【2025年最新版】PER・PBRとは?株価が割安か割高かを見極める7つの視点【初心者向け完全ガイド】

「この株、安いの?高いの?」──そう思ったことがある方は、PERやPBRという言葉に出会ったことがあるかもしれません。
でも、なんとなく難しそうでスルーしてしまった…。そんな方にこそ伝えたい、「数字で見る株価評価」の話です。

目次

第1章|PER・PBRとは?株価のモノサシで見える世界

「この株、割安なんでしょうか?」──そう尋ねられたとき、私はまず**“株価の裏にある構造”**を一緒に読み解くようにしています。
数字は常に、何かを語っているからです。

投資を始めたばかりの頃、誰しも「株価が高いか安いか」がよく分からずに悩みます。
「1000円の株」は安く見え、「5000円の株」は高く見える──そんな直感だけで判断してしまうのも無理はありません。

私自身も、はじめて株式市場に向き合った頃、そうした“金額の大小”に振り回されていた時期がありました。

けれども、投資の本質は「いくらの株を買うか」ではなく、**「いくらの価値がある株を、いくらで買うか」**です。
その価値を“見える化”するために使われるのが、**PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)**という、2つの基本指標です。

PER・PBRとは?数字に“意味”を吹き込む投資の共通言語

  • PER(株価収益率)=株価 ÷ 1株あたり利益(EPS)
  • PBR(株価純資産倍率)=株価 ÷ 1株あたり純資産(BPS)

これらは、株価という“表面の数字”に意味を与える道具です。
株価だけ見て「高い/安い」と言っても、その企業がどれだけ利益を出しているのか、どれほど資産を持っているのかが分からなければ、判断のしようがありません。

たとえばPERは、「この会社に投資すると、今の利益水準が続けば何年で回収できるか?」を示唆しますし、PBRは「この会社の解散価値に対して、株価がどう評価されているか?」を映し出します。

投資という行為は、数字を信じることではなく、数字を問い直すことだと、私は考えています。

指標は「過去の成績表」ではなく「未来の期待値」

「じゃあ、PERが低ければ割安で、PBRが高ければ人気企業ってことですか?」

そう聞かれたとき、私はこう答えるようにしています。

「数字は単なる静止画。そこから**“どんな未来が織り込まれているか”**を読み取るのが、私たち投資家の役割です」と。

PERやPBRはあくまで、**“いまの株価”に対して、“どれだけの期待や懸念が含まれているか”**を知るための指標。
だからこそ、表面上の数字だけで判断してしまうと、「なぜ高いのか」「なぜ低いのか」という本質を見逃してしまうリスクがあります。

平均値を持っておくと、判断が“自分軸”になる

初心者の方には、まず市場全体の“平均PER・PBR”を知っておくことをおすすめしています。
そうすることで、個別銘柄の数字を見たときに「この企業は平均より高い/低い」という相対感覚が養われます。

🔹たとえば──

  • 日本のプライム市場の平均PERは15倍前後、PBRは1.3倍前後
  • 対して米国のS&P500指数では、PERは20倍超、PBRは5倍を上回る水準です

このように、“日本は控えめ、米国は強気”という温度感も、指標を通して見えてくる。
次章では、こうした市場全体の“今”の空気感を数字で読み解く方法を、もう少し掘り下げていきます。

第2章|日本株と米国株のPER・PBR比較:数字が語る市場の空気感

「今って、株を買うタイミングでしょうか?」──そう聞かれたとき、私が最初に確認するのが、市場全体のPERとPBRの水準です。
なぜなら、そこには**“投資家全体の心理状態”**が静かに現れているからです。

PERやPBRは、個別企業を見るための指標であると同時に、市場そのものの“評価温度”を測る指標でもあります。
ここでは、2025年5月時点でのデータをもとに、日本株と米国株の“今の雰囲気”を読み解いてみましょう。

2-1. 日本市場:プライムは安定、小型株には割安ゾーンも

2025年5月時点、主要市場の平均PER/PBRは以下の通りです。

市場区分PERPBR
プライム市場15.6倍1.32倍
スタンダード市場13.9倍1.01倍
グロース市場51.4倍3.12倍

ここで私が注目しているのは、グロース市場の極端なPERです。

PER50倍超──これは“現在の利益”ではなく、将来の成長性を強く織り込んでいる状態。
つまり、「まだ利益は出ていないけれど、この企業は伸びるはずだ」と市場が見ているということです。

反対に、スタンダード市場ではPER13倍台・PBR1倍割れという、割安株が眠っている可能性があるゾーンでもあります。
私はこうした「数字が地味なエリア」こそ、よく観察するようにしています。なぜなら、市場が注目していない分、割安のまま放置されている宝が眠っていることもあるからです。

2-2. 米国市場:高PER・高PBRは“期待が高すぎるサイン”?

一方で、米国S&P500の数字は明らかに違います。

  • PER:21倍
  • PBR:5.3倍

この数字を見たとき、私の中でアラートが鳴りました。

「これはもう、企業の実力以上に、投資家の“楽観”が織り込まれている可能性があるな」と。

つまり、「企業の価値が上がったから株価が上がった」のではなく、期待で株価が先行したということ。
これを私は、“期待が評価を超えた瞬間”と表現しています。

2-3. 指標とあわせて「市場心理」も見る

PERやPBRが高くても、投資家が冷静であれば問題はありません。
でも、2025年5月時点では──

  • VIX指数(恐怖指数)が20台付近へ
  • 日銀は金利を0.5%に据え置き
  • 米国の利上げは頭打ち感があり、先行き不透明

こうした状況の中での高PER・高PBRは、「過度な期待」が積み上がっているようにも見えます。
私はこのような局面では、「一歩引いて数字を眺める姿勢」が必要だと考えています。

2-4. “業種別の指標差”が意味するもの

私が個別銘柄を見るとき、必ず意識するのが「同業種内でどうか?」という視点です。

たとえば──

  • 情報通信業は、PER20~30倍、PBR2倍以上がざら
  • 銀行業は、PER10倍前後、PBRは0.8倍など1倍割れ多数
  • 小売業では、PERが30倍以上つく企業もあれば、10倍以下の“放置銘柄”も

こうした違いを見ながら、「その数字が“業種平均と比べて高いか?低いか?”」を丁寧に見ていきます。

指標を数字として覚えるのではなく、**“文脈の中で判断する癖”**が、投資家にとっての重要な思考習慣です。

第3章|PERの基礎と注意点:高PER=危険?それとも期待の証?

「PERが30倍の企業があるんですが、買っても大丈夫でしょうか?」
そう聞かれたとき、私はいつも「PERの“高さ”よりも、“なぜ高いのか”を見ましょう」と答えます。

PER(株価収益率)は、株価が利益の何倍になっているかを表すシンプルな指標です。

  • 計算式はとても簡単で、PER = 株価 ÷ 1株あたり利益(EPS)
  • たとえば株価が2,000円でEPSが100円なら、PERは20倍です。

一見単純なようで、このPERという数字には**「今の市場が、その企業に何を期待しているか」**という“温度”が宿っています。


3-1. PERの目安は“絶対値”ではなく“文脈”で見る

一般的にPERの目安として──

  • 10倍以下:割安(だが、成長期待が低い可能性も)
  • 10~20倍:適正ゾーン(企業や業種によって上下)
  • 20倍以上:成長期待が高い or 一時的な利益低下状態
  • 50倍以上:利益がまだ少ない企業、または赤字復帰直後(特殊要因あり)

私が実務の中で見てきた感覚では、「PERが高いから危ない」という単純な評価は危険です。
大切なのは、**「そのPERの裏に、何が織り込まれているのか?」**という問いを持つことです。


3-2. PERが高くなる4つのパターン

高PERの企業には、いくつかの代表的なパターンがあります。

① 成長期待が非常に高い企業

  • 売上・利益が毎年20〜30%ペースで伸びているような企業。
  • 特にSaaSモデルやAI分野、DX関連などに多く見られる。
  • 「今は利益が小さくても、将来は利益が大きくなる」前提でPERが高くなる。

これは“将来の利益を先取りして、今の株価に織り込んでいる”状態です。

② 利益が一時的に落ち込んでいる企業

  • たとえば不祥事・災害・大型投資などで、当期の利益が激減。
  • でもその一過性要因が解消されれば、利益は元に戻ると見られている。

PERは分母に「利益」が入るため、利益が小さくなると一気に数値が跳ね上がるという注意点があります。

③ 赤字から黒字に転換した直後の企業

  • 赤字が続いた企業が黒字化に成功すると、EPSがギリギリ正になり、PERが数百倍になることも。

このケースでは、PERの絶対値は「参考程度」に見て、損益構造の変化と今後の安定性を見ることが重要です。

④ 利益水準が低いが、ブランドや将来性に評価が集まっている企業

  • 大手EC企業や宇宙開発系など、「利益はまだ先」のビジネスモデル。

こうした企業には、「PERが高いから危ない」と決めつけず、ビジネスモデルの特性や資本戦略を見抜く目が求められます。


3-3. 高PER銘柄が本当に危険になるとき

私が危険信号を感じるのは、成長ストーリーが崩れたのにPERが高止まりしているケースです。

  • 利益成長が鈍化し始めたのに株価だけが維持されている
  • 新規事業が期待外れに終わった
  • 市場環境が変化し、競争優位が薄れてきた

このようなとき、PERの高さは“期待の重荷”となって、株価の急落リスクを孕みます。

高PER=“評価が厳しい”状態でもあるということを、忘れてはいけません。


3-4. PERは「今の価格」を「未来の利益」で正当化できるか?という問い

最終的に、私がPERを見るときに投げかけるのはこの問いです。

「この企業が、今後3年〜5年で“いまの株価”を超えるだけの利益を出すだろうか?」

つまりPERとは、「株価に織り込まれている未来の姿と、実際の成長がかみ合うかどうか」を測る道具。
単なる「割高/割安」判定ツールではなく、**“未来と向き合うための数値”**なのです。


第4章|PBRの本質と誤解:1倍割れ企業は“宝の山”か“出口なき停滞”か?

「PBRが1倍を割っている企業って、お買い得なんですよね?」
そう聞かれたとき、私はまず「なぜ市場が“解散価値未満”と見なしているのかを見ましょう」と伝えます。

PBR(株価純資産倍率)は、企業の保有する純資産(BPS)と、現在の株価を比較する指標です。

  • 計算式:PBR = 株価 ÷ 1株あたり純資産(BPS)

純資産とは、資産から負債を引いた“正味の持ち分”のこと。
このPBRが1倍を割るということは、「株価が、その企業の帳簿上の解散価値を下回っている」状態です。

4-1. PBR1倍割れの意味:理論的には“お買い得”…でも

PBRが1倍を下回っている企業は、確かに「解散して資産を売却した方が得」という理屈が成り立ちます。
でも現実には、そう単純ではありません。

私がPBR1倍割れ企業を分析するとき、最初に探るのは以下の4点です。

  1. 資本効率(ROE)が著しく低くないか?
  2. 余剰資産が遊んでいないか?(現預金や政策保有株など)
  3. 経営陣が資本コストを意識しているか?
  4. 市場からの信頼(将来性、競争力)はあるか?

「PBRが低い=割安」ではなく、「なぜ低い評価が続いているのか?」という構造的な視点が欠かせません。

4-2. 実際にPBR1倍割れの企業は何を抱えているか?

PBRが0.2倍〜0.5倍といった水準の企業には、以下のような背景が見られます。

  • 過去の不祥事や災害(例:原発事故後のエネルギー大手)
  • 将来の収益見通しが極端に不透明(例:構造転換期の輸送業)
  • 過剰資本を抱えたまま株主還元を進めていない(例:大手金融機関)
  • デフレ慣れした経営が長期にわたり改善されていない

私はこのような企業を見るとき、あえて“ネガティブな期待”が織り込まれていると考えます。
つまり、PBRの低さは、株価が反映している「市場からの不信」のあらわれなのです。

4-3. 東証がPBR1倍割れ企業に変革を迫る理由

2023年、東京証券取引所が上場企業に対して**「PBR1倍割れ改善の努力を求める」**という強いメッセージを打ち出しました。

これは、日本企業が「ROEよりも安定」「成長よりも維持」を優先しすぎて、結果として資本コストを無視した経営になっていることへの“警鐘”でもあります。

私が評価するのは、この改革によって──

  • 自己株式取得や増配などの株主還元強化
  • 遊休資産の売却や投資効率の見直し
  • ROEを意識した成長戦略の再構築

こういった取り組みを本気で始める企業が増えてきたという点です。

PBR1倍割れの中に、“本気で変わろうとしている企業”があるかどうか──
それこそが、私が投資判断で最も注目している点です。

4-4. “買われざる優良株”と“割安なままの理由”を見極める

PBR1倍割れ企業の中には、純資産が厚く、現金や株式保有が豊富で、キャッシュフローも安定している──いわゆる“財務健全型”の企業が存在します。

でも、それでも株価が評価されない理由は、

  • 成長戦略の不在
  • 投資家との対話の欠如(IR不足)
  • 業種自体が斜陽扱いされている

…といった、“数字では見えにくい無風状態”が背景にあることが多いのです。

私がここで大切にしているのは、

なぜ買われていないのか?」という問いに答えられたときだけ、
この企業は報われる可能性があるか?」という希望を持つ価値があるということ。

第5章|セクター別で見るPER・PBRの違い:数字のバラつきには“理由”がある

「この企業、PERが30倍を超えてるんですが、割高ですよね?」
そう質問されたとき、私が必ずお伝えするのは──
その企業がどんな業界に属しているかによって、数字の意味はまったく違いますよ」ということです。

PERやPBRは、その数字単体では評価できません。
業種特性やビジネスモデルを前提にして、初めて“妥当な水準”が見えてくるのです。

ここでは、主要セクターにおけるPER・PBRの傾向を、実務的な目線から見ていきます。

5-1. ITセクター:PER・PBRが高くなる“成長前提型”の代表格

ITセクターでは、PERが30倍以上、PBRが3倍超〜6倍超になる企業も珍しくありません。

とくにSaaS(クラウド型ソフトウェア)やAI・データ解析関連の企業は、赤字が続いていても高PER/高PBRがつくことも多いです。

これは、市場が「今の利益よりも将来の利益」に強く期待している証拠。
つまり、“数字で判断する”というより、“数字の未来”で評価しているという構造です。

私がIT企業を評価する際に重視するのは、「今赤字かどうか」ではなく、その赤字が“投資”か“消耗”かを見極めることです。

5-2. 小売セクター:企業ごとの“成長ストーリー”で数字に差が出る

小売業界のPERは、10倍台の企業から30倍超の企業までバラつきが極端に大きい業界です。
一見同じ「販売業」でも、以下のような違いが数字に表れます。

小売企業のタイプPERの傾向PBRの傾向特徴
老舗チェーン型10~15倍0.8~1.2倍地方密着・低成長・堅実経営
高成長EC企業30~60倍2.0~5.0倍拡大フェーズ・赤字上場あり
専門業態15~25倍1.5~3.0倍業態特化で差別化戦略が明確

私が小売企業を分析する際は、**“売上”の規模感ではなく、“成長可能性と営業利益率の推移”**に注目します。

小売は「積み上げ型のビジネス」だからこそ、数年単位での店舗拡張・エリア展開を読み込むことが大切です。

5-3. 銀行・金融セクター:PBRが低いのは“期待の問題”

銀行業界は、業種全体としてPBRが1倍を下回ることが珍しくありません。

たとえば大手銀行グループでは、PBRが0.8倍前後、PERは10〜12倍という水準です。

なぜこれほど低く見られてしまうのか?──
私の見立てでは、主な要因は次の3つです。

  1. 低金利下での収益力の低迷(利ざや縮小)
  2. 伝統的なビジネスモデルに対する将来不安
  3. 投資家との対話不足・資本政策の硬直性

実際の財務体質は健全でも、「この先、どんな成長が描けるのか?」が見えない限り、PBRが1倍を回復することは難しいと私は感じています。

5-4. 製造業(自動車・電機・機械):資産の重さが数字に反映される

製造業は設備投資が大きく、有形資産を多く抱えているため、PBRが1倍を割れることも珍しくありません。
また、PERも12〜15倍程度と、過去の実績に基づいた“安定評価”がなされがちです。

ただ、PBR1倍割れの企業でも、実態は次のように分かれます。

  • 「評価されていないだけ」の潜在的優良株
  • 「資産が重すぎて身動きが取れない」企業
  • 「収益性が下がっているのに構造転換ができていない」企業

製造業では、固定資産回転率や営業キャッシュフローも併せて評価することで、数字の“重さ”の意味が浮かび上がります。

第6章|バリュー株とグロース株:数字から読み解く2つの投資哲学

「今買うなら、バリュー株とグロース株、どっちがいいですか?」
私がこの質問を受けたとき、こう答えるようにしています。
どちらにも“美味しい部分”と“消化不良な部分”があります。大事なのは、自分の戦略に合っているかどうかです

バリュー株とグロース株は、投資スタイルの対極にあるように思われがちですが、**それぞれに適した“視点”と“指標の読み方”**があります。

この章では、PER・PBRを軸に、2つの投資哲学の違いと見極め方を深堀りしていきましょう。

6-1. バリュー株:数字が示す「割安」はチャンスか、罠か

バリュー株とは、PERやPBRが市場平均より低い水準で放置されている株のこと。

たとえば──

  • PERが6~10倍程度
  • PBRが1倍を大きく下回る
  • ROEが低めで安定成長は期待しにくい

こういった企業は、**「数字上は明らかに割安」**に見えます。

でも、私はいつもこう自問します。

なぜ、この企業は市場から“見放されている”のか?

