金不算入
内国法人が、持株割合25%以上かつ保有期間が6月以上の外国子会社から受ける配当等については、その95%相当額が益金不算入となります。
これにより、国外からの資金還流を促進しつつ、二重課税の排除を図る仕組みとされています。
ただし、この配当に係る外国源泉税については、損金算入が認められていない点には注意が必要です。
負債利子の範囲と実務上の注意
利子に該当する範囲には、社債発行差金や、手形割引料、その他、利息と同様の性質をもつ費用も含まれます。
会計処理上の科目設定や明細作成において、区別が曖昧にならないよう注意が求められます。
なお、負債控除負債利子の計算は次の算式によります。
- 原則:負債利子控除額は関連法人株式等に係る配当等の額の4%相当額
- 特例:支払利子の額の10%相当額が関連法人株式等に係る配当等の額の4%相当額以下の場合
その適用年度に係る支払利子の額の合計額の10%相当額×(その配当等の額÷その適用年度における関連法人株式等に係る配当等の額の合計額)
第2章|資産の評価益の取扱い
本章では、資産の評価益が原則として益金に含まれない理由を整理するとともに、特例的に益金算入される場面を明らかにします。
あわせて、判断の分岐点や実務上の確認手順についても押さえ、誤課税のリスクを避けるための足がかりとします。
評価益とはそもそも何か
資産の帳簿価額よりも時価が上回った場合、その差額を「評価益」といいます。
企業会計では、資産は原則として取得時の価格で計上する「取得原価主義」に基づいて処理されるため、時価評価による帳簿価額の変更、すなわち評価換えは基本的に認められていません。
法人税法もこれに準じており、評価換えによって帳簿価額を引き上げた場合であっても、その増加部分は原則として益金に算入しない取扱いがなされています(法人税法25条1項)。
なぜ原則として益金不算入とされるのか
取得原価主義との整合性
もし企業が自由に時価評価を行えるとすれば、資産価値の増減によって法人税の課税ベースが左右され、恣意的に課税所得を調整することが可能となってしまいます。
したがって、税務上も取得原価を基本とする処理が前提となっています。
実現主義の観点から
評価益は、あくまで帳簿上の利益であって、実際の資金流出入を伴うものではありません。
このように実現していない段階で課税を行うのは妥当ではない、という実現主義の立場も、益金不算入の背景にあるとも考えられます。
益金算入が例外的に認められる場合
評価益がすべて益金不算入となるわけではありません。
主に企業再建の場面など、一定の条件を満たす場合には、帳簿価額を時価まで引き上げ、その増加部分を益金として計上することが求められることもあります。
以下のようなケースでは、資産の評価換えに伴う益金算入が認められています。
区分 | 要件の概要 | 益金算入の限度 |
---|---|---|
会社更生法等に基づく評価換え | 更生計画の認可を受け、関連法令に従って実施される評価換え | 該当資産の時価まで |
再生計画認可に伴う評価換え | 再生計画の認可やこれに準ずる事実を原因とする評価換え | 同上 |
保険会社による評価換え | 保険業法112条に基づく保有株式の評価換え | 同上 |
いずれの場合も、実務上は「認可決定通知の写し」や「評価換え明細書」など、合理的な根拠資料を準備しておくことが重要と考えられます。
評価益の計上が強制されるケース
法人が保有する資産については、原則として評価換えによる帳簿価額の引上げがあっても、その評価益は益金の額に算入しない取扱いとなっています。
ただし、一定の資産については、評価益の計上が強制される場合があります。
まず、法人がその事業年度終了の時点において「売買目的有価証券」を保有している場合には、その時価と帳簿価額との差額にあたる評価益または評価損の金額を、その事業年度の所得金額の計算上、益金または損金の額に算入することが求められています(法人税法第61条の3第2項)。
「売買目的有価証券」とは、専らその売買によって利益を得る目的で保有される株式等であり、短期的な価格変動を利用して収益を上げることを目的とするものが該当します。
このような有価証券については、取得時に「売買目的有価証券」等の勘定科目で区分されていることが要件とされています(法人税法施行令第119条の2第2項、第119条の11、第119条の12)。
