第1章|外国税額控除の仕組み
海外所得に課される税と日本での課税 重なる負担をどう調整するか
企業が国際的に活動する際、海外で得た所得に対して現地で法人税を支払うことがあります。
ところが、日本の内国法人は全世界所得に対して日本の法人税が課される仕組みとなっており、海外で課された税と日本で課される税が重複する、いわゆる「国際的二重課税」が生じる場面が出てきます。
このような二重課税の問題を解消するため、法人税法ではいくつかの対応策が定められています。
代表的な方式としては、以下の3つが挙げられます。
- 国外所得免税(免除)方式
- 外国税額損金算入方式
- 外国税額控除方式
このうち、わが国では一部の選択適用を除き、外国税額控除方式を基本としています。
これは米国やドイツ、イギリスなど多くの国でも採用されており、制度の信頼性という点で一定の位置付けがあるといえるでしょう。
外国税額控除制度の導入と背景
日本における外国税額控除制度は、昭和28年に導入された制度で、海外進出する日本企業の負担軽減を目的に整備された経緯があります。
昭和50年代までは制度の拡充が進められたものの、昭和60年以降は租税回避への対応などを背景に、一定の規制強化が行われてきました。
一方で、平成21年度の税制改正では、国外からの受取配当に関して益金不算入とする制度も導入され、一定の代替措置として位置付けられています。
外国税額控除の基本構造
外国税額控除とは、外国で支払った法人税について、その金額を一定の限度内で日本の法人税から差し引くことができる制度です。
控除の対象となるのは、外国法人税のうち、所定の要件を満たす部分に限られます。
ただし、控除には上限があり、その上限(控除限度額)は所定の計算式により算出されます。この控除限度額を超える外国法人税については、日本の法人税から差し引くことはできません。
なお、超過した部分については、翌期以降3年間の繰越しが可能とされています。
さらに、課税標準に対する税額が一定の割合(35%)を超える場合には、その超過分は控除の対象から除かれることになっており、制度上の歯止めも設けられています。
外国法人税の定義と控除対象の範囲
控除対象となる「外国法人税」とは、外国政府またはその地方公共団体によって課される法人の所得に対する税金で、具体的には次のようなものが該当します。
- 法人の所得を課税標準とする税
- 所得の一部に対する超過利潤税など
- 所得にかかる附加税
- 徴税上の便宜から収入金額などを課税標準とする税(たとえば配当やロイヤルティなど)
一方で、以下のような税金は控除対象となる外国法人税には含まれません。
- 還付請求が可能な税
- 納付が猶予される期間を任意に設定できる税
- 外国当局との合意で決定される税率のうち、最も低い税率を上回る部分
- 附帯税に該当するもの(延滞税や加算税など)
- 売上税、固定資産税、不動産取得税など
高率負担部分とその除外
特に注意が必要なのが「高率負担部分」です。
外国法人税のうち、一定割合を超える負担については、外国税額控除の対象から除外される仕組みとなっています。
たとえば、納付先国での課税標準に35%を乗じた金額を超える部分などが該当します。
また、利子などに対して源泉徴収された場合でも、内国法人の所得率に応じて一定の割合を超える部分は控除できない扱いとされます。
これにより、過大な税負担を通じた租税回避的な処理に対する一定の制限がかけられています。
控除限度額の計算方式
外国税額控除には「一括限度方式」が採用されており、これは所得の種類や納付先国を問わず、すべての国外所得に対する控除限度額を一括で算出する仕組みです。
計算式は以下の通りです
その事業年度の全世界所得に対する法人税額×(国外所得金額/全世界所得金額)
ただし、国外所得金額は、全世界所得金額の90%を上限とする制限があります。
それぞれの構成要素は以下の通り定義されています。
- 法人税額:特定同族会社の特別税率や税額控除を適用しない税額
- 全世界所得金額:欠損金等の繰越しを考慮せず計算した所得金額
- 国外所得金額:国外源泉所得に係る所得のみを課税標準とした金額(非課税所得は除外)
なお、租税条約によって控除対象とされないものは国外所得に含めません。
適用時期と手続の概要
