「銀行じゃ借りられない」…そんな声が増えている

「事業資金が必要だけど、銀行では審査が通らなかった」
「創業間もないから、信用も担保もまだない」
「アイデアはある。でも、お金がない」
──そんな悩みを抱える中小企業やスタートアップは、いまも全国に数多く存在します。
実際、スタートアップの資金調達環境には明らかな変化が起きています。たとえば、2023年の国内スタートアップ全体の資金調達額は約8,000億円と過去最高水準だったものの、2024年に入ってからは減速傾向に転じ、エクイティ(株式)による調達は前年同期比33%減、一方で融資などエクイティ以外の調達は56%増という動きが見られました。
「出資は難しいけど、借りることはできるかも」
──そんなニーズが、水面下で増えているのです。
ソーシャルレンディングって、どういう仕組み?
この流れの中で、静かに存在感を増しているのがソーシャルレンディングです。別名「P2P融資」とも呼ばれるこの仕組み。要はこういうことです。
インターネットを通じて、不特定多数の投資家から資金を集め、それを企業に融資する
つまり、これまで銀行などの金融機関を通してしかできなかった「お金を貸す・借りる」という行為が、個人の投資家と企業の間でダイレクトに行えるようになった。そんな仕組みです。
ソーシャルレンディングは、融資型クラウドファンディングとも呼ばれ、実際の資金の流れは以下のようになります。
- ソーシャルレンディング事業者がファンドを募集
- 投資家が出資
- 事業者がその資金を企業に貸し付け
- 企業は返済時に元本+利息を支払い
- その利息が投資家に分配される
従来の「出資」や「寄付」などとは異なり、あくまで融資を通じて“利息収入”を得る投資という点が大きな特徴です。
銀行と何が違うの?
一言でいうと──スピードと柔軟性です。
銀行融資の場合、審査に1週間以上かかるのが一般的で、過去の財務諸表や担保の有無など、厳しいチェックが求められます。
一方で、ソーシャルレンディングでは、事業者独自の審査基準により審査が実施されます。なかには即日融資が可能なサービスも存在します。
さらに、借り手側にとっては「担保や保証が不要」なケースも多く、創業間もない企業や、実績が浅いスタートアップにとって、大きなチャンスとなり得るわけです。
投資家にとっての魅力は?
では、資金を出す側──つまり投資家にとって、ソーシャルレンディングはどんな魅力があるのでしょうか?
■ 比較的高い利回り
大手ソーシャルレンディング事業者のファンドでは、**年利4〜7%**程度の案件が多く見られます。中には10%以上の利回りが提示されているものもあり、低金利時代においては非常に魅力的に映ります。
■ 少額から始められる
「まとまった資金がないから、投資は難しい」と思っていませんか?
ソーシャルレンディングでは、1万円から投資可能なファンドがほとんど。中には1円単位で投資できるサービスもあり、初心者でもハードルが低いのが魅力です。
■ “ほったらかし”でも成立する運用
株式やFXのように、日々の値動きをチェックしたり、売買のタイミングに悩んだり──そうした手間が一切ないのも特徴。
基本的に「投資 → 分配 → 償還を待つだけ」のスタイルなので、忙しい会社員や主婦にも適した運用方法だと言えます。
でも、リスクはないの?
あります。しかも、元本保証ではありません。
これがソーシャルレンディング最大の注意点です。以下のようなリスクが潜んでいます。
- 貸し倒れリスク(借り手が返済できない可能性)
- ファンド運用会社の不正や倒産リスク
- 元本毀損や分配金遅延
過去には、貸付先の不正、ずさんな管理体制、資金使途の不透明さによって、大手事業者が行政処分や事業撤退に追い込まれたケースもあります。
ソーシャルレンディングが「銀行よりも融通がきく」というのは裏を返せば、「審査やガバナンスが緩くなりやすい」ということでもあります。
だからこそ──正しい情報開示と、信頼できる業者選びが何よりも重要なのです。
「誰が投資しているのか?」──ユーザー像をのぞいてみる
ソーシャルレンディングは、“投資初心者にやさしい”と言われます。では、実際にはどんな人たちが活用しているのでしょうか?
ある大手プラットフォームの調査によれば、会員の7割が20〜40代の若年層で占められていました。これは非常に特徴的な傾向です。
この世代、いわゆるミレニアル世代やZ世代は、単に「儲かればいい」というよりも──
- 社会貢献性やストーリーに共感できるか
- 意味のあるお金の使い方ができるか
- 忙しくても気軽にできる資産運用かどうか
といった、投資に対する“感情的納得”を重視する傾向があります。
リターンの数字以上に、「この企業を応援したい」「持続可能な社会に投資したい」という想いが、投資のきっかけになっているのです。
「誰が借りているのか?」──借り手の顔ぶれ
一方、ソーシャルレンディングを通じて資金を調達する“借り手”は、どんな企業でしょうか?
代表的なのは、以下のようなケースです。
- 銀行融資のハードルが高い中小企業やスタートアップ
- 実績が浅く、信用枠が限られている新規事業者
- 自社ブランドの拡大や設備投資を進めたいが、資本政策上“出資”は避けたい企業
- 不動産開発、再生可能エネルギー、地域振興ファンドなどのプロジェクト型案件
こうした企業にとって、スピーディーで柔軟な資金調達ができるソーシャルレンディングは、既存の金融機関にはない大きな価値を持つのです。
投資家目線で見た“判断材料”とは?

「面白そうな仕組みなのは分かったけれど、実際にどこを見ればいいのか分からない」
──そんな声をよく聞きます。
では、投資家はどのようにファンドを選べばいいのでしょうか?
最低限、以下のようなポイントは意識しておく必要があります。
✅ 1|金融庁の登録状況
- 第二種金融商品取引業者
- 貸金業者
この2つの登録を取得していない業者は、そもそも違法な業者である可能性があります。
金融庁の公式サイトで確認できますので、投資前には必ずチェックを。
✅ 2|予定利回りだけで判断しない
予定利回りが高ければ高いほど、貸付先の返済リスクも高くなりがちです。
実際に、過去には返済遅延や元本毀損が多発した事例もあります。
利回りだけを見て飛びつかない冷静さが必要です。
✅ 3|貸付先の情報が開示されているか
過去には、「担保なしの貸付であるにもかかわらず、あたかも保全されているかのような表示」が行われた事例もありました。
貸付条件、資金使途、企業の事業内容や財務状況などが、具体的かつ正確に開示されているかを確認しましょう。
✅ 4|借換えや分配遅延のリスクを明示しているか
「このファンド、実は他の借金の返済資金では?」
「貸付先の経営が悪化して、分配金が遅れているのでは?」
こうした情報が**“あえて書かれていない”ファンドは、避けるべき**です。
透明性のある業者は、こうした不都合な情報も誠実に開示します。
✅ 5|分別管理や信託保全の有無
万が一、運営会社が破綻したとき、投資家の資金がどうなるか──
その答えが「分別管理」や「信託保全」の有無に現れます。
制度的には信託保全は義務ではありませんが、「導入しているかどうか」は一つの信頼指標になります。
✅ 6|運用報告書などの継続的な情報提供があるか
優れたプラットフォームは、投資後も「運用報告書」などを定期的に交付し、ファンドの進捗や返済状況をしっかり伝えてくれます。
報告の頻度、具体性、明確さは、投資家保護に対する姿勢を測るバロメーターになります。
なぜ、情報開示がここまで重視されるのか?
それは、過去の苦い経験があるからです。
2017年以降、ソーシャルレンディング業界では、複数の不祥事や行政処分が相次ぎました。
たとえば──
- 実在しない事業に資金を流用していた例
- ファンド資金を他の債務返済に転用していたケース
- 担保評価の根拠が曖昧な不動産案件
- 融資先が融資先の関係会社に資金を流用していた事例
こうした事案を受けて、金融庁や業界団体は、貸付先の情報開示、運用報告、審査プロセスの明確化などを義務化・強化する方向へ舵を切りました。
現在は、匿名組合型スキームを採用していても、貸付先の社名や事業内容が開示される方向で制度が整いつつあり、以前よりも投資判断の材料が得やすくなっています。
投資は「リターン」ではなく「リスク」から考えるもの
もう一度、基本に立ち返っておきましょう。
ソーシャルレンディングは、「預金のように元本が守られる商品」ではありません。
ファンドによっては、借り手の経営が傾き、元本の一部が返ってこないリスクがあります。
だからこそ、高い利回りよりも、“何があったときにどうなるか”を想像できるかどうかが、最も重要です。
ソーシャルレンディングは「法律で守られた仕組み」なのか?