このほかにも、評価損益の計上が強制される資産として、以下のようなものが規定されています。
- 短期売買商品等に係る評価損益(法人税法第61条第2項、第3項)
※ここには暗号資産(仮想通貨)も含まれます。 - デリバティブ取引に係る評価損益(法人税法第61条の5第1項)
- 時価ヘッジ処理により売買目的外有価証券を評価換えした場合の評価損益(法人税法第61条の7)
これらに該当する資産は、原則的な取得原価主義の取扱いとは異なり、時価による評価損益の計上が義務付けられている点が特徴です。したがって、申告にあたっては、これらの資産の有無や保有目的、会計処理方法の確認が不可欠となります。
第3章|その他の益金不算入項目
還付金等の益金不算入
法人税等の還付金の取扱い
法人税や地方税(都道府県民税、市町村民税など)は、法人の所得等を課税標準として課税され、その所得の中から支払うべきものとされています。
このような税金については、法人税法第38条の規定により、納付した金額は損金の額に算入されないものとされています。
このように損金に算入されない法人税等が、過誤納などによって還付された場合に、その還付金を益金の額に算入すると、 結果として二重課税となるおそれがあります。
そこで法人税法第26条第1項では、以下のような還付金や充当金について、所得の金額の計算上、益金の額に算入しない取扱いが定められています。
- 法人税法第38条の規定により損金不算入とされた法人税等
- 法人税法第55条第3項により損金不算入とされた附帯税や附帯金
- 所得税の源泉徴収税額のうち、法人税額から控除できなかった部分として還付された金額(法人税法第78条、第81条の29、第133条に基づくもの)
- 欠損金の繰戻しによる還付金(法人税法第80条、地方法人税法第23条)
なお、これらの還付金等が他の未納の国税や地方税に充当された場合も、同様に益金の額に算入しないこととされています。
完全支配関係にある法人から受けた受贈益の益金不算入
法人税法第25条の2では、完全支配関係にある他の内国法人から受けた受贈益の額について、所得の金額の計算上、益金の額に算入しないこととされています。
ここでいう「完全支配関係にある法人」とは、一方の法人が他方の法人の発行済株式等のすべてを直接または間接に保有している関係を指します(法人による完全支配関係に限るものとされています)。
また、当該受贈益の額については、法人税法上の寄附金の額の定義と対応関係にあります(法人税法第37条第2項)。
外国子会社から受ける配当等に係る外国源泉税等の益金不算入
平成21年度の税制改正により、外国子会社から受ける配当等に係る外国源泉税等については、その課された時点では損金の額に算入しないこととされました。
その後、外国税額控除の計算の基礎となった外国源泉税額が減額された場合には、法人税法第26条第3項の規定により、次のように取り扱われます。
- 減額された金額のうち、控除対象外国源泉税の額が減額された部分の金額は、益金の額に算入しない
これは、外国源泉税額が減額されたとしても、当初その税額を損金に算入していなかった以上、減額された分を益金として計上することは二重課税の要因となるため、その調整を図るための取扱いです。
また、外国税額控除制度は、内国法人が納付した外国の法人税について、損金算入方式または控除方式のいずれかを選択できる制度ですが(法人税法第41条、第69条、法人税法施行令第141条、第142条)、その外国税額控除の適用を受けた場合、後に減額があった場合の減額された控除対象外国源泉税の額は一定の場合を除き益金に算入しないこととなります。
免責事項
本記事は、法人税に関する制度的取扱いを記載したものであり、個別の税務判断を提供するものではありません。
実際の申告・処理にあたっては、事実関係や適用法令等の確認を行い、専門家の助言を得たうえで対応されることを推奨します。
内容の正確性については十分に配慮しておりますが、本記事を参考にされたことにより生じた損害等について、筆者は一切の責任を負いかねます。
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