仕入税額控除の仕組みと計算方法をわかりやすく解説|積上げ・割戻し・個別対応方式とは

目次

第1章|仕入税額控除の概要と二方式比較

税額控除の基本的な仕組みとは

消費税は、取引の各段階で課される仕組みを採っています。たとえば、製造、卸売、小売といった流れの中で、それぞれの段階で商品やサービスの取引が発生するたびに課税されるのが特徴です。
ただし、各段階で累積的に消費税が加算されると、最終的に消費者がそのすべてを負担することとなり、取引実態に対して過大な税負担が生じてしまう可能性があります。

これを回避するため、現行の消費税法では「前段階税額控除方式」を採用しています。つまり、売上に対して計算された消費税額から、仕入時に支払った消費税額を差し引く形で、納付すべき税額を算出するという仕組みです。
この控除される部分を「仕入税額控除」といいます。

なお、課税売上について値引きや貸倒れなど一定の事実が発生した場合には、消費税額の調整が認められています。
また、一定の中小事業者に配慮し、仕入に係る消費税額の計算に簡便な方式(簡易課税制度)を利用できる場合もありますが、本章ではあくまで一般課税方式に基づく仕入税額控除の基本構造に焦点を当てて解説します。

仕入税額控除の対象とされる取引の範囲

課税事業者が国内において行った課税仕入れ、特定課税仕入れ、あるいは保税地域から引き取った課税貨物は、いずれも仕入税額控除の対象となります。
これらをまとめて「課税仕入れ等」と呼びます。
仕入税額控除の適用に際しては、課税仕入れ等を行った日の属する課税期間における課税標準額に対する消費税額から、その課税仕入れ等に係る税額を控除することになります。

また、令和5年10月1日以後は、いわゆる「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が導入されており、適格請求書発行事業者からのインボイスの保存が、控除の要件として追加されています。

二つの計算方式:積上げ計算と割戻し計算

請求書等積上げ計算と帳簿積上げ計算

仕入税額控除の算出には、主に「積上げ計算」と呼ばれる方式が用いられます。この方式には、以下の二つのパターンがあります。

  • 請求書等積上げ計算
    適格請求書等に記載された課税仕入れに係る消費税額等の合計額に78/100を乗じる方式です。
    課税仕入れに係る消費税額=インボイスに記載の消費税額×(78/100)
  • 帳簿積上げ計算
    帳簿に記載された課税仕入れ等の消費税額に78/100を乗じて算出する方式です。

これらはいずれも、課税仕入れの金額ベースではなく、インボイスや帳簿記載の「消費税額等の合計額」を基に計算を行う点が共通しています。

また、帳簿に記載する際は、課税仕入れごとに10/110(軽減税率適用時は8/108)を乗じた金額を仮払消費税額として記録する必要があります。その際、1円未満の端数が生じた場合には、切捨てや四捨五入といった端数処理が行われます。

割戻し計算(特例的な方法)

積上げ計算とは異なる手法として、「割戻し計算」という方式もあります。こちらは、課税仕入れに係る支払対価の総額に対して、7.8%を乗じて税額を求めるという方法です。

課税仕入れに係る消費税額=支払対価の額×(7.8/110)

この方式は、令和5年9月30日以前には原則的な方法として広く利用されていました。なお、軽減税率が適用される場合の計算式は、6.24/108となります。

売上税額との整合性にも注意が必要

仕入税額控除の計算方式を選択する際、売上税額を積上げ計算で計算する場合には、仕入税額も積上げ計算を用いなければなりません(売上税額を割戻し計算する場合には、仕入れ税額は積上げ計算または割戻し計算のいずれかを選択可)。

一方で、売上税額に関しては積上げ計算と割戻し計算の併用が認められていますが、仕入税額側ではこれらの併用は認められていません。この点は実務上も留意が必要なポイントといえます。

インボイス保存要件と帳簿保存のルール

インボイス制度の導入により、適格請求書(インボイス)の保存が仕入税額控除の要件となりました。
適格請求書を交付できるのは、税務署長の登録を受けた適格請求書発行事業者に限られます。
この登録は、課税事業者であれば受けることが可能です。

適格請求書等の保存期間は、原則として7年間とされており、仕入税額控除を適用するうえでの前提条件となっています。
また、保存すべき請求書等が交付されない場合には、インボイス制度導入に伴う経過措置として、控除が認められるケースもありますが、以下の制限があります。

  • 令和5年10月1日から令和8年9月30日まで:仕入税額相当額の80%
  • 令和8年10月1日から令和11年9月30日まで:仕入税額相当額の50%

帳簿には以下のような記載が必要です。

  • 【課税仕入れの場合】
     ①相手方の氏名または名称
     ②取引日
     ③取引内容(軽減税率対象品目である旨を含む)
     ④支払対価の額

  • 【特定課税仕入れの場合】
     上記①~④に加え、
     ⑤その仕入れが特定課税仕入れである旨の記載

帳簿上、軽減税率の対象となる商品がある場合には、その旨を明確に記載し、税率ごとの区分経理を行う必要があります。

端数処理に関する実務上の注意点

インボイス制度においては、消費税額の端数処理方法についても明確なルールが設けられています。従来は商品やサービスごとに個別に端数処理を行い、それらを合計する方式が多く見られましたが、インボイス制度下では、一つの請求書全体として税率ごとに合計したうえで1回だけ端数処理を行うこととされています。

そのため、従来の計算方式から移行する場合には、端数処理の方法が請求書上の表示金額と一致しているか、改めて確認することが求められます。切上げ、切捨て、四捨五入といった処理方法自体は従来と変わりませんが、処理の単位が異なる点に注意が必要です。

第2章|課税仕入れ・特定課税仕入れの判定

「課税仕入れ」とされる取引とは

仕入税額控除の対象となる取引を適切に判定するうえで、「課税仕入れ」とされる取引の範囲を正確に理解しておくことが重要です。
ここでいう課税仕入れとは、事業者が事業として他の者から資産の譲渡、貸付けまたは役務の提供を受けた場合のことを指します。

たとえば、商品の仕入れはもちろんのこと、事務用品、消耗品、固定資産などの購入も含まれます。
役務の提供についても、事務所の賃借や専門家への報酬のように、対価を伴って継続的に受けるサービスが対象となることがあります。

ただし、非課税や免税、不課税とされる取引については、たとえ支出があっても「課税仕入れ」とはみなされません。たとえば、土地の購入や住宅の貸借、一定の金融取引などが該当する可能性があります。このように、すべての支出が自動的に控除対象になるわけではなく、その内容と課税関係を個別に判断する必要があります。

また、相手方が事業として行った取引であることも要件となります。
たとえ一見課税仕入れに該当しそうな内容であっても、相手が事業者でない場合や、事業として行われた取引でない場合には、仕入税額控除の対象とはなりません。

なお、給与等を対価とする役務の提供については、課税仕入れには含まれません。
これは、所得税法上の給与所得に該当するためであり、仕入税額控除の制度の趣旨とは異なる扱いとなります。

「特定課税仕入れ」との違い

次に、「特定課税仕入れ」についても整理しておきましょう。
特定課税仕入れとは、課税仕入れのうち、一定の取引に該当するものをいいます。主に国外事業者から受ける役務の提供などがこの範囲に含まれ、いわゆる「リバースチャージ方式」が適用される取引が該当します。

このような特定課税仕入れに該当する取引については、仕入側が消費税の納税義務を負うこととなります。
つまり、課税対象であるにもかかわらず、供給側から消費税の請求を受けないため、受け手である事業者自らがその分の税額を申告・納付しなければならないという考え方です。

この点は通常の国内取引とは異なり、課税関係の責任が移転していることから、帳簿上の処理や税額控除の計算にも特有の留意点があります。

なお、特定課税仕入れに該当するものについては、その事実を明確に帳簿に記載しなければならないとされています。帳簿記載事項としては、通常の課税仕入れに加え、「特定課税仕入れに係るものである旨」の明記が必要です。

輸入取引における課税貨物の取扱い

仕入税額控除の対象には、保税地域から引き取る課税貨物に係る取引も含まれます。
この場合、納税義務者は、保税地域から貨物を引き取る輸入者自身となります。つまり、国内取引とは異なり、免税事業者であっても納税義務を負うことになります。

このときの課税標準は、関税の課税価格、関税額、そして酒税やたばこ税などの個別消費税額を加えた金額となります。
課税価格は通常、CIF価格に基づいて算定され、そこに関税等を加えた合計額に消費税率を乗じて税額が算出されます。

具体的には、次の式により算定されます。

  • 消費税額=(関税の課税価格+関税額+個別消費税額)×7.8%
  • 地方消費税額=消費税額×(22/78)

このように計算された消費税額については、いったん輸入者が納税し、その後、国内での課税標準額に対する消費税額から控除する形で仕入税額控除が適用されます。

控除を受けるには、税関長から交付された「輸入許可書」等の政令で定める書類の保存が必要です。インボイス制度の導入に伴う実務上の変更はなく、引き続き書類保存により対応することとなります。

95%ルールと区分経理の要否

仕入税額控除においては、事業者の「課税売上割合」が重要な判断基準となります。
課税売上高が5億円以下で、かつ課税売上割合が95%以上である場合には、課税仕入れに係る消費税額の全額を控除することが認められます。

一方で、課税売上高が5億円を超える場合や、課税売上割合が95%未満である場合には、一定の方法に基づいて控除可能な税額を算定する必要があります。具体的には、個別対応方式または一括比例配分方式による計算が求められます。

このような場合、帳簿上でも課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」なのか、「非課税資産の譲渡等にのみ要するもの」なのか、あるいは「共通して要するもの」なのかという区分が必要となり、いわゆる区分経理が求められます。

また、保税地域から引き取った課税貨物の消費税額や、特定課税仕入れに関しても同様に、これらの方式に則った判定が必要とされます。

このように、課税売上割合が95%未満となる場合には、日々の経理処理においても取引ごとの分類と整理をより丁寧に行う必要があります。実務においても、区分の明確化と記録の正確性が求められる場面といえるでしょう。

第3章|仕入控除税額の計算例とインボイス連携

控除対象仕入税額の基本的な計算構造

仕入税額控除を実際に適用するためには、課税仕入れ等に係る消費税額を適切に把握し、課税売上との関係に応じて控除額を算定する必要があります。
特に、課税売上高が5億円を超える場合や、課税売上割合が95%未満である場合には、控除の対象となる仕入税額を個別に区分して計算しなければなりません。

このようなケースにおいては、「個別対応方式」または「一括比例配分方式」のいずれかにより計算を行うことになります。選択する方式によって控除額に差が生じる可能性があるため、実務上は慎重な検討が求められる場面です。

個別対応方式による計算方法

個別対応方式では、課税仕入れ等に係る消費税額をその用途に応じて次の三つに区分します。

  • 課税資産の譲渡等にのみ要するもの
  • 非課税資産の譲渡等にのみ要するもの
  • 課税資産と非課税資産の譲渡等に共通して要するもの

このうち、控除の対象となるのは、次の算式によって求められる金額です。

控除対象仕入税額=課税資産の譲渡等にのみ要する仕入れ税額+共通部分の仕入れ税額×課税売上割合

たとえば、販促用のチラシ印刷費や水道光熱費など、課税売上と非課税売上の双方に共通して必要となる支出については、課税売上割合を用いて案分計算が行われます。

この方式は、取引の実態に即した計算が可能となる一方で、帳簿や証憑の区分管理が煩雑になることが避けられません。仕訳や記帳時点で明確に分類しておくことが、後々の申告実務を円滑に進めるうえでのポイントになります。

一括比例配分方式の考え方

一方で、一括比例配分方式は、課税仕入れ等全体の消費税額に対して課税売上割合を乗じて控除額を算出する方法です。

具体的には、以下の式により求められます。

控除対象仕入税額=課税仕入れ等の税額合計×課税売上割合

この方式は、個別の用途区分が明らかでない場合や、納税者が任意に選択した場合に適用されます。手続面では比較的簡便ですが、適用にあたっては慎重な判断が求められます。

なお、一括比例配分方式を選択した事業者は、2年間継続して適用しなければ個別対応方式へ変更できません。
この制限は、方式の選択が任意であるとはいえ、頻繁な切替によって課税ベースを恣意的に変動することを防ぐ目的があります。

課税売上割合の変動に伴う調整の仕組み

調整対象固定資産を取得した場合には、取得時点の課税売上割合と、3年後の通算課税売上割合(簡単に言うと3年間の通算課税売上割合)との間に著しい変動があるときに、控除税額の加減算が必要となります。

調整対象固定資産とは、税抜支払対価の額が100万円以上である棚卸資産以外の資産をいいます。建物や設備、一定の無形資産などが含まれます。

たとえば、課税売上割合が取得時と比べて大きく変動した場合には、次の両方に該当する場合調整対象となります。

  • (当初課税売上割合-通算課税売上割合)/当初割合≧50%
  • 当初課税売上割合-通算課税売上割合≥5%

この両方を満たすとき、3年目の課税期間において以下の調整が行われます。

  • 通算割合が高くなった場合:調整対象基準税額をもとに計算された調整額を加算
  • 通算割合が低くなった場合:調整対象基準税額をもとに計算された調整額を減算
    ※調整対象基準税額:固定資産についてその仕入れ等の課税期間において計算された課税仕入れ等に係る消費税額

調整対象基準税額は取得時点の税率に基づいて算定され、税率が異なる資産が混在する場合には区分ごとの計算が必要となります。

転用による調整対象固定資産の加減算

固定資産を課税用・非課税用間で転用した場合にも、控除仕入れ税額の加減算が行われます
これは、例えば課税仕入れ時に非課税業務用として全額控除対象外とされた資産を、後に課税業務用へ用途変更した場合などが該当します(課税業務用から非課税業務用へ転用した場合も該当します。)。

転用の時期によって加算または減算する金額は次のとおりです。

  • 1年以内の転用:調整対象税額全額
  • 1年以上2年以内:2/3相当額
  • 2年以上3年以内:1/3相当額

このような転用事例は、教育施設や医療法人、不動産賃貸事業など、用途が変化する可能性のある業態で想定されることがあります。いずれにしても、転用日が属する課税期間での適切な申告が求められます。

インボイス制度との連動と実務上の注意点

仕入税額控除の計算にあたっては、インボイス制度との連動性にも十分留意が必要です。個別対応方式・一括比例配分方式を問わず、いずれもインボイスや帳簿への記載内容が制度上の要件を満たしていなければ控除は認められません。

また、インボイスの端数処理についても、税率ごとに一度だけ端数処理を行うルールに変更されています。従来のように各商品単位で処理する方法は、現行制度下では認められていません。消費税額の正確な算出のためには、この点も確認が必要となります。

免責事項

本記事は、課税事業者が行う仕入税額控除の概要および計算方法について一般的な情報提供を目的として作成したものです。

当記事の内容をもとにした申告、会計処理、その他の実務判断について発生したいかなる結果についても、執筆者および運営者は一切の責任を負いかねます。
実務上の対応に際しては、必ず専門家の助言を得たうえで、最新の法令や制度を確認するようお願いいたします。

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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