固定資産の売却・取得に関わる消費税実務|建設仮勘定・インボイス対応まで徹底解説

目次

第1章|調整対象固定資産と課税売上割合変動への備え

1.調整対象固定資産とは

まず、「調整対象固定資産」とは、棚卸資産以外の資産で、一取引単位ごとの税抜支払対価が100万円以上となるものを指します。代表的な対象には、有形・無形の固定資産のほか、生物(牛・馬・果樹等)、ソフトウェア購入費、回路配置利用権、ゴルフ会員権(預託金方式)などが含まれます。

これらの資産を課税仕入れした場合、通常どおり仕入税額控除の対象となりますが、その後の課税売上割合の動きによっては、後年度に再調整が必要となるケースがあります。特に、比例配分法(一括比例配分方式を含む)を採用している事業者にとっては、控除額の確定に慎重な対応が求められます。

2.100万円基準と95%ルールの関係

調整対象固定資産に該当するかどうかの判断は、100万円という基準に基づきます。税抜で100万円以上の支払対価となるかどうかが判断の起点となります。

そのうえで、取得時点の課税売上割合が95%以上であれば、当該固定資産に係る消費税額の全額を控除対象仕入税額として処理できます。
ただし、この95%ルールを適用した場合であっても、その後の課税売上割合が著しく変動したときは、控除した金額を3年度目に加減算して調整する必要があります。

3.「著しい変動」の判断基準

3年度目に調整が必要となるかどうかは、次の2つの条件を同時に満たす場合に限られます。取得時の課税売上割合(当初割合)と、取得から3年間の通算課税売上割合(以下、通算割合)を比較し、次のいずれも該当する場合です。

  • (当初割合-通算割合)/当初割合≥50%
  • 当初割合-通算割合≥5%

なお、通算割合が当初割合を上回る場合は、引き算の前後を入れ替えて同様に判定します。この2つの式により、一定の変動幅と割合が確認されたときに「著しい変動」と判断され、調整の対象となります。

4.3年度目の調整手順と計算式

4-1.調整対象基準税額の確認

調整額の計算において基礎となるのは、当該資産を取得した課税期間で適用された税率に基づいて算出する「調整対象基準税額」です。異なる税率の資産がある場合は、税率区分ごとに基準税額を把握する必要があります。

4-2.加算・減算の計算式

調整対象資産を3年度目も保有しており、かつ「著しい変動」の要件を満たす場合には、以下のように調整します。

(1)通算割合が当初割合より高い場合(加算)
調整加算額=(基準税額×通算割合)-(基準税額×当初割合)

(2)通算割合が当初割合より低い場合(減算)
調整減算額=(基準税額×当初割合)-(基準税額×通算割合)

いずれのケースであっても、計算された調整額を、3年度目の課税期間の申告書において控除対象仕入税額として加算または減算することになります。

5.課税用途と非課税用途の転用による3段階調整

調整対象固定資産については、取得後3年以内に課税業務用から非課税業務用へ、あるいはその逆に転用した場合にも、一定の割合で調整を行う必要があります。

個別対応方式を採用している事業者が対象であり、転用時点までの経過年数に応じて、以下のとおり調整します。

経過期間加減算対象額
1年以内全額
1年超~2年以内2/3相当額
2年超~3年以内1/3相当額

転用が「非課税業務用から課税業務用」へであれば加算、「課税業務用から非課税業務用」へであれば控除となります。

6.実務における注意点と対応

調整対象固定資産に関しては、以下のような実務上の対応が重要です。

  • 税抜100万円以上の資産を取得した際は、3年度目まで保有状況と課税売上割合を継続的に確認する
  • 取得時に95%ルールを適用した資産は、通算課税売上割合との乖離に留意する
  • 転用予定がある場合には、取得日と転用予定日の関係を踏まえ、どの段階の調整割合が適用されるかを事前に把握しておく

これらを意識しておくことで、課税売上割合の変動や用途変更に伴う調整対象固定資産に係る控除対象仕入税額の調整に対して、実務上の備えを進めることが可能になります。

第2章|建設仮勘定・未成工事支出金の控除時期と実務フロー

1.建設仮勘定に計上した支出の仕入税額控除タイミング

建設工事に関する支出については、工事の完成前に金銭を支払うことが少なくありません。こうした支出は一般に「建設仮勘定」として処理されますが、仕入税額控除の適用時期には注意が必要です。

消費税基本通達では、「課税仕入れ等をした日の属する課税期間」で控除できるとされています。また、目的物が完成した日の属する課税期間にまとめて控除する方法も認められています。

つまり、建設仮勘定の支出については、次のいずれかの方法を選択できます。

  • 支払時点ごとに都度控除する
  • 完成時点で一括して控除する

いずれの方式も一定の根拠がありますが、どちらを採るかは契約内容や実態に基づいて判断する必要があります。

2.完成基準・竣工基準と役務提供の判断

建設仮勘定で経理処理される支出については、「役務の提供の完了時点」が仕入税額控除の適否を左右します。

たとえば、設計と建築を別の会社に発注している場合、設計図が完成した時点で「役務の提供」は完了していると考えられます。この場合には、建物の完成を待たずとも、設計図完成の課税期間において仕入税額控除を行うことが可能です。

一方で、設計・建築を同一契約で発注し、引渡しが一括でなされる場合には、建物の完成時が「役務の完了」として整理されることになります。このように、契約ごとの実態を踏まえ、役務完了の時期を正しく把握しておくことが、適正な控除処理の前提となります。

3.手付金や前払金への過度な一般化に注意

建設仮勘定に関しては、「完成まで控除できない」という誤解を招くことがあります。たしかに目的物が完成していない段階では、建設仮勘定として経理するのが通例ですが、支払が「課税仕入れ等」に該当する場合には、完成を待たずに仕入税額控除の適用が可能です。

たとえば、設計業務などが段階的に完了し、その完了に応じて金銭が支払われるような場合には、都度控除が成立する余地があります。ただし、契約書や進行管理資料などに基づき、役務完了の事実を明確に把握しておく必要があります。

4.一括控除を選ぶ場合の実務的な配慮

控除の適用を完成時まで待つという選択も、通達上は許容されています。ただし、建設仮勘定として処理される支出は金額が大きくなりがちなため、控除を繰り延べた場合には資金繰り等への影響を十分に見込んでおくことが重要です。

完成課税期間での一括控除を予定する場合は、その課税期間に控除額が集中しないように収支計画全体を見直すことも選択肢の一つです。

5.未成工事支出金における仕入税額控除の考え方

建設仮勘定と類似の科目に「未成工事支出金」がありますが、こちらも考え方は基本的に同様です。請負契約に基づく役務の提供が完了した時点で、該当部分については仕入税額控除の適用対象になります。

たとえ一括契約であっても、目的物の引渡しやサービスの完了が明確に区分されている場合には、その都度仕入税額控除の判断が可能です。契約条件や工事の進行状況に応じて、実務上の柔軟な対応が求められます。

6.未経過固定資産税とインボイスの留意点

中古建物などの不動産を取得する際、売買契約上、買主が「未経過固定資産税相当額」を負担することがあります。この未経過部分の金額は、あくまで売買当事者間の合意に基づく金銭の授受であり、地方公共団体への納付額そのものではありません。

この点については、売主から買主への不動産譲渡に係る対価の一部として取り扱われます。したがって、建物分に係る未経過固定資産税相当額も課税取引の一部となり、適格請求書の保存がなければ仕入税額控除は認められません。

従来は領収書などの書面で控除が可能とされていた場面もありましたが、インボイス制度においては、形式要件の充足が不可欠です。実務では、売主および不動産仲介業者と事前に協議を行い、適格請求書の交付を確実に受けられるよう準備を進めることが推奨されます。

7.実務対応の確認ポイント

建設仮勘定や未成工事支出金、また未経過固定資産税の処理に関しては、以下のような確認が重要です。

  • 契約内容が「設計と建築の分離型」か「一括型」かを確認する
  • 役務完了の都度控除を行う場合は、完了実績を証明する書類を社内で整理しておく
  • 完成時の一括控除を選択する際は、年度ごとの控除額と資金繰りへの影響を見通しておく
  • 未経過固定資産税については、適格請求書の取得可否を売主側とあらかじめ調整しておく

こうした手続を事前に踏まえておくことで、建設仮勘定や未成工事支出金の仕入税額控除のタイミングを適切に判断し、消費税の実務リスクを抑えることができます。

第3章|固定資産売却時の課税区分とインボイス実務

1.自己使用固定資産の売却は第四種事業に該当するか

簡易課税制度を適用している事業者が、通常の事業とは別に自社で使用していた固定資産を売却した場合、その譲渡取引は一般に第四種事業に該当します。

たとえば、小売業を営む事業者が店舗建物を売却する場合、小売業に係る売上は第二種事業に分類されますが、当該建物の売却収入は第四種事業として扱われます。このように、固定資産の売却によって、1課税期間において2種類の事業を営んだとみなされることになります。