本当に見過ごされているだけなのか?
それとも、成長力がない、経営が動かない、将来に明るい話題がない──
「割安な理由がある」のかもしれません。

私がバリュー株に投資する場合、その会社が──

  • 資本効率改善の意志を持っているか?
  • 経営陣が市場と対話しているか?
  • ROE・ROAが将来改善する兆しがあるか?

これらを必ずチェックします。

6-2. グロース株:PER・PBRは“期待の可視化”

グロース株は、将来の成長が織り込まれている企業。
多くのケースで──

  • PERが30倍以上
  • PBRが2倍~5倍超
  • 利益成長率が年20%以上の実績・予想あり

こうした銘柄に対して、私はこう考えます。

この企業の“期待の重さ”は、今の実力に見合っているか?
PER・PBRの高さに、“過剰な思い込み”は含まれていないか?

グロース株では、PERが高くても、

  • EPSが年20%ずつ増加している
  • 営業CFが成長をしっかり支えている
  • 事業の再現性が高い

──このような条件を満たしていれば、高PER=リスクではなく、評価に値する投資先だと判断します。

6-3. セクター別のバリュー・グロース対比:数字の“幅”で見る真の姿

同じ業種内でも、PER・PBRは企業ごとに全く異なります。

🔹たとえば小売業では──

タイプPERPBRコメント
地方密着型チェーン店7.3倍0.55倍安定型だが成長乏しい
急成長ECベンチャー65.5倍11.1倍拡大フェーズ・期待先行

🔹IT業界でも──

タイプPERPBRコメント
受託開発老舗企業10.6倍2.6倍成熟型・安定収益
AI・SaaS新興企業100倍7.8倍赤字でも高評価

このような“数字の幅”を読むとき、私が大切にしているのは、

数字を見て驚くよりも、数字の意味を考えること

高すぎるPERにびっくりして投資を避けるのではなく、
低すぎるPBRを見て飛びつくのでもなく、
“なぜこの数字がついているのか”という問いを繰り返すことが、投資判断の深みを生みます。

第7章|会計特殊要因とPBRの変動:数字の“揺れ”をどう読み解くか?

「のれんの減損でPBRが急変したんですが、どう見るべきでしょう?」
そんな相談を受けたとき、私はまず**“一時的な会計処理なのか、構造的な価値毀損なのか”**を見極めるようにしています。

PBR(株価純資産倍率)は、「株価÷1株あたり純資産(BPS)」で求められる指標です。
つまり、純資産が変動すれば、株価が同じでもPBRは上下します。

ここで注意が必要なのが、“会計上の一時的な要因”で純資産が大きく変動するケースです。
それによってPBRが急上昇・急低下しても、「企業の本質的価値が変わったとは限らない」のです。

7-1. 会計処理によるPBR変動の代表例3つ

① のれんの大規模減損

M&Aによって計上された「のれん」が、買収後の業績不振により価値を失ったと判断されると、一括で減損処理が行われます。

この減損損失は純資産を直接減少させるため、BPSが大きく減少→PBRが相対的に上昇することになります。

ただし、減損があっても市場が「織り込み済み」と見ていれば、株価はほとんど動かないこともあります。

🔹【事例(名称伏せ)】
かつて海外大型買収を行った某重電メーカーは、のれん減損により純資産が数千億円規模で減少。
株価はその前から下落傾向にあり、「PBRの見た目」は一時的に改善したという逆転現象が起きました。

② 子会社や事業の売却に伴う評価損・再編損失

事業ポートフォリオの再編で子会社を売却する際、帳簿価額を下回る売却額になると、評価損(減損損失)や特別損失が計上されます。

この場合も、BS(貸借対照表)上の純資産が縮小→PBRが変動する原因となります。

🔹【事例(名称伏せ)】
非鉄金属関連企業が事業売却を発表した際、数百億円規模の評価損を計上し、PBRは0.9倍から1.1倍に上昇。
数字だけを見れば改善ですが、実態は縮小均衡の結果でした。

③ 負ののれん(バーゲン価格での買収)

M&Aで、買収した企業の純資産より“安く”買えた場合、その差額は**「負ののれん」として特別利益に計上**されます。
この利益が加わると、純資産が増加し、PBRが低下する場合もあります。

