第1章|同族会社と役員給与の税務
~税務上の役員給与処理をめぐる基本概念と損金算入の実務~
1 同族会社とはどのような会社をいうのか
法人税法上、同族会社とは、株主等の3人以下とそれらと特殊の関係にある個人および法人が、その会社の発行済株式数または出資金額の50%超を保有している会社を指します。
この定義に該当する会社については、一般の法人とは異なる税務上の取扱いが設けられており、特に役員給与に関する規定には注意が必要です。
ここでいう株主等には、株式会社の株主のみならず、合名会社・合資会社・合同会社の社員といった出資者全体が含まれます。
また、「特殊の関係にある者」の範囲も広く、次のような者が該当します。
- 配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族
- 内縁関係にある者
- 個人株主の使用人
- 株主から金銭的援助を受けて生計を維持している者
- 上記の者と生計を一にする親族
さらに、法人の場合には、株主等が他の会社を支配しているケースにも留意が必要です。
支配関係の有無は、株式数または議決権数の過半を有しているか否かを基準として判定されます。
このように、出資関係のみならず人的・経済的な結びつきも含めた総合的な視点から、一定のグループが実質的に会社を支配していると判断される場合に、当該法人は同族会社として取り扱われます。
2 役員とはどのような者をいうのか
法人税法上の「役員」は、会社法上の取締役や理事に限らず、実質的に法人の経営に関与している者も広く含まれます。
具体的には、次のような者が該当します。
- 登記された取締役・執行役・監査役・理事・監事・清算人等
- 会長、顧問、相談役など、登記上は役員でないが意思決定に関与している者
- 特定の株主グループに属し、要件を満たす使用人で経営に従事する者(特定株主)
特定株主に該当するかどうかは、所有割合等に基づく3つの要件によって判断されます。たとえば、各株主グループの所有割合の合計が資本の50%超を支配していることや自身の属する株主グループが資本の10%超を支配していること、自己または関係会社による保有割合が5%超であることが要件です。
したがって、法形式上は「使用人」であっても、実質的に経営判断に影響を与えている人物は、税務上「役員」とみなされ可能性がある点には注意が必要です。
3 使用人兼務役員とはどのような者をいうのか
法人税法では、取締役などの役員でありながら、同時に使用人としての職務に従事している者を「使用人兼務役員」と定義しています。
具体的には、部長・課長など職制上の地位を有し、かつ常時その業務に携わっている者が該当します。
例えば、「取締役営業部長」や「取締役工場長」などのように、法人の使用人として明確な職務に従事している場合は、使用人兼務役員として取り扱われることがあります。
一方で、次のような地位にある者は使用人兼務役員には該当しません。
- 代表取締役、専務、常務、社長、副社長など経営の中枢にある者
- 清算人や監査役など、職務の性質上使用人性がない者
- 同族会社の特定役員(特定株主としての要件を満たす役員)
この区分は、給与や賞与を損金算入できるかどうかの判定にも影響するため、実務上の判断には注意が必要です。
4 役員の給与はどのように取り扱われるか
役員給与については、平成18年度税制改正により、損金算入できる範囲が整理され、以下の3類型に区分されています。
(1)定期同額給与
1ヶ月以下の一定期間ごとに同額が支給される給与で、源泉税などを控除した後の金額が各支給時期で同額であれば「定期同額給与」とみなされます。
これに該当すれば、原則として損金算入が認められます。
(2)事前確定届出給与
所定の時期・金額・対象に関して事前に定めた給与であり、その内容を所轄税務署へ届出しているものです。
金銭だけでなく株式や金銭債権なども対象に含まれます。
(3)業績連動給与
業績指標を基準に支給額を決定する制度であり、報酬委員会の決定や有価証券報告書による開示など、厳格な要件が設けられています。
同族会社では、同族会社以外との間に完全支配関係がある場合に限り、認められる仕組みです。
これら3類型に該当しない給与は原則として損金算入されません。
また、支給額が不相当に高額であると認められる場合や、事実を仮装・隠蔽して経理している場合には、損金不算入とされます。
役員退職給与に関しても、同様に過大部分は損金不算入となります。
支給額が、退職の事情や従事期間に対して不相当に高額と評価される場合には、その超過部分が対象となるため、注意が必要です。
5 使用人兼務役員に対する賞与の取扱い
使用人兼務役員が受け取る賞与のうち、使用人としての職務に対して支給されるものであり、かつ他の使用人と同時期・同水準である場合には、損金算入が認められる可能性があります。
ただし、これには合理的な支給基準が必要であり、支給時期や金額の妥当性について他の使用人と比較したうえでの整合性が求められます。
第2章|交際費等の範囲と損金不算入額の計算
~交際費の線引きと法人税上の取扱いを押さえる~
1 交際費等課税制度が設けられた趣旨
法人が事業活動の中で取引先などと関係を深める目的で支出する交際費等は、企業会計上は費用として処理されるものですが、税務上はそのすべてが損金算入できるわけではありません。
これは、かつて交際費等の支出が巨額となり、いわば経費の名目で法人の利益を過度に圧縮する手段として用いられていた実態があったことが背景にあります。
このような状況を受けて、税法上では、過度な支出を抑制し、冗費の節約や課税の適正性を確保する目的で、交際費等に関して一定の損金不算入制度が設けられています。
さらに、公正な取引の確保や正常な価格形成といった観点も制度の趣旨に含まれています。
2 交際費等とされるものはどのようなものか
税法上の交際費等の定義は、一般的な社会通念よりも広く、形式や勘定科目によって判断されるものではありません。具体的には、以下のような要件を満たす費用が交際費等に該当します。
- 支出目的:得意先・仕入先その他事業に関係のある者等に対して
- 行為の内容:接待、供応、慰安、贈答その他これに類する行為のため
- 支出の態様:現実にその行為があったこと(仮払や未払の有無は問わない)
また、「事業に関係のある者等」には、実際の取引先のみならず、将来的に関係を持つ可能性のある者や株主、役員、従業員なども含まれるとされています。
除外される費用
ただし、すべての接待費用が交際費等に該当するわけではなく、次のような費用については、交際費等から除かれます。
- 社員旅行、運動会など従業員の福利厚生のために通常要する費用
- 飲食費のうち、1人当たり10,000円以下で所定の書類を保存しているもの
- 広告宣伝目的のカレンダーや手帳などの作成費用
- 会議で提供する軽食・茶菓等
- 取材や報道のための費用
- 見本品や製品の試飲・試食に関する通常要する費用
このように、交際費等に該当するか否かは、金額や勘定科目ではなく、実質的な支出目的や性質によって判断されることになります。
交際費等に該当する典型例
- 社屋新築記念や周年記念における宴会費・記念品費用
- 得意先の慶弔時の贈答品代
- 接待を目的とした飲食費や観劇・旅行等の費用
- 謝礼としての金銭や物品の支出 など
交際費等に該当しない典型例
- 社会事業団体や政治団体への拠金(寄附金に該当)
- 売上に比例して支給する割戻金や少額(3,000円程度)の物品交付費用
- 一般消費者向けの景品や招待旅行費(広告宣伝費に該当)
- 従業員への通常の社内飲食費用や慶弔金(福利厚生費に該当)
このように、支出の実態に即した区分が求められ、場合によっては一部が交際費、他の部分が福利厚生費等に分類されることもあります。
3 交際費等の損金不算入額はどのように計算するのか
交際費等については、原則として損金の額に算入されないとされていますが、法人の規模によっては一定額まで損金算入が認められる制度が設けられています。
令和2年4月1日以後に開始する事業年度における区分は、以下のとおりです。
(1) 資本金等の額が1億円以下の法人(大法人の子会社を除く)
次のいずれかの方法を選択適用することができます。
- 交際費等の額-(800万円×月数÷12)
定額控除限度額(年間800万円)の超過部分が損金不算入 - 交際費等の額-(接待飲食費の額×50%)
接待飲食費を50%まで損金算入し、超過部分が不算入
このいずれか有利な方法を選ぶことが可能です。
なお、「接待飲食費」に該当するためには、支出内容に関する所定事項(日時、場所、参加者、金額等)を記載した帳簿書類を保存していることが必要です。
(2) 資本金等の額が1億円超~100億円以下の法人
この場合は、定額控除の制度は適用されず、接待飲食費の額の50%相当額を超える部分が損金不算入となります。
(3) 資本金等の額が100億円超の法人
この場合、交際費等の全額が損金不算入となります。接待飲食費の50%控除などの特例も適用されません。
4 接待飲食費の範囲と保存書類
飲食費の中でも、損金算入が認められる「接待飲食費」として扱うには、以下の条件を満たす必要があります。
- 飲食の相手が、法人の役員や従業員以外の、事業に関係のある者であること(社内者のみでないこと)
- 支出に関する日時、場所、参加者、金額、目的等を記載した書類を保存していること
なお、支出額が1人当たり10,000円以下である場合には、交際費等には該当しないこととなります。
これらの書類が保存されていない場合は、たとえ金額が要件を満たしていたとしても損金算入の対象外となる可能性があるため、実務上の注意点となります。
第3章|寄附金・租税公課の取扱い
~「損金になる支出」と「ならない支出」を見極める~
1 寄附金の損金算入限度額が設けられた趣旨
法人税法においては、法人が支出した費用について、損金に算入できるかどうかの判断が重要な論点となります。
なかでも寄附金は、直接的な反対給付を伴わない性質を持つため、事業活動との関連性の判定が難しく、課税の公平性を損なう要因ともなり得るとされています。
もし寄附金を無制限に損金として認めた場合、本来課税されるべき所得が著しく圧縮されることになります。
このような事態を防ぐため、法人税法では寄附金の損金算入に制限を設けており、寄附先や寄附の内容に応じて損金算入の可否や限度額が定められています。
その一方で、法人が公益のために一定の寄附を行う必要性も認められており、全額損金算入や別枠限度額といった制度が設けられている点も特徴的です。
2 寄附金とされるものにはどのようなものがあるのか
法人税法上の「寄附金」とは、法人が行った金銭その他の資産または経済的利益の贈与または無償の供与を指し、その範囲は社会通念上の寄附金よりも広く規定されています。
