「うちは財産なんて大してないし、相続でもめることなんてないはず」
そう思っていたご家庭で、遺産分割をきっかけに兄弟姉妹の関係が壊れてしまった──。
筆者がこれまで見てきた中でも、相続トラブルの多くは“想定外の誤解”から始まっていました。
事実、家庭裁判所で扱われた遺産分割事件は5年で約10%を超えて増加しています。
その主因は、財産の大小ではなく「分けにくさ」と「納得できない」という感情のすれ違い。
特に不動産といった、評価や分配の方法に意見が分かれやすい財産が絡むと、話は一気に複雑になります。
そして、その複雑さを乗り越えるための出発点こそが、今回のテーマである**「法定相続分」と「遺留分」**です。
誰がどれくらいの割合で相続できるのか。それは法律でどう決まっていて、どこまで自由に変えられるのか。
こうした基本を知らずに話し合いを始めてしまうと、相続人同士の信頼関係が傷つき、法律トラブルに発展するリスクさえあります。
本記事では、
- 民法に定められた「法定相続分」
- 相続人が最低限受け取れる権利「遺留分」
この2つをわかりやすく解説し、トラブルを未然に防ぐための土台をつくっていきます。
図解や代表事例を交えながら、「うちの場合はどうだろう?」とイメージできるよう、読みやすさにも配慮しました。
専門家の視点も交えながら、誰にでも理解できるよう丁寧に書いていますので、どうぞ安心して読み進めてください。
第1章|法定相続分とは何か──民法で定められた“公平の起点”

1-1. 法定相続分とは
相続が発生したとき、「誰が」「どれだけの割合で」遺産を受け取るか。
この取り分を法律で定めた割合のことを、「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」といいます。
日本の民法では、遺言がない場合に備えて、相続人の取り分をあらかじめ明文化しています。
その内容が定められているのが、**民法第900条**です。
1-2. 民法第900条(現行条文・全文)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次に掲げる各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
1-3. 家族構成別の法定相続分:代表パターンを理解する
■ ケース①:配偶者+子ども(1人または複数)
- 配偶者:1/2
- 子どもたち:残り1/2を等分
■ ケース②:配偶者+父母など直系尊属
- 配偶者:2/3
- 直系尊属:1/3(両親なら各1/6)
■ ケース③:配偶者+兄弟姉妹
- 配偶者:3/4
- 兄弟姉妹:1/4(複数なら等分)
■ ケース④:配偶者なし・子のみ
- 子どもたちで等分(例:2人なら1/2ずつ)
■ ケース⑤:兄弟姉妹のみ(子・直系尊属なし)
- 全血兄弟:等分
- 半血兄弟:全血の1/2の取り分
1-4. 「法定相続分」は目安であって絶対ではない
ここまでで見たように、民法900条で定められた相続分はあくまで「法律が定めた標準値」です。
遺言が存在する場合や、相続人全員が合意して分割協議を結ぶ場合には、この割合と異なる配分も可能です。
つまり、
- 遺言書があれば、基本的にそこに従う
- 遺言がなく、合意もできなければ、法定相続分が適用される
という流れになります。
特に遺産に不動産が含まれる場合は、法定相続分どおりに「物理的に分ける」ことが難しく、代償金の支払いや**売却して現金化する(換価分割)**などの工夫が必要になります。
こうした話し合いの基礎を作る意味でも、まずはこの法定相続分の理解が欠かせません。
まとめ:最低限の“取り分”を守るための「遺留分」とは?
第1章では、民法で定められた相続人の“取り分”=法定相続分を解説しました。
しかし実際の相続では、「遺言によって法定相続分を無視された」「自分だけ遺産ゼロになった」という不公平も起こり得ます。
こうした場合に一定の権利を保証してくれる仕組みが、次章で解説する「遺留分」です。
誰が対象で、どれだけの割合が守られるのか。
そして、それがどのように請求できるのか――。
次章ではこの「遺留分」の仕組みを、丁寧に読み解いていきます。
第2章|遺留分とは何か ―― “取り分ゼロ”を防ぐ最低限のルール

はじめに:そもそも「遺留分」って何?
相続には「法定相続分」と「遺留分」という2つの“取り分のルール”があります。
前章で説明した「法定相続分」は、遺言がなかったときに遺産をどう分けるかの“基準”でした。
一方でこの「遺留分」は、相続人が最低限もらえることが法律で守られている分です。
たとえば、被相続人(亡くなった方)が「財産はすべて長女に渡す」と遺言を書いた場合でも、他の相続人が何ももらえなくなるわけではありません。
この「ゼロにならないよう最低限を守る」しくみが**遺留分(いりゅうぶん)**です。
2-1|誰が、どれだけ守られる?【遺留分の対象者と割合】
遺留分があるのは、配偶者・子ども・親などに限られます。
兄弟姉妹には遺留分がありません。これは法定相続分とは異なる点なので、混同しないように注意が必要です。
具体的に、遺留分として守られる“最低限の割合”は以下のとおりです。
■ 遺留分の割合(民法1042条)
- 相続人が親のみの場合 → 相続財産の3分の1
- 配偶者や子どもがいる場合 → 相続財産の2分の1
この2分の1や3分の1を「総体的遺留分(全体としての最低保証分)」と呼びます。
これをもとに、各相続人の取り分を計算します(「個別的遺留分」といいます)。
たとえば…
- 相続人が「配偶者と子ども2人」の場合:
遺留分は全体で2分の1。
配偶者はその半分の1/4、子どもは1/8ずつになります。
2-2|どこまで過去にさかのぼって計算される?【「持戻し」とは】
遺留分を計算する際には、「相続が始まった時点の財産」だけでなく、「過去に贈与された財産(持戻し)」も加味して考えます。
この“持戻し”の対象になる贈与には、一定のさかのぼり期間があります。
これが、「遺留分対策をしたつもりなのに計算対象に含まれてしまう」原因になることもあるため、注意が必要です。
■ 持戻し対象となる贈与(民法1044条)
贈与の相手 | さかのぼる期間 | 主な注意点 |
---|---|---|
相続人以外(たとえば孫など) | 1年以内 | 相続直前の贈与は“計算に戻される” |
相続人(たとえば長男など) | 10年以内 | 10年以内の贈与は原則全て遺留分に影響 |
特別な場合(不正な贈与) | 期間制限なし | 相続人と共謀していた場合などは特例で含まれることも |
つまり、「生前に贈与しておけば遺留分を避けられる」というのはもう通用しにくい時代になっているのです。
贈与をした場合は契約書を残す・履歴を保管するなどの対策が必要です。
2-3|実際の請求はどう進む?【遺留分侵害額請求の流れ】
昔は「遺留分減殺請求」といって、土地や建物など“もらいすぎた財産”を相手から返してもらう制度がありました。
でも今は違います。
法改正で、遺留分は“お金で請求する”制度になりました。これが「遺留分侵害額請求」と呼ばれる手続きです。
■ 遺留分請求の流れ(ざっくり5ステップ)
- 遺留分の金額を計算
→ 相続財産から計算し、自分の取り分を算出 - 相手に請求書を送る
→ 内容証明郵便が望ましい - 話し合い(協議)
→ 相手が払ってくれるならここで終了 - 話がまとまらなければ調停や裁判へ
→ “家庭裁判所の調停”で解決 - 合意・判決が出たら、期日までにお金を受け取る
これにより、土地を切り分ける必要がなくなり、トラブルも少なくなったと言われています。
ただし、現金で払ってもらう制度になったことで、相手側は“支払原資”をどう確保するかが新たな課題に。
特に不動産や中小企業の株式などは売りづらいため、裁判所が分割払いや支払猶予を認めることもあります。
2-4|どうしてルールが変わったの?【制度改正の背景】
そもそも、なぜ「お金で請求できる仕組み」へと変わったのでしょうか?
理由は大きく分けて2つあります。
① 国際的な流れに合わせるため
ドイツやフランスなどの国では、遺留分は昔から「お金で払う」が基本です。
日本だけが“物で返す”制度を続けていたため、不動産の共有トラブルや係争の長期化が問題になっていました。
② 中小企業の後継者問題に対応するため
会社の株を相続で分けると、経営権がバラバラになってしまうという問題があります。
お金で清算できる制度に変えれば、後継者に株を集中させて、他の相続人には公平に補償することが可能になります。
2-5|「遺留分の請求」は実際どのくらいあるの?
実際にこの制度を使って請求された件数は、年々増えています。
家庭裁判所に申し立てられた件数のうち、**多くが「調停」**で解決。
いきなり裁判になるケースは少数派です。
制度が広まったことで、
- 「請求してもいいんだ」と知る人が増えた
- 弁護士や税理士など専門家のサポートが得やすくなった
といった背景もあり、利用が拡大しているのです。
2-6|気をつけたい3つの注意点
① 不動産の名義がそのまま残ることがある
遺留分をお金で清算しても、不動産の名義が共有のままだと、将来また揉める原因になります。
分けたつもりでも、名義変更がされていなければ未解決。登記の整理もセットで行いましょう。
② 相続人以外にお金を渡すと課税対象に
たとえば、長男の妻にお金を渡して遺留分調整した場合、贈与税がかかる可能性があります。
110万円を超えると課税対象になるので要注意。
③ 時効に注意
遺留分請求は、「相続の開始と、相手が誰かを知ったときから1年」が時効です。
葬儀や手続きで忙しい間に1年が経過してしまうと、請求権が消えてしまうこともあります(除斥期間は10年)。
2-7|トラブルを防ぐ!最低限のチェックリスト
確認すること | なぜ必要? | 実務での工夫 |
---|---|---|
過去10年分の贈与履歴 | 持戻しに備える | 通帳コピーや贈与契約書を保管 |
財産の評価方法 | 平等に分けるため | 不動産は鑑定書や固定資産税評価額を使う |
支払能力の確認 | 分割払いの判断材料に | 財務3表+資金繰り表で準備 |
時効までのスケジュール管理 | 請求権を守る | カレンダーやガントチャートで管理 |
不動産の共有解消 | 将来の争いを防ぐ | 売却 or 代償金の準備を検討 |
2-8|まとめ:制度を知れば、冷静な対話ができる
遺留分は、相続で誰かが「一円も受け取れない」という極端な事態を防ぐための制度です。
2019年の法改正で金銭精算の一本化がなされ、
「どれくらい請求できるか」
「いくら払う必要があるか」
といった点が、数字で見えるようになりました。
その一方で、
- 過去10年分の贈与履歴
- 支払能力や財産評価
など、事前準備がとても大切な制度にもなっています。
だからこそ、
- できるだけ早く財産目録や履歴を整理する
- 専門家と連携して対話の準備を整える
というのが、将来の“争続”を防ぐための第一歩になるのです。
第3章|“取り分”のズレはなぜ起きる?――寄与分・特別受益・配偶者居住権を正しく理解する
相続では「法定相続分」や「遺留分」だけでは片づかないケースがたくさんあります。
たとえば──
- 生前、親の介護を長年ひとりで担ってきた子がいる
- 結婚や住宅購入のときに、特別に大きな援助を受けた兄弟がいる
- 住み慣れた家に、配偶者がこれからも住み続けたいと願っている
こうした事情があるとき、相続人同士の“取り分”に差が出るのはごく自然なこと。
この章では、そうした“ズレ”を正しく調整するための制度、「寄与分」「特別受益」「配偶者居住権」について、わかりやすく解説していきます。
3-1|介護や家業を支えた人の努力はどう評価される?──寄与分
親の介護を何年も続けてきた。
家業を無給で支え、兄弟よりも多くの時間を注いできた。
こうした「がんばり」は、法律上どのように報われるのでしょうか?
その答えとなるのが**寄与分(きよぶん)**という制度です。
■ 寄与分とは?
遺産を受け取る相続人のなかでも、特別に大きな貢献をした人の取り分を増やすことができる制度です。
具体的には、介護・家業手伝い・生活費の援助などが対象となります。
ただし、「家族ならこれくらいやって当然」と見なされる範囲を超えていることが必要です。
たとえば、毎日ごはんを差し入れていた程度では足りませんが、医療や介護に近いかたちで2年以上にわたり無償で看護した例では、120万円の寄与分が認められた判例もあります。
■ 専門家としての視点
寄与分は“貢献したかどうか”だけでなく、“どれだけ客観的に証明できるか”が問われます。
介護日誌や領収書、通帳の記録などは、裁判所でも重視される資料です。
日々の努力を数字で残しておくことが、将来の「納得できる相続」につながります。
3-2|生前にもらった支援は相続の“前渡し”?──特別受益
兄だけが家を買うときに援助してもらった。
自分だけ私立大学に通わせてもらった。
こうした生前の援助は、他の相続人とのバランスをどう取るべきかという問題を引き起こします。
その調整に使われるのが**特別受益(とくべつじゅえき)**という考え方です。
■ 特別受益とは?
生前に特別な援助を受けた相続人がいる場合、その分を**「遺産の一部を前もって受け取った」**と見なし、遺産の分け方に反映させる仕組みです。
主な対象は、
- 住宅購入のための資金援助
- 結婚費用や留学費用
- 開業資金などの援助
など、一般的な生活費とは区別されるまとまった支出です。
■ 「保険金は遺産じゃない」は本当?
死亡保険金については、多くの場合「遺産ではない」とされます。
保険金はあくまで受取人固有の権利とされるため、相続財産にも特別受益にも含まれないというのが原則です。
ただし、保険金が極端に多く、遺産の大半を占めるような場合には、例外的に考慮される可能性もあります。
■ よくある誤解と現実の違い
誤解 | 実際は… |
---|---|
結婚式費用は親が出すのが普通だから特別受益じゃない | 「一般的かどうか」より「金額の大きさ」や「他の兄弟との公平性」が判断基準 |
学費はみんな同じ大学なら特に問題ない | 留学や私立医大など、費用差が大きい場合は調整の対象に |
保険金を受け取った人は相続税も払わなくていい | 500万円×法定相続人の非課税枠を超えた分には、相続税がかかります |
3-3|配偶者が自宅に住み続けられる権利──配偶者居住権
相続によって「自宅の名義」が長男に変わったからといって、お母さんが住み慣れた家から出ていかなくてはいけない――そんな不安を解消する制度が登場しました。
それが、**配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)**です。
■ どんな制度?
2020年4月から始まった制度で、配偶者が無償で自宅に住み続けられる権利を民法上で認めたものです。
遺産分割や名義変更が終わっていなくても、この権利が設定されていれば、安心して暮らしを続けることができます。
■ どんなときに使う?
たとえば「夫が亡くなり、家を長男に相続させるが、妻はそのまま家に住みたい」というようなケース。
この場合、配偶者居住権を設定すれば、妻が住み続ける権利と、長男が家の所有権を持つ状態を両立できます。
また、この制度は節税が目的ではありませんが、居住権が設定されるとその分家の評価額が下がり、結果的に相続税が安くなる可能性もあります。
■ 利用状況は?
制度はまだ新しく、年間利用はまだ多くはありませんが、東京や大阪など都市部を中心に増えています。
登記や権利評価には専門的な知識が必要なため、司法書士や税理士の関与がほぼ必須となります。
3-4|税金のしくみを知らないと、かえって損をすることも
相続は“もらった・分けた”で終わりではありません。
税金の扱いを知らずに判断すると、あとから思わぬ負担が発生することもあるのです。
■ よくある落とし穴
- 遺留分の支払いで土地を売ったら?
→ 小規模宅地の特例が使えず、予定外の相続税が発生する可能性あり。 - 親の介護をして寄与分を受け取ったら?
→ 税法上は「みなし遺贈」とされ、相続税が課税対象に。場合によっては「2割加算」の対象にも。 - 孫への学費援助
→ 贈与税の非課税枠を超えると課税対象。相続時には特別受益として調整されることも。
「節税になると思ってやったことが、結果的に税金を増やすことになった」
こうしたケースは、実務の現場では決して珍しくありません。
国税庁のパンフレットやFAQを必ず確認し、正確な知識に基づいて行動することが何より重要です。
3-5|“自分は関係ない”と思っていませんか?──5つのチェックポイント
- 生前にまとまった援助を受けた人がいる
→ 金額と使い道を確認し、「特別受益」に当たるかをチェックしましょう。 - 長期間介護を担った人がいる
→ 介護の内容や期間を記録。寄与分が主張できる可能性があります。 - 配偶者が住み続けたい家がある
→ 配偶者居住権の設定を検討。名義と登記、評価額の相談は専門家へ。 - 保険金の金額が大きい
→ 税金と公平性のバランスを取るため、兄弟間で事前に情報共有を。 - 家族内で“なんとなく不公平感”がある
→ 財産・援助・貢献の状況を一覧表にして、家族会議の下準備をしておきましょう。
3-6|専門家としてお伝えしたいこと
*相続というのは、単に法律とお金の問題ではなく、家族の記憶や気持ちが強く関わる場面です。
「自分は頑張った」「自分ばかり損している」――そうした想いがこじれる前に、
事実をきちんと整理し、“見える化”することが、何より大切だと実感しています。ルールを知る。証拠を整える。そして、家族で情報を共有する。
この3つを意識するだけで、あとから後悔しない相続にぐっと近づくはずです。*
第4章|“情報を味方にする”ための実践ステップ

――公式ガイド・専門家検索・手続きスケジュールをフル活用
相続の基本的なルールがわかったら、次に必要なのは**「自分の場合はどうすればいいのか」**という視点です。
そのとき頼りになるのが、公的に公開されている一次情報と、相続に強い専門家のサポート。
制度を知っていても、どう動くかがわからなければ意味がありません。
でもご安心ください。国が提供するガイドや検索システムをうまく使えば、難しそうな手続きも、ひとつひとつ整理しながら進められます。
この章では、迷わず・漏れなく・無駄なく動くための“実践型ステップ”をご紹介します。
4-1|相談先に迷ったら?――税理士情報検索システムをフル活用
「相続について相談したいけど、誰に頼めばいいのかわからない…」
そんなときに心強いのが、全国の税理士(約8万人超)が登録された公式データベースです。
都道府県や氏名で検索できるだけでなく、
・得意分野(相続・法人税など)
・対応言語やメール相談の可否
など、細かい条件も絞り込み可能。
検索結果では、事務所の所在地マップや連絡先、ホームページURLまで確認でき、毎月情報が更新されるため、鮮度も安心です。
専門家コメント
「相続の相談は、税務だけでなく法律や家族関係も絡みます。“相続が得意”と明記されている税理士を選ぶことがスタートライン。初回面談では『遺留分の支払いで迷っている』『配偶者居住権の評価を知りたい』など具体的に伝えると、必要な資料を事前に案内してもらえますよ。」
情報検索をうまく使うコツ
- 検索キーワードは広めに設定
→ まずは地域+「相続」で検索して、候補を広げましょう。 - 相談料・対応時間など“自分に合うか”も確認
→ 土日相談OK・Zoom対応可など、生活スタイルに合った条件で絞ると◎。 - 財産の概要を事前に送ると、面談が濃くなる
→ 簡単な財産メモを添えるだけで、初回から具体的な相談ができます。
4-2|手続きの“全体像”をつかむ――最新の公式パンフレット&ガイドを活用しよう
■ 法務省パンフレット
2025年6月に更新された最新版では、**相続登記の義務化(亡くなった方の不動産を3年以内に登記しないといけないルール)**が大きく取り上げられています。
登記に必要な書類や、誰がどんな準備をするべきかが、図解付きでわかりやすく紹介されています。
■ 国税庁ガイドブック
最新の相続税制度が整理された“申告書付き解説書”です。
・小規模宅地の特例
・住宅資金贈与の非課税
といった実務でよく使う制度が、章ごとに図解入りでまとめられており、初心者にもやさしい構成。
4-3|“いつ何をするか”がすべてを決める――相続カレンダーを作ろう
相続の手続きは、期限がきっちり決まっているものがほとんど。
主な節目は次の3つ:
✅ 3か月以内
- 相続放棄・限定承認の選択
- 自筆遺言書の検認(できるだけ速やかに)
✅ 4か月以内
- 被相続人の所得をまとめた“準確定申告”の提出
✅ 10か月以内
- 相続税の申告と納税
- 配偶者居住権の登記(登記自体に法定期限はないが、相続税申告書に反映する場合には、10か月以内)
このスケジュールを家族で共有してカレンダーに落とし込むだけで、多くのトラブルは回避できます。
専門家コメント
「カレンダーを作るときは“誰が何をするか”をセットで決めておくのがポイントです。たとえば『預金の残高証明を取得する――長女』『不動産の評価証明書を取る――長男』のように役割分担しておくと、抜け漏れや重複がグッと減ります。」
4-4|情報収集から相談予約までの“やることリスト”
実際の進め方は次のようにシンプルです。
- パンフレット・ガイドPDFをダウンロード
→ 重要ポイントに印をつけて、LINEやGoogleドライブで家族と共有 - 財産目録をスプレッドシートで作成
→ 預貯金、不動産、保険金、借金、過去の贈与などをリストアップ - 税理士検索システムで候補をピックアップ
→ 得意分野や相談料を比較して仮決め - 30分程度のオンライン相談を予約
→ 作った財産目録を事前送付しておくと、初回でも深い話ができる - 相続カレンダー(家族用)を配布
→ 重要日程をGoogleカレンダーなどで共有
この5ステップを1週間程度で回せれば、迷う時間を一気に圧縮できます。
4-5|まとめ――“公式情報 × 専門家”が迷路を地図に変えてくれる
相続の手続きが混乱する最大の理由は、情報がバラバラで、全体像が見えにくいことです。
でも、法務省・国税庁などの公的ガイドを活用し、相続に強い専門家へ早めに相談すれば、その“情報の迷路”は、ただの地図に変わります。
「相続トラブルは“情報格差”から起きる」
これは、私が現場で何度も実感していることです。
信頼できる情報源に早くたどり着き、家族で共有できれば、話し合いはスムーズになり、不要な感情の衝突も減らせます。
次章では、いよいよ**家族で相続を話し合う“場のつくり方”**に踏み込みます。
制度を理解しても、それを実際に使うのは“人間関係の中”です。
第5章|“争族”を防ぐ家族会議のすすめ――感情と数字を同じテーブルに並べる

相続をめぐるトラブルの多くは、制度に関する知識不足というより、話し合いの不足が原因です。
お金の問題と感情面の問題を両方しっかり整理できれば、相続でもめるリスクはぐっと減らすことができます。
ここでは、専門家に依頼する前の段階として、**家族だけで行える「相続会議」**の進め方をご紹介します。
5-1|会議前にそろえておきたい3つの資料
資料 | 目的 | 準備のコツ |
---|---|---|
財産目録 | 相続財産の全体像を把握する | 現金・預貯金/不動産/保険/債務/生前贈与の5分類を基本に整理 |
贈与・援助の履歴表 | 特別受益や寄与分を見える化する | 金額・年月・用途を記録し、領収書や送金記録があれば残しておく |
手続きカレンダー | 相続手続きの期限と役割を全員で共有 | 3か月・4か月・10か月の節目を赤字で強調するとわかりやすい |
Google スプレッドシートを使えば、離れて暮らしている家族ともリアルタイムで情報を共有できます。
5-2|「感情」と「現実」を往復する議題設計
相続の話し合いをスムーズに進めるには、感情面と現実面の両方に目を向けることが大切です。
- 感情レイヤー:介護負担の差や、実家への思いなどを率直に共有
- 現実レイヤー:財産の評価額や税金、期限などの具体的な課題を確認
この2つを交互に扱うことで、感情だけが暴走したり、数字だけが先走ったりするのを防げます。
専門家コメント
「“介護への不満” → “財産の金額確認” → “改めて感情の確認”という順で進めると、議論が感情的になりにくく、建設的な着地点にたどり着きやすくなります。」
5-3|進行役(ファシリテーター)を立てるメリット
- 中立的な進行ができることで、議論に偏りが出にくくなる
- 議事録の質が上がり、後から「言った言わない」のトラブルを防げる
- 時間を管理しながら会議を90分以内に収められる
外部の専門家に依頼できれば理想的ですが、難しい場合は、親族の中から比較的利害関係の薄い人を進行役に指名するだけでも効果は大きいです。
5-4|“90分家族会議”の実例タイムテーブル
時間 | 内容 |
---|---|
0〜10分 | 会議の目的説明と資料配布 |
10〜40分 | 財産目録の確認 |
40〜60分 | 感情面(介護・貢献・希望など)の共有 |
60〜75分 | 相続制度(遺留分・寄与分など)の確認 |
75〜85分 | 手続きの担当者や役割分担の決定 |
85〜90分 | 宿題の整理と次回の予定確認 |
5-5|家族会議を円滑に進めるための3つのマナー
- 数字を責める道具にしないこと
- 異論や違和感はすぐに否定せず、まずは“メモ”すること
- 法律・税金の専門的な判断は無理に決めず、後日の宿題にすること
5-6|家族会議のゴールとは
- 相続財産の全体像を家族で共有できること
- 介護や貢献など、感情面も率直に伝え合えること
- 相続手続きの期限と担当者を決めること
ここまで話し合いができていれば、次に専門家へ相談する段階でも「準備ができている家族」として、相談が非常にスムーズに進みます。
終章|“納得できる相続”は、準備と対話のかけ算で生まれる
ここまでの記事では、以下のステップを通して、相続を“誰でも向き合えるもの”にする方法を紹介してきました。
- 法定相続分・遺留分など、相続の基本ルールを理解する
- 寄与分・特別受益・配偶者居住権など、家族間の“ズレ”を調整するしくみを知る
- 公式パンフレットや専門家検索を活用し、行動の地図を描く
- 家族会議で情報と気持ちを同じテーブルに並べて整理する
専門家コメント(筆者の実感)
「相続というのは、“法律と税金”だけでなく、“家族の気持ち”が交差する珍しい分野です。知識だけでも、感情だけでも前に進まない。だからこそ、“準備”と“対話”を同時に進めることが、納得できる結論への近道だと実感しています。」
最後に、ぜひ覚えておいていただきたい3つのステップがあります。
- 公式資料で相続の全体像をざっくりつかむ
- 家族で情報と感情を共有する場をつくる
- 専門家に早めにアクセスし、具体策を詰めていく
この3つさえ押さえておけば、財産の多い・少ないにかかわらず、「うちの相続」はちゃんと話し合えるテーマになります。
相続は「誰かが亡くなったとき」だけの話ではありません。
それは、今を生きる家族のこれからを考えることでもあります。
今日できること――たとえば、公式パンフレットを1枚読んでみる、家族LINEに「この記事いいかも」と送ってみる。
そんな一歩から、“納得できる相続”への道は確実に始まります。
焦らず、後悔せず。
あなたの家族にとって最良の選択肢を、一緒に見つけていきましょう。
注釈
※本記事は2025年時点で施行されている法令等に基づき、一般的な相続制度の概要を解説したものです。
掲載されている制度・税制・民法条文等は、将来的な法改正等により内容が変更される可能性があります。
具体的な相続内容や申告・手続きについては、最新の法令をご確認のうえ、必ず税理士・司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。
出典・参考:
法務局|パンフレット
国税庁|相続税の申告のしかた
裁判所|司法統計 結果一覧 | 裁判所 – Courts in Japan
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