つまり、PBRが下がったからといって、「割安になった」とは言い切れません。財務会計のマジックを正しく解釈する力が必要です。

7-2. 会計上の数字は「静的な結果」:重要なのは“構造と継続性”

私が実務で何度も目にしてきたのは、**「数字に飛びついた投資家が、構造を見誤る」**パターンです。

たとえば──

  • 大きな減損でBPSが下がり、PBRが“よく見える”
  • 特別利益で一時的にROEが上がる
  • 自己株式取得でPBRが下がる(でも本業が低迷している)

このようなとき、私は必ずクライアントにこう問いかけます。

「その数字は、来年も続きますか?」
「経営者が自分でコントロールできる要素ですか?」

PBRの変化は“資本政策や会計処理による演出”も多い。
だからこそ、私たち投資家は「見た目の改善」ではなく、“中身の変化”を見抜く力が求められるのです。

第8章|実例で読み解くPER・PBRのリアル

「具体的に、どんな企業が高PER・低PBRになってるんですか?」
そう聞かれたとき、私はこう答えるようにしています。
社名よりも、数字の構造を見る方が大事です。数字は嘘をつかないけれど、誤解されることはあるんです

この章では、実在企業のデータを基に紹介します。
投資判断のリアリティを高めるための“ケーススタディ”として、PER・PBRを構造的に読み解いていきます。

8-1. ある自動車大手メーカーA社:PBR0.9倍でも高収益

🔹PER:10.9倍 PBR:0.9倍

  • 国内外で圧倒的なブランド力と販売台数を誇るが、PBRは低水準にとどまる
  • 利益剰余金が極めて厚く、純資産が大きく膨らんでいるため、相対的にPBRが抑えられている

私はこの企業を「資産効率より、規模と安定感が支配するタイプ」と見ています。
安定性がある一方、成長性や資本戦略への評価が控えめであることが、PBRの天井を押さえている印象です。

8-2. 通信持株会社B社:赤字でPERマイナス、PBRも1倍割れ

🔹PER:-45.7倍(赤字) PBR:0.85倍

  • 子会社の含み益を背景にNAV(純資産価値)ベースで評価する投資家が多い
  • しかし、直近は赤字計上、複雑な資本構造によりPERは算出不能に近い
  • 株価は一定水準を保っているため、PBRが割安に見える構造

このタイプの企業は、「利益よりも資産価値」「キャッシュフローよりもビジョン」で評価されやすい。
ただし、**複数の思惑が交錯する投資家心理によって、PBRやPERの数字が“機能しにくい”**ケースといえます。

8-3. 海外IT大手C社:PER30倍超、PBRは驚異の40倍以上

🔹PER:30.4倍 PBR:43.6倍

  • 業績は好調、ブランド力は世界トップクラス
  • 自社株買いと高収益のループでROEが極めて高く、PBRが跳ね上がる構造

私がこの企業を評価するポイントは、「なぜこのPBRが許容されているのか?」という問いです。
ブランド、収益、将来のイノベーション──それらが一体となって、“高くても買いたい”と思わせる説得力があるかどうか。

8-4. 赤字でもPER100倍超のグロース企業D社:評価されるのは利益ではない

🔹PER:100倍以上、PBR:10倍以上

  • 赤字縮小フェーズで黒字化目前の状況
  • サブスクリプションモデルを展開し、解約率が低く継続性の高い収益構造
  • 利益はまだ出ていないが、売上成長率・顧客LTV・CAC比率が高く評価されている

私がこのような企業を見るとき、「会計上の黒字化」よりもビジネスモデルの持続性と拡張性を重視します。
数字ではマイナスでも、マーケットが“将来の勝ち筋”を感じているなら、PERの異常値はあえて受け入れるべきときもあるのです。

第9章|他の指標もチェック:ROE・配当利回り・成長率をどう活かすか?

「PERやPBRだけで投資判断してもいいんでしょうか?」
そう聞かれたとき、私はいつもこう答えます。
数字は組み合わせて見るからこそ意味が出てくる。PERも、PBRも、ROEも、全部“点ではなく線”で読み解くのがプロの視点です。

これまでの章では、PER・PBRという2大評価指標を軸に、企業の株価と中身のギャップを読み解いてきました。
でも、実務の世界では、**これだけでは“判断材料としては半分”**です。

ここからは、ROE(自己資本利益率)・配当利回り・成長率といった指標も交え、多角的な投資判断のフレームを構築していきましょう。

9-1. ROE(自己資本利益率):株主目線で「効率」を見る

ROEは、株主が出したお金(自己資本)を、企業がどれだけ効率的に回して利益を生み出しているかを示す指標です。

  • 計算式:ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100(%)

🔹 一般的な目安:

  • ROE 8~10%以上 → 優良企業
  • ROE 5%未満 → 資本効率に課題あり

🔹 私の実務感覚として:

  • PBRが1倍割れの企業は、たいていROEも5%未満
  • ROEが高いのにPBRが低い企業は、“市場がまだ気づいていない優良株”の可能性もある

「ROEが高い会社」は、株主の立場から見て「少ない資本でしっかり稼げる」会社
逆に、ROEが低いまま放置されている企業は、たとえ利益があっても「使い方が下手」という見方をされることもあります。

9-2. 配当利回り:インカム派にとっての“リターンの柱”

配当利回りは、「いくらもらえるか?」という“今のリターン”を示す指標です。

  • 計算式:配当利回り = 年間配当金 ÷ 株価 × 100(%)

🔹 平均値と目安:

  • 東証プライムの平均:2.4%程度(2025年3月時点)
  • 4%以上なら「高配当」ゾーン

ただし、高配当=優良株とは限りません。

配当性向が高すぎる企業(利益のほとんどを配当に回している)は、将来への投資余力が少なく、配当維持が難しくなる可能性もある。

私が高配当銘柄を見るときは──

  • 営業キャッシュフローの安定性
  • 過去5年の配当推移(増配 or 減配)
  • ROEとのバランス(稼いだお金で払っているか?)

──をセットで確認するようにしています。

9-3. 売上・利益の成長率:PERの裏付けとなる“実力”

PERは「未来への期待」ですが、売上・利益の実績成長率が伴っていなければ、数字は砂上の楼閣です。

実務では、EPS成長率(1株当たり利益の成長)を見ると、PERとの整合性が判断しやすくなります。

🔹 例:

  • EPSが毎年20%成長 → PER30倍でも妥当なケースあり
  • EPSが横ばい or 下落 → PER15倍でも割高に感じることも

私がよく使うのは、**CAGR(年平均成長率)**という考え方。

  • 直近3年〜5年でEPSがどの程度成長しているか
  • 増収増益が「構造的」か、「一時的」か

これらを見ながら、「PERは期待値だけど、EPSはその期待に応えた実力か?」を検証するのです。

第10章|投資初心者向け:指標リテラシーを育てるおすすめ学習リソース

「PERやPBR、ROEって、正直ちょっと難しいです……」
そんな声を聞くことは少なくありません。
でも、安心してください。数字は“慣れ”と“ストーリー”で必ず身につきます。

この章では、「まずはここから」という投資学習リソースと、私が実務で薦めてきた**“勉強→実践→検証”の3ステップ**をご紹介します。

10-1. 公的機関の無料セミナー・教材

まず最初にお勧めしたいのが、公的機関が提供している学習プログラムです。
広告やセールスがなく、情報の中立性が高いのが最大のメリット。

✅ 金融庁「投資入門ガイド」

  • 株式、投資信託、NISA制度の基礎がまとまっているPDF教材
  • 最新制度にも対応しており、初心者でも読みやすい

✅ 金融経済教育推進機構(J-FLEC)

  • 全国各地で開催される無料セミナー
  • 学校・自治体・企業にも講師派遣
  • 現場のリアルなQ&Aが体験できる

「相談できる相手がいる」と感じられるだけで、投資への心理的ハードルはぐっと下がります。

10-2. 民間企業や投資家による無料講座・解説サイト

次におすすめしたいのが、初心者向けに体系化された無料講座・学習メディア

✅ ファイナンシャルアカデミー「お金の教養講座」

  • 無料で参加できる投資入門講座(NISA・iDeCo中心)
  • オンライン開催あり、繰り返し視聴も可

✅ man@bow(マネー教育メディア)