主な分類は以下のとおりです。
(1) 全額損金算入が認められる寄附金
以下に該当する寄附金は、一定の要件を満たせば、損金として全額を算入できます。
- 国または地方公共団体に対する寄附金
ただし、寄附により設置された施設を寄附者が専属的に利用する場合や、特別の利益を享受するものは除かれます。 - 財務大臣が指定した寄附金(指定寄附金)
一定の公益法人等への寄附で、財務大臣が指定したものが対象です。
(2) 別枠で損金算入が認められる寄附金(特定寄附金等)
以下の寄附金は、一般の寄附金とは別の損金算入限度額が設定されており、その範囲内で損金算入が認められます。
- 特定公益増進法人への寄附金
教育、文化、福祉等に寄与する公益性の高い法人への寄附が対象です。 - 特定公益信託の信託財産として支出された金銭の額
公益目的に沿った特定信託への拠出が該当します。 - 認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)への寄附金
所轄庁の認定を受けたNPO法人への支出が対象となります。
(3) 一般の寄附金
上記いずれにも該当しないその他の寄附金は、すべて「一般の寄附金」として取り扱われ、以下で示す限度額の範囲内でのみ損金算入が認められます。
(4) 完全支配関係にある法人間の寄附金
法人が、完全支配関係にある他の内国法人(法人による完全支配に限る)に対して行った寄附金については、損金不算入となります(受領法人では益金不算入)。
グループ内での寄附による課税繰延や所得移転を防止する目的でこの取扱いが設けられています。
(5) 国外関連者に対する寄附金
法人が国外関連者に対して支出した寄附金の額は、その全額が損金の額に算入されません。
国外への利益移転に対する抑制措置として位置付けられています。
3 寄附金の損金算入限度額の計算
損金に算入できる寄附金の範囲は、法人の区分や寄附金の種類によって異なる計算式で定められています。
(1) 一般の寄附金の限度額
- 普通法人の場合
(資本金等×(当期の月数/12)×0.25%+所得金額×2.5%)×1/4
※資本金等とは、期末時点の資本金および資本準備金の合計額、または出資金額を指します。
令和4年4月1日以後に開始する事業年度より適用。 - 資本や出資のない一般社団法人・一般財団法人等
所得金額×1.25% - 公益法人等(一般社団法人・一般財団法人を除く)
所得金額×20%(一部の法人は50%) ※年200万円に満たない場合は200万円とする(学校法人、社会福祉法人等)
(2) 特定寄附金 (別枠損金算入)の限度額
- 普通法人
(資本金等×(当期の月数/12)×0.375%+所得金額×6.25%)×1/2 - 資本または出資のない法人
所得金額×6.25%
この限度額の範囲内で、特定公益増進法人・認定NPO法人・特定公益信託への寄附金は損金算入が可能となります。
4 損金の額に算入されない租税公課はどのようなものがあるか
法人が支出する税金のうち、すべてが損金に含まれるわけではありません。
特に法人税法上では、次のような税金については損金不算入とされています。
- 所得を課税標準とする税
- 所得税額控除対象の所得税
- 外国税額控除対象となった外国法人税額
これらは、所得に直接対応する税金であり、税の性質上、課税所得を減額する要素とはされません。
また、租税公課に含まれる附帯税(延滞税など)のうち、利子税等は損金算入される一方、加算税等は損金に含まれません。
5 損金の額に算入されない租税公課の取扱いと実務処理
決算処理において、損金経理を行った租税公課のうち、損金算入が認められないものが含まれている場合には、法人税申告書の別表五(二) に納付状況等を記載し、別表四で所得金額に加算調整を行います。
また、未払法人税等(いわゆる納税充当金)として引当処理を行った場合も、これは損金算入が認められた引当金ではないため、同様に加算対象として申告調整が必要です。
このほか、事業税については申告があった日の属する事業年度の損金とされますが、前事業年度分については申告前でも損金に算入できる取り扱いもあるため、実務上の判断が重要となる場面があります。
6 不正行為等に係る費用等は損金にならない
法人が行った不正行為や違法行為に関連する支出は、租税政策上、その抑止を図るために損金算入が認められていません。
具体的には、次のような支出が該当します。
- 隠蔽・仮装行為に関する費用
- 賄賂等に該当する費用
- 不正な確定申告に関連する支出
- 延滞税、加算税、重加算税などの附帯税
- 国内外を問わず課される罰金・科料
これらの費用については、たとえ法人の業務に関連していたとしても、損金として処理することは認められていません。
第4章|税務の不安を相談できるサービス紹介
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本記事は、税制度に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務判断や対応策を推奨するものではありません。
適用にあたっては、必ず税理士などの専門家や信頼できる専門書籍等を確認のうえ、ご自身の判断で対応いただきますようお願いいたします。
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