第1章|100%グループ内の資産譲渡等
~譲渡損益調整資産の取扱いと通知義務の要点~
100%グループ法人間取引の基本的な考え方
企業グループ内での取引については、税務上特有の考慮が求められます。
特に、内国法人同士で完全支配関係がある場合、これらの法人が行う資産の譲渡取引については、一般の法人間取引とは異なる取扱いがなされるのが実務上の特徴です。
この背景には、100%資本関係にある企業グループは、経済的には一体であるという見方があるためです。
たとえば、ある資産をグループ内の法人から別の法人へ移転した場合、それが実質的に外部への取引ではないことから、直ちに損益が認識されるのは適切ではないという立場がとられています。
譲渡損益調整資産の損益繰延べ制度とは
完全支配関係にある内国法人間で、一定の資産を譲渡した際には、「譲渡損益調整資産」に該当する場合に限り、譲渡損益を直ちに計上せず、繰り延べる制度が設けられています。
この繰延べ措置の対象となる資産は、以下の条件をすべて満たすものとされています。
- 譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上であること
- 次のいずれかに該当する資産であること
1.固定資産
2.棚卸資産たる土地(土地の上に存する権利を含む)
3.有価証券(ただし売買目的有価証券を除く)
4.金銭債権
5.繰延資産
たとえば、帳簿価額3,000万円の土地を5,000万円で譲渡した場合、本来であれば譲渡法人では2,000万円の譲渡益を認識しますが、グループ法人税制の下ではこの損益は直ちに損益計上されず、一定の事由が生じるまでは繰り延べられます。
このような取扱いにより、法人グループ内での内部損益を実現していない段階で税負担が生じることを防ぐことができます。
繰延べた譲渡損益の戻入れ
繰り延べた譲渡損益は、譲受法人において、次のような事由が生じた場合に、譲渡法人において益金や損金に戻し入れられます。
- 譲渡損益調整資産の譲渡
- 償却
- 評価換え
- 貸倒れや除却
- 完全支配関係の解消
戻入れのタイミングは、原則としてその事由が生じた日の属する譲受法人の事業年度終了日の属する譲渡法人の事業年度において処理されます。
これにより、グループ内での実際の費用化または外部への移転がなされた時点で、はじめて課税上の損益が認識される仕組みとなっています。
通知義務のポイント
この制度の運用にあたっては、関係法人間での通知義務が定められています。
具体的には、次のようなやり取りが必要です。
譲渡法人から譲受法人への通知
譲渡法人は、譲渡損益調整資産を譲渡した場合、遅滞なく譲受法人に対し、当該資産が制度対象資産である旨を通知する必要があります。
加えて、簡便法の適用を受ける場合にはその旨も明記します。
譲受法人から譲渡法人への回答通知
譲受法人は、譲渡法人から通知を受けた場合、状況に応じて次の事項を通知しなければなりません。
- 譲渡された資産が売買目的有価証券である旨
- 減価償却資産や繰延資産であり、簡便法を適用する場合には、その資産についての耐用年数や効果の及ぶ期間
戻入事由発生時の通知
さらに、譲受法人は、譲渡損益調整資産に対して戻入事由(譲渡・償却・除却など)が発生した場合、その事実および発生日を譲渡法人に通知する義務があります。
これは、譲渡法人における適切な損益計上を担保するためです。
ただし、簡便法の適用通知を受けた資産については、この通知義務は課されません。
制度の留意点
この制度は、一定の資産に限定して適用されるものであり、すべての資産が対象となるわけではありません。
また、譲渡資産の帳簿価額が1,000万円未満の場合や、売買目的有価証券に該当する場合などは適用対象外とされます。
さらに、完全支配関係がない法人間の取引には本制度は適用されません。
したがって、制度の適用可否については、取引時点での支配関係の有無の確認が重要なポイントになります。
第2章|グループ通算制度の仕組み
~個別申告と損益通算を組み合わせた制度設計~
制度の概要と導入の背景
グループ通算制度は、従来の連結納税制度を見直す形で導入された制度です。
連結納税制度は、企業グループ全体をひとつの納税単位とみなす方式でしたが、その税額計算が煩雑であるという声がありました。
そのため、令和2年度の制度改正により、グループ通算制度が創設され、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されることとなりました。
この制度では、各法人が個別に法人税の計算と申告を行いつつ、損益や欠損金の通算といった調整をグループ内で行う仕組みが採られています。
通算制度では、各法人が独立して課税されるという形式を取りながらも、通算グループ全体として税負担の調整を可能にしており、機動的なグループ経営との両立を図っています。
適用対象となる法人の範囲
グループ通算制度の適用を受けるには、国税庁長官の承認を受けた通算親法人と、それと完全支配関係にある内国法人(通算子法人)が必要です。
具体的には、次の要件を満たす内国法人のみが通算制度の対象とされます。
- 親法人:普通法人または協同組合等であり、清算中でないこと
- 子法人:通算親法人との間に完全支配関係がある内国法人であること
一方で、破産手続開始決定を受けた法人や投資法人等の通算除外法人は対象となりません。
また、通算制度は内国法人が親法人である場合に限定され、外国法人が親会社であるグループなどは対象外とされます。
通算制度の申請と適用手続き
通算制度の適用を希望する場合、適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の3か月前の日までに、親法人およびすべての子法人の連名による申請書を税務署を通じて国税庁長官に提出する必要があります。
原則として、通算制度の承認通知は書面により親法人に対してなされますが、申請後に却下の通知がない場合は、承認があったものとみなされます。
なお、過去に連結納税制度の承認を受けていた法人については、制度移行に伴い自動的に通算制度の承認があったものとされる特例もあります。
