【2025年版】FIREを目指す前に|資産目標と生活費のリアルを徹底解説

目次

第1章|FIREブームの背景と本記事の目的

「仕事、いつまで続けるんだろう──?」

そんなふうにふと思ったこと、ありませんか?
私自身、20代のころは「定年まで40年…」という数字を聞くだけで、目の前がぼんやりしてしまった覚えがあります。働く意味、将来の安心、家族のこと、お金の不安。どれも大事なのに、どう整理したらいいのか分からない。

そんな時代背景のなかで、「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」という言葉が注目を浴びるのは、ごく自然な流れかもしれません。

FIREとは「自由な時間を取り戻す」ための考え方

FIREは直訳すれば「経済的自立と早期リタイア」。
もっと噛み砕くと、「お金に縛られず、自分の意志で生きる時間を選ぶ」というライフスタイルのことです。もともとはアメリカ発祥の概念ですが、今では日本でもミレニアル世代や共働き世帯を中心に広く共感を集めています。

「人生100年時代」と言われながらも、終身雇用は崩れ、年金も先細り。そうした背景のなか、「会社に依存しない生き方」「不安に備えた選択肢」としてFIREが台頭してきました。

そしてその考え方の中核にあるのが、「資産運用で得られる不労所得」だけで生活費を賄える状態を目指すというシンプルなゴールです。

SNSで盛り上がるFIRE、でも“数字の裏側”は語られていない

最近では、X(旧Twitter)やYouTubeなどでも「FIRE達成しました!」という投稿を見かけることが増えました。
ですが──本音を言えば、私はその多くが「表面的な成功談」ばかりに偏っていることに、少し違和感を抱いています。

たとえば、「4%ルールで年300万円の生活費なら7,500万円の資産があればOK!」という話。確かに計算は正しい。でも、そこには、

  • 税金や健康保険料の増加
  • 子どもの教育費、介護、住宅修繕など想定外の支出
  • リタイア後の年金や社会保障の変化
  • 資産の取り崩し方とリスク管理

といった、リアルな「生活の数字」や「制度の仕組み」がまったく見えてこないんです。

私がQuiet Money Labでお届けしたいのは、「ブームに踊らされない、本質を見極めたFIREの判断軸」です。

FIREに潜む“数字のワナ”を解きほぐす

本記事では、よくあるFIRE本やSNS投稿では触れられない──でも、本当は絶対に知っておくべき「数字の構造」と「制度の背景」を、会計のプロ×FP視点から丁寧にひもといていきます。

たとえば:

  • 🔍 4%ルールの元ネタ「トリニティスタディ」はどういう研究だったのか?
  • 🔍 日本の社会保障制度(国民年金・健康保険・介護保険)はFIRE後にどう変化するのか?
  • 🔍 結婚、出産、住宅、教育、老後…ライフイベントごとの「本当の費用感」は?
  • 🔍 入金力を高めるには?副業?節約?シミュレーションで見える“現実”とは?

こうした現実を、やさしく、でも本質を外さずに届けるのがこの記事の目的です。

本記事のゴール:「FIREに必要な“資産目標”と“生活費”を、自分の言葉で語れるようになる」

FIREに成功する人たちの共通点は、実はシンプルです。

それは──
**「自分の生活を、自分で数字で語れる人」**です。

「私は、毎月このくらいの生活費で暮らしたい」
「老後に備えて、年金とあわせてこれくらいの資産を確保したい」

そうした具体的な数字を“感覚”ではなく、“構造”として把握している人は、FIREを語る上でもブレがない。

本記事では、その第一歩として、

  • FIRE達成のための資産目標の計算方法
  • 現実的な生活費の算出方法
  • 社会保障や税金の仕組みを踏まえたシミュレーションの考え方

──をひとつずつ、丁寧に掘り下げていきます。

少しでも「自分らしい人生を設計したい」と思ったなら

FIREを目指すかどうかは人それぞれです。
ですが、「自分の人生を数字で捉え直す」という試みは、どんな人にも大きな意味を持つはずです。

ぜひこの機会に、自分と向き合う時間を持ってみてください。
次章ではまず、FIREの根幹となる「4%ルール」や「25倍理論」がどう生まれ、どんな前提のもとで語られているのかを、じっくり見ていきましょう。

第2章|FIREに必要な資金をどう計算する?