外国税額控除は、原則として「外国法人税を納付することとなる日の属する事業年度」において適用されます。
予定納付分を含みますが、納付義務の確定日が基準となる点には留意が必要です。
また、控除の適用を受けるには、確定申告書に所定の明細書類の添付が求められます。
たとえば、外国法人税の金額や計算根拠を記載した書類のほか、外国で税が課されたことを示す資料(納税証明書や申告書の写しなど)を保存する必要があります。
みなし外国税額控除の取り扱い
一部の国との租税条約には、減免された外国税について「本来課税されたものとみなして控除できる」とする規定があります。
これは「みなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)」と呼ばれる制度で、経済協力の一環として導入された背景があります。
ただし、現在では課税の公平性などの観点から、この制度は縮小の方向にあり、新規の導入や拡大は抑制されています。
また、みなし控除においても高率負担部分の考慮は必要であり、損金算入が認められない扱いとなる点には注意が必要です。
第2章|外国子会社合算税制(CFC税制)
制度導入の背景 タックス・ヘイブン対策としての位置づけ
企業の海外展開が進むなか、租税負担の軽い国・地域に実体のない外国子会社を設け、課税を回避する手法が現実のものとして問題視されてきました。
こうした課税回避を防止する制度として導入されたのが、いわゆる「外国子会社合算税制(CFC税制)」です。
この制度は、昭和53年度に導入されて以降、実務上の工夫や制度回避の動きに応じて毎年のように見直しが行われてきました。
特に、平成29年度及び令和元年度には、経済実体に即した課税の観点から、制度の構造に踏み込んだ改正が実施されています。
制度の趣旨としては、実体の乏しい外国子会社を経由した利益留保を、内国法人の所得に直接合算することで、租税負担の適正化を図る点にあります。
合算課税の基本的な仕組み
外国子会社合算税制は、ある一定の条件を満たす外国関係会社の所得を、内国法人の所得に合算して課税する制度です。合算課税の対象となる外国関係会社とは、いずれも内国法人やその関係者によって一定割合以上の持分が保有されている外国法人であり、その中でも税負担が特に軽い企業に焦点が当てられています。
制度上、次のような分類が行われ、それぞれの条件に応じた合算課税の適用が判断されます。
1.外国関係会社の範囲
外国関係会社とは、居住者や内国法人等が50%超の株式等を直接または間接に保有・支配している外国法人を指します。
これらのうち、次の3つに区分されます。
- 特定外国関係会社
- 対象外国関係会社
- 部分対象外国関係会社
分類に応じて課税の方法や範囲が異なり、それぞれに適用除外の要件も設けられています。
2.特定外国関係会社とは
「特定外国関係会社」とは、以下のいずれかに該当する会社です。
- 実体のないペーパー・カンパニー
- 事実上のキャッシュ・ボックス
- ブラック・リスト国に所在する会社
これらは、現地で経済活動を行っていない場合が多く、制度上、会社単位で所得全体が合算課税の対象となります。
(参考)ペーパー・カンパニー等の具体的要件
- 実体基準や管理支配基準を満たさないこと
- 保有資産のうち一定割合以上が金融性資産であること
- 保険料収入等において非関連者との取引割合が低いこと
これらの基準を満たす場合には、合算課税の対象として扱われます。
3.対象外国関係会社とは
「対象外国関係会社」とは、特定外国関係会社には該当しないものの、経済活動基準をいずれも満たさない会社を指します。
この区分に該当し、かつ所在地国における租税負担割合が20%未満である場合には、その会社の所得全体が合算課税の対象となります。
4.部分対象外国関係会社とは
「部分対象外国関係会社」とは、経済活動基準のすべてを満たしている会社(ただし特定外国関係会社を除く)であり、一定の受動的所得に限定して合算課税の対象とされるものです。
具体的には、一般事業を営む外国子会社や外国金融子会社などが該当し、その受動的所得部分に対してのみ、日本の内国法人に所得合算されます。
ただし、以下のいずれかに該当する場合には、合算対象外となります。
- 各事業年度の租税負担割合が20%以上
- 金融子会社等の適用対象金額が2,000万円以下
- 受動的所得の割合が税引前所得の5%以下