  • 野村ホールディングスと日経新聞が運営
  • 投資の原則、リスク管理、用語解説が豊富

✅ カブスル/みんかぶ

  • 実在の株価チャートやPER/PBRのランキングを定期更新
  • 「実データを見ながら学ぶ」には非常に有効

10-3. 実践ステップ:小さな金額で“指標を使う練習”を

学んだ知識は、「触れる」ことで“血肉”になります。
私は初心者の方には、以下のような実践→フィードバック型の学習を勧めています。

🧩 ステップ1:PER・PBRを条件にしたスクリーニングをやってみる

  • Yahoo!ファイナンスやSBI証券のスクリーニング機能で
     「PER15倍以下 × ROE10%以上 × 配当利回り3%以上」などの条件で抽出

🧩 ステップ2:抽出された企業の決算短信を2社だけ読む

  • 売上/営業利益/EPSの推移と、「なぜこの数字なのか」を想像してみる

🧩 ステップ3:1社だけ小額(NISA枠でもOK)で投資して、1年追いかけてみる

  • 「自分の選んだ指標で、どこまで未来が読めたか?」を振り返る

「わかったつもり」を「使える」に変えるには、“紙の上の知識”を“体感”に落とし込むことが唯一の近道です。

第11章|まとめ:PER・PBRは“入り口”にすぎない

「PERが割安、PBRが1倍以下──それだけで買っても大丈夫ですか?」
そんな質問をいただいたとき、私はこう返します。
それは、“はじめの一歩”としては正解。でも、最後の判断材料ではありません

ここまでPERとPBRの意味、使い方、落とし穴までを見てきました。
けれど、実務や個人投資家としての経験から言えるのは──
**「指標は“判断の地図”であって、“答えそのもの”ではない」**ということです。

11-1. 単体の数字ではなく、ストーリーを見る

PERが低くても──その企業が構造的に成長が止まっていたら、株価は低迷したままかもしれません。
PBRが高くても──圧倒的ブランドとキャッシュフローがあれば、割高ではなく「正当な評価」かもしれません。

私が投資判断を下すときは、いつもこの順序で考えています。

  1. 数字を見る(PER・PBR・ROEなど)
  2. 背景を読む(なぜその水準なのか)
  3. 未来を想像する(改善・成長の可能性)
  4. 実行可能性を測る(経営者・市場環境・資本政策)

11-2. PER・PBRを“投資判断の座標軸”に

指標はたしかに便利です。
でも、それを「買う理由」にしてしまうと、予想外の変化に弱くなってしまいます。

私が伝えたいのは、「指標を“視点”に変えること」
たとえば──

  • 「この会社、利益の伸びに対してPERが高すぎないか?」
  • 「PBRが1倍を割っているけど、それは資本効率が悪いからか?」
  • 「ROEが改善しているのにPBRが上がらないのは、IR不足が原因かもしれない」

──そんな問いが、自分の中から自然に湧いてくるようになったとき、
あなたはもう“数字を使える投資家”です。

11-3. 投資に絶対はない。だからこそ、武器を持つ

株式投資にはリスクがあります。
元本が保証されているわけでもなければ、未来の業績が予想通りに進むとも限りません。

だからこそ、PERやPBRのような「数字の物差し」を持ち、
ROEや配当利回り、キャッシュフローまで含めた“構造理解”を深めていくことが、“静かで強い”投資判断力につながるのです。

積み重ねた理解は、騒がしいニュースにもSNSの熱狂にも振り回されなくなります。
あなたの中にある“自分の評価軸”が、最も信頼できる指標になるからです。

第12章|免責事項と次のアクション

🔸 投資は「自己責任」であるとともに「学びの積み重ね」でもある

本記事は2025年時点の情報をもとに執筆されています。制度や市場状況、企業の業績等は将来にわたって変動する可能性があります。
また、PER・PBR・その他財務指標は企業の過去または予想値をもとに算出されるものであり、将来の株価や利益を保証するものではありません

投資には元本割れのリスクが伴います。
利回り・配当・企業の成長性は、あくまで将来の見通しであり、確定的な成果を約束するものではありません。

🔸 こんなときは「静かな投資」でいい

「今の市場、何を信じて動けばいいかわからない」
そう感じたときは、無理に答えを出そうとしなくても大丈夫です。
焦らず、自分の理解を深めることこそが、未来の選択肢を広げてくれます。

Quiet Money Labは、“静かに、じっくり、資産を育てたい”あなたの味方です。
数字と構造を正しく見抜く力は、一度身につければずっと使える武器になります。

またいつでも戻ってきてください。
ここには「自分の軸で判断するためのヒント」が、いつも用意されています。

出典:
政府広報オンライン|「金融リテラシー」って何? 最低限身に付けておきたいお金の知識と判断力 | 政府広報オンライン
日本証券業協会|証券投資の基本ガイド
ロイター通信|焦点:勢い衰えない米株上昇、過熱の兆候も市場の大勢に逆らえず | ロイター
ロイター通信|米企業利益見通し、年初来で4.5%ポイント低下 関税懸念で | ロイター
日経電子版|国内株式指標 :株式 :マーケット :日経電子版

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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