通算法人の事業年度と申告・納税義務
通算制度においては、親法人と子法人がそれぞれ個別に申告納税を行うという形式をとりますが、通算グループとして損益通算を行うため、子法人の事業年度は親法人に合わせる必要があります。
具体的には、以下のような事業年度の調整が行われます。
- 親法人の事業年度の開始日において完全支配関係がある子法人の事業年度は、その開始日に開始するものとされます。
- 親法人の事業年度の終了時において完全支配関係がある子法人の事業年度は、その終了日に終了するものとされます。
また、通算子法人の会計期間に関係なく、親法人の事業年度に合わせて税務上の申告・納付が求められる点も押さえておく必要があります。
所得・税額の計算の基本構造
各通算法人の所得金額は、原則として益金から損金を控除して計算されます。
ただし、通算制度特有の調整として、「損益通算」および「欠損金の通算」が行われる点が特徴です。
損益通算の概要
通算グループ内で、ある法人が利益(所得)を計上し、他の法人が欠損を有している場合、その欠損をグループ内で共有し、通算することが可能です。
損益通算の処理は、次のように行われます。
- 欠損法人の欠損金額合計(所得法人の所得金額の合計額を限度)を、所得法人に損金算入として配分
- 配分された損金の合計額を、欠損法人に益金算入として再配分
これにより、グループ全体での税負担の平準化が図られます。
ただし、税務調査などにより修正・更正があった場合には、当初申告額をもとに損益通算の再調整が行われ、影響は修正のあった法人のみに限定されます(いわゆる遮断措置)。
欠損金の通算
通算制度においては、各法人が過去10年以内に生じた欠損金についても、通算グループ内で通算が可能です。
この通算は、通算グループ全体での損益通算を行った後、次のような手順で行われます。
- 各通算法人の繰越欠損金額を、それぞれの所得に対して50%(中小法人は全額)を上限に損金算入
- 通算の対象となる金額を配分して処理
なお、この欠損金通算についても、他の法人に影響させないため、当初申告に基づいた金額で固定して処理する措置が設けられています。
通算税効果額の考え方
通算グループ内での損益通算や欠損金通算により税額が変動する場合、それによって生じた通算税効果額が法人間で授受されることになります。
通算税効果額とは、通算制度の適用によって減少する法人税額および地方法人税額に相当する金額を指します。
この税効果額は、損金や益金には算入せず、別途取り扱う必要があります。
具体的な計算方法は法人税法上に明示されていませんが、合理的な方法によって計算されることが求められています。
第3章|承認・資産時価評価・租税回避防止
~制度適用の入口と出口に求められる実務対応~
通算制度の承認と適用対象の制限
グループ通算制度を利用するためには、国税庁長官の承認を受ける必要があります。
申請に際しては、親法人と子法人すべての連名で提出することが求められ、一定の要件を満たさなければ承認されません。
制度の対象外となる法人には、たとえば以下のような事由が該当します。
- 青色申告の承認を取り消された日から一定期間を経過していない法人
- 青色申告を取りやめた届出をした日から一定期間を経過していない法人
また、帳簿書類に仮装・隠蔽等の不適正な記録が認められる場合には、承認が却下される可能性があります。
制度の信頼性を担保する観点から、形式的な手続きだけでなく、適正な記帳や報告体制が問われることになります。
通算制度の開始・加入時の資産の時価評価
グループ通算制度への新規加入時には、原則として保有資産の時価評価が必要となります。
ただし、すべての法人がこの評価の対象となるわけではなく、以下のような要件を満たす法人は評価の対象外とされています。
評価対象外となる法人の例
- 親法人との完全支配関係が継続することが見込まれている子法人
- 通算親法人によって新たに設立された法人で、支配関係が維持されると見込まれる場合
- 適格な株式交換等によって通算グループに加わった法人で、事業継続性が高く、従業者の多くが引き続き従事することが見込まれている場合
また、加入前に新規事業を開始した法人については、支配関係発生日から一定期間に生じた欠損金額や資産譲渡損失のうち、特定の金額については損金不算入や通算対象外とされる取扱いが設けられています。
離脱時の時価評価
通算制度からの離脱や終了に際しても、一定の条件下では資産の時価評価が必要となります。
たとえば、主要な事業の継続が見込まれない場合には、離脱直前事業年度において時価での評価損益を計上しなければなりません。
対象となる資産には、固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産などが含まれます。
通算制度における租税回避行為の防止措置
通算制度は、制度設計上の柔軟性を有している一方で、税負担を不当に軽減させる行為が発生しないよう、特別な防止規定が設けられています。
具体的には、通算法人や他の通算法人の行為または計算によって法人税の負担を不当に減少させる結果が生じると認められる場合、税務当局はその行為等を否認し、課税標準や税額の再計算を行うことができます。
これは従来の連結納税制度でも同様の規定がありましたが、通算制度では各法人が個別申告・納税を行うという前提のもと、他の法人による行為についても影響を及ぼす点に留意が必要です。
制度の濫用を未然に防止するためには、形式的な取引ではなく、実質的な経済合理性を持った運営が求められるといえるでしょう。
第4章|税務の不安を相談できるサービス紹介
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本記事は、税制度に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務判断や対応策を推奨するものではありません。
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