合算課税対象金額の計算方法
外国子会社合算税制が適用される場合、外国関係会社の所得のうち、内国法人の所得に合算される金額(課税対象金額)は、一定の算定過程を経て導かれます。
まず、外国関係会社において、現地法令(現地の法令に基づいた税務上の課税所得)または本邦法令(日本の法人税法に基づく課税所得)を基礎として、その会社単体での所得金額を算出します。
この所得金額から、他の外国関係会社や子会社から受けた配当などを控除したものが「基準所得金額」とされます。
次に、この基準所得金額から、過去7年間に繰越された欠損金や当該事業年度に納付した法人所得税を控除した残額が、「適用対象金額」と呼ばれます。
さらに、この適用対象金額に対し、内国法人が有する「請求権勘案保有割合」(通常は株式の持分割合と一致しますが、配当請求権の内容に応じて判定されます)を乗じた金額が、「課税対象金額」となります。
この課税対象金額が、内国法人の各事業年度の益金の額として算入されます。
適用のタイミングは、当該外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から2か月を経過する日を含む、内国法人の事業年度とされています。
また、この計算方法は、特定外国関係会社や対象外国関係会社に該当する場合に適用され、部分的な課税にも同様の枠組みが用いられます。
租税負担割合の算定と実務上の考慮点
外国子会社合算税制において、外国関係会社が合算課税の対象となるかどうかは、その会社の「租税負担割合」によって判断されます。この割合が一定の基準値を下回る場合には、制度上、合算課税の対象となることになります。
租税負担割合の算定方法は、外国関係会社の本店等の所在国の税制の有無によって異なります。
①税法令がある国に本店等を有する外国関係会社の場合
租税負担割合は、次の算式によって計算されます。
租税負担割合=
「外国関係会社の本店所在国又は本店所在国以外の国・地域で課される外国法人税」
÷
(決算に基づく所得(会計上の利益)+ 本店所在地国で非課税とされる所得(受取配当を除く)
+ 損金算入された支払配当
+ 損金算入された外国法人税
+ 損金算入されない保険準備金
+ 益金算入すべき保険準備金
- 還付を受けた外国法人税)
この計算では、実際に外国で納付した法人税を分子とし、会計上の利益をベースに租税法上の加減調整を行った金額を分母としています。
②無税国に本店等を有する外国関係会社の場合
この場合は、次のような算式で租税負担割合が算定されます。
租税負担割合=
「本店所在国以外の国・地域で課される外国法人税」
÷
(決算に基づく所得(会計上の利益)
+ 費用計上している支払配当
+ 費用計上している外国法人税
+ 損金算入されない保険準備金
+ 益金算入すべき保険準備金
- 受取配当
- 還付を受けた外国法人税)
このように、無税国を本拠とする場合でも、第三国等で実際に課税が行われていれば、その額を分子とすることができます。
ただし、企業集団等所得課税規定がある場合でも、それがないものとして計算する点に注意が必要です。
実務上の留意点
租税負担割合の確認に際しては、単に税率を形式的に確認するのではなく、実際に納付した外国法人税の額および決算上の所得との整合性を検討する必要があります。
予定納付額を含む場合や、還付が行われている場合には、確定数値を基準に計算することとなります。
また、租税負担割合が20%を下回るか否かは、合算課税の要否を分ける判断要素となるため、誤認を防ぐためにも、制度上の算式と構成要素に沿った慎重な算定が求められます。
特に、配当や保険準備金など、税務上の調整対象となる項目については、適切に加減算を行う必要があります。
制度適用にあたっては、形式的な計算結果にとどまらず、税務当局の通達や実務解釈に照らした確認を行うことも視野に入れる必要があるものと考えられます。
納税義務者の範囲
合算課税の対象となる納税義務者は、以下のいずれかに該当する内国法人です。
- 外国関係会社の持株割合が10%以上の法人
- 外国関係会社との実質支配関係を有する法人
- 間接保有を通じて10%以上を保有する居住者または法人
- 同一株主グループに属し、そのグループが10%以上の持分を有する法人や個人
これらのいずれかに該当する場合には、当該外国関係会社の所得について、合算課税の適用を受ける可能性があります。
制度上は、納税義務者の範囲が実態に即して判断されるよう構成されていますので、形式的な支配関係のみでなく、実質的な関係性も含めて確認していくことが必要となるでしょう。
第3章|二重課税調整とインバージョン対策
CFC税制における二重課税の調整措置
外国子会社合算税制により、外国関係会社の所得が内国法人に合算課税される場合には、すでに外国法人税が課されていることもあります。
そのまま合算すると二重課税となるため、一定の調整措置が設けられています。
この調整では、外国関係会社に課された法人税のうち、次の算式で計算した金額(または課税対象金額のいずれか少ない金額)を、内国法人が納付すべき外国法人税とみなして取り扱うことができます。
外国法人税×(課税対象金額/適用対象金額)
このように、合算課税の仕組みに対応して、外国での納税を一定範囲で控除対象とする制度的な整合が図られています。
外国子会社からの配当と益金不算入の取扱い
外国関係会社から受ける配当については、合算課税を受けた金額との関係に応じて、国内法人の益金算入が調整されることになります。
1.合算対象でない外国関係会社からの配当
合算課税の対象となっていない外国関係会社から配当を受けた場合、その配当のうち、過去10年以内の各事業年度で合算された金額に達するまでの部分については、益金の額に算入しないこととされています。
これは、既に所得に課税された金額を再度益金とすることを避ける目的から設けられた取扱いです。
2.合算対象である外国関係会社からの配当
一方で、合算課税の対象となる外国関係会社から配当を受けた場合には、原則として受取配当の95%相当額を益金不算入とする制度が適用されます。
さらに、その配当のうち、すでに合算課税を受けた金額までの範囲については、費用相当としての5%控除を要しないとされており、実務上の負担軽減につながるような措置が講じられています。
なお、益金に算入されなかった配当について、仮に源泉徴収された外国法人税が存在する場合であっても、それについては一重課税の構造となるため、外国税額控除の対象とはなりません。
インバージョン対策税制の概要
国境を越えた組織再編が進む中で、法人の実質的な支配関係を軽課税国に移す「インバージョン(corporate inversion)」と呼ばれるスキームが現れるようになりました。これに対応するため、一定の租税回避的な再編を制限する制度が設けられています。
具体的には、次のような3つの対応策が講じられています。
1.軽課税国所在親会社を使った三角合併の制限
軽課税国に設立された親会社を合併対価の交付元とする「三角合併」の手法については、経済実体を欠いた再編とみなされる可能性があるため、一定の要件を満たす場合には、その合併による株式譲渡に対して課税がなされることとされています。
これは、合併の適格性を否認し、課税関係の発生を回避させないようにする趣旨によるものです。
2.タックス・ヘイブン子会社の現物出資制限
内国法人が保有する外国子会社の株式を、軽課税国に所在する外国会社などへ現物出資する場合で、その外国会社が実体を欠くと認められるときには、その現物出資を適格現物出資としては取り扱わないとされています。
こうした取扱いにより、再編行為を通じた形式的な株式移転による租税回避を抑制することが意図されています。
3.軽課税国所在の親法人等への所得合算課税
組織再編の結果として、軽課税国に所在する外国法人が内国法人の80%以上の持分を保有することとなった場合には、その外国法人の所得を、間接的な支配関係にある内国法人や居住者の所得に合算する制度が用意されています。
この制度においては、持株関係や実質的な支配関係をもとに、課税の一体性を確保するための対応がなされています。
なお、このような取扱いが行われる場合でも、外国子会社合算税制との重複適用が生じる場合には、通常の外国子会社合算税制のほうが優先して適用される仕組みとなっています。
また、外国税額控除の調整や受取配当の益金不算入に関しても、従来のCFC税制に準じた扱いが整備されています。
第4章|税務の不安を相談できるサービス紹介
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