結論からいえば──守られているが、万能ではない。
ソーシャルレンディングという仕組みは、2000年代後半から国内でも本格的に広がり始め、制度的な整備も進んできました。現在では、運営事業者は以下の2つの登録が法的に義務づけられています。
✅ 第二種金融商品取引業(金融商品取引法)
ファンド持分(匿名組合契約など)を投資家に提供する行為が「みなし有価証券の募集・私募」に該当するため、金融庁への登録が必須です。
✅ 貸金業者(貸金業法)
資金の出し手(投資家)から預かったお金を企業へ「貸し付ける」ビジネスモデルのため、貸金業法に基づく登録も必要です。
この2つを満たしていない業者が募集しているファンドは、法令違反の疑いが非常に高く、関わるべきではありません。
また、こうした登録を受けていたとしても、それが「安全性」や「元本保証」を直接意味するわけではないことに注意が必要です。金融庁自身も「登録済みであっても、その信用力を保証するものではない」と明確に記しています。
過去の行政処分と不祥事──なぜ問題が起きたのか?

日本におけるソーシャルレンディング市場は、拡大の一途をたどる一方で、いくつもの不祥事に見舞われてきました。
たとえば──
❌ 実在しないプロジェクトへの融資
貸付先企業が存在しないにもかかわらず、ファンド募集ページには「具体的な事業計画」や「想定利回り」が提示されていたケース。
❌ 担保の不正表示
不動産担保付きファンドとして資金を集めていたにもかかわらず、正式な不動産鑑定評価を行っていない価格を掲載し、あたかも担保価値があるように見せていた事例。
❌ 他ファンド資金の流用
返済に行き詰まったファンドの償還金を、別のファンドで集めた資金から補填していたケース。いわば“資金ぐるぐる”です。
これらの事例では、金融商品取引法や貸金業法違反、虚偽表示、善管注意義務違反などが指摘され、複数の業者が業務停止命令や登録取消処分を受けました。
中でも注目を集めたのは、SBIソーシャルレンディングの撤退や、maneoマーケットに対する業務改善命令など、業界大手に対しても規制当局が厳しく対応した点です。
規制強化と業界の“正常化”に向けた動き
こうした不祥事の教訓を受け、現在、ソーシャルレンディングを取り巻く制度環境は確実に整備されつつあります。
🔍 貸付先の情報開示ルールの緩和
以前は「貸付先を特定すると投資家が貸金業とみなされる」という理由で匿名化されていた借り手情報も、一定の条件下で開示が認められる方向にシフトしました。
たとえば以下の条件を満たす場合、貸付先の社名・所在地・業種・財務情報などの開示が可能になります。
- 借り手が法人であること
- 匿名組合契約を採用していること
- 投資家と借り手が直接接触しない措置が取られていること
これにより、投資家が「誰に貸しているのか」を事前に知ることができる環境が整いつつあります。
📄 運用報告書の義務化と事前審査の明示
金融庁は以下の対応を事業者に義務づける方向で規制を強化しています。
- ファンド運用報告書の定期交付
- 融資先の事前審査と結果の開示
- リスク(遅延・デフォルト・借換え等)の明示
特に、返済遅延の発生率や貸倒れの割合などは、過去には曖昧なまま放置されるケースも多かったため、これらが開示されることで投資家の判断材料が大きく向上しています。
「資金が届かない場所へ届ける」──金融の新しい使命
ソーシャルレンディングが持つ、もう一つの側面。それは、社会課題解決に資する“金融インフラ”であるということです。
- 東京一極集中の調達格差
- 担保がないが、成長ポテンシャルを秘めた起業家
- 売上はあるのに資金繰りで苦しむ地域企業
こうした存在に対して、銀行ではリスクが高くて対応できない──その隙間を埋める一つが、ソーシャルレンディングという選択肢です。
事実、政府もスタートアップ10万社創出という目標のもと、事業承継支援やファンド出資を通じた資金供給の多様化を政策的に後押ししています。
まとめ:ソーシャルレンディングを“選ぶ力”が求められる時代へ
ソーシャルレンディングは、金融の民主化を象徴するような仕組みです。
けれどそれは、「誰でも簡単に儲かる投資」ではありません。
情報の裏を読む力、業者の姿勢を見抜く目、そして何より、「リスクから逆算して資産を守る意識」が求められます。
そしてこれから、法制度の整備が進み、運営会社の信頼性が高まり、案件の質が改善されていけば──
ソーシャルレンディングは、“もうひとつの投資のスタンダード”として定着していく可能性がある。
そんな未来も、けっして絵空事ではありません。
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本記事は、2025年時点の公的資料・金融統計・制度情報をもとに執筆しておりますが、将来的な法改正・制度変更・市場環境の変化等により内容が変動する可能性があります。
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