簡易課税制度では、営む事業の種類に応じて適用する「みなし仕入率」が異なります。事業区分の正確な把握が必要になるのはこのためです。

2.みなし仕入率の計算方法と区分の要否

複数事業を営む事業者は、みなし仕入率の計算にあたり、次の2つの方法のいずれかを選ぶことができます。

(1)事業別に区分する方法

課税売上高を事業ごとに区分し、それぞれの売上割合に基づいてみなし仕入率を加重平均で算出します。

例:
(第二種売上/総売上×第二種みなし仕入率)+(第四種売上/総売上×第四種みなし仕入率)

この方法は、売上の事業区分が明確に把握できる場合に適用されます。

(2)区分できない場合の取扱い

売上を事業別に区分できない場合には、複数の事業のうち最も低いみなし仕入率を適用することになります。
このルールは事業者にとって不利な取扱いとなるため、売上の区分は可能な限り正確に行っておく必要があります。

3.付表5-3の記載に関する留意点

固定資産売却に係る売上について、簡易課税制度の申告書に添付する「付表5-3」では、次のような点に注意が必要です。

  • 課税売上高は税抜で記入する(対価の返還等は差し引き後の金額)
  • 区分できない事業がある場合は、自動的に最低のみなし仕入率を適用するルールが適用される
  • 事業の区分を行っていないことにより、納税額が増加する可能性があるため、売上帳や契約書の管理により、区分可能な体制を整えておくことが望ましい

4.一部のみ区分できない場合の対応方法

すべての事業について区分できないわけではなく、たとえば2種類以上の事業のうち1種類だけが区分できない場合には、次のような方法が認められています。

  • 総課税売上高から、区分済み事業の売上高を控除する
  • 残額を、区分できない事業の売上高として取り扱う

この方法により、すべての売上に対して最低みなし仕入率が適用されるのを回避できる場合があります。
部分的な区分であっても、一定の節税効果が期待できることから、事業の種類と売上構成の把握は丁寧に行うことが推奨されます。

5.共有名義不動産の譲渡とインボイスの交付方法

次に、共有名義の不動産を譲渡する場合のインボイス対応について整理します。

共有者のうち一方が適格請求書発行事業者であり、他方が発行事業者でない場合には、所有者ごとに合理的に取引を区分する必要があります。

インボイスの発行については、以下の点に注意します。

  • 発行事業者の所有割合に応じて、譲渡価額および消費税額を按分して記載する
  • インボイスには、税抜価額や税込価額および消費税額を、所有割合に基づいて記載する

たとえば、発行事業者の持分が30%であれば、譲渡価格および消費税額の30%相当分のみをインボイスに記載することになります。
残りの70%部分については、非発行者からインボイスが交付されない限り、買主側で仕入税額控除を受けることはできません。

6.実務上の確認ポイントと対応事項

固定資産の売却や共有名義不動産の譲渡にあたっては、次のような項目をチェックしておくと実務上の支障を防ぐことができます。

  • 売却によって事業区分が追加された場合、その種類を正確に確認しておく
  • 課税売上高の事業別区分が可能かどうかを、帳簿上で検証しておく
  • 区分できない場合は、最低みなし仕入率の適用となることを前提に納税額の見込みを立てる
  • 付表5-3では、税抜ベースで記入することを忘れず、返還等の控除後で集計する
  • 共有名義の場合には、所有割合ごとのインボイス記載額を正確に算定する

これらをあらかじめ整理しておくことで、固定資産売却が簡易課税のみなし仕入率に与える影響を適切に管理しつつ、共有名義不動産の譲渡におけるインボイス実務も混乱なく対応できるようになります。

免責事項

本記事は、調整対象固定資産や建設仮勘定等に関連する消費税制度の概要および実務上の整理を目的として作成されたものであり、特定の取引や事案に対する税務判断を提供するものではありません。
実際の対応を行う際には、必ず専門書籍、顧問税理士、または所轄税務署等の専門機関にご相談のうえ、最新の法令・実務に従って読者ご自身ご判断いただきますようお願いいたします。

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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