「FIREを目指すには“7,500万円”あれば大丈夫?」
…たしかに、そう言われることは多いんですが、私はこの一言だけでは全然足りないと感じています。

ネットでよく見る「年間支出の25倍=FIRE達成」というシンプルな方程式。たしかに目安にはなります。でもそれは、“元ネタ”を正しく理解してこそ意味を持つものなんですよね。

この章では、FIREの基礎理論とされる**「4%ルール」や「25倍理論」の出どころや限界、そして日本の制度に当てはめるとどう変わるか?**について、1つひとつ整理してみたいと思います。

2-1|「4%ルール」の出どころは“トリニティスタディ”

そもそもこの「4%ルール」はどこから来たのか。
その答えが、1998年にアメリカ・トリニティ大学の教授陣によって発表された研究論文──トリニティスタディです。

この研究の目的は、こうでした。

「株式や債券を組み合わせたポートフォリオから、毎年どれくらいの金額を取り崩せば、引退後30年間、資産が尽きずに済むか?」

つまり、FIRE実践者にとってはまさに命綱ともいえる問いです。

この研究では、米国の1925年〜1995年の市場データをもとに、

  • 株式と債券の比率(例:75%株+25%債券など)
  • 引き出し率(毎年何%を使うか)
  • 運用期間(15年〜30年)

という組み合わせでシミュレーションを行いました。

その結果、「初年度にポートフォリオの4%を引き出し、その後はインフレ率に応じて生活費を調整する方式」であれば、30年間資産が尽きる確率は極めて低いという知見が導かれたのです。

特に、株式75%/債券25%のポートフォリオでは30年後でも98%の成功率を出せたという点が、多くのFIRE実践者に安心感を与えた理由でしょう。

2-2|「年間支出の25倍」が導かれた背景

ではなぜ「25倍」なのでしょうか?

これは単純な数式の裏返しです。

年間支出の4%で生活できると仮定すれば、必要な資産額は
1 ÷ 0.04 = 25年分 という理屈になります。

たとえば、年間生活費が300万円なら、

300万円 × 25倍 = 7,500万円

がFIRE達成のための目安資産額となるわけです。

ここまでの話を聞くと、「なるほど!それなら私も目指せそうだ!」と思うかもしれません。

でも──私はここで、**「少し立ち止まって」**ほしいと思うんです。

2-3|“25倍理論”に潜む落とし穴

結論から言うと、この25倍理論は“過去の米国市場”を前提にしたモデルにすぎません。

そして日本では、次のような“構造的な違い”があります

📌 円安とインフレ

2022年以降、急激な円安とインフレが進みました。
アメリカのインフレに合わせて生活費をインフレ調整するモデルが、日本でそのまま通用するとは限りません。

📌 公的医療制度の存在

アメリカでは退職後に医療費が爆発的に増えるため、資産取り崩しを慎重に設計する必要がありますが、日本は国民皆保険のおかげで医療費は比較的安価です。その代わり、国民健康保険料の自己負担が大きいという側面もあります。

📌 税金の扱い

米国では資産運用益への課税が一定であり、ルールも比較的単純です。一方日本では、FIRE後も住民税・所得税・国民年金・健康保険料など多段的な負担が続きます。

年収ゼロでも、**住民税の均等割、健康保険料の均等割、介護保険料(40歳以上)**は自動で発生するので、これを生活費に織り込んでおかないと資金はすぐに削られます。

2-4|「安全な引き出し率」は“調整可能”であるべき

実際のところ、トリニティスタディの中でも著者たちはこう述べています。

「計画という言葉を強調する必要がある。引き出し額は常に上下動し、途中での調整が必要になる可能性が高い」

つまり、「4%というのはあくまで“目安”であって、“保証された正解”ではない」ということです。

実際、後年の研究では「緊急支出リスク」や「市場ショックの年に支出を減らすリトレンチメント・ルール(支出抑制ルール)」などが追加検討されています。

2-5|あなたのFIREスタイルに合わせて“資産目標”は変わる

「FIRE」と一言で言っても、実はスタイルはさまざまです。

FIREの種類概要資産目標の規模感
ファットFIRE高級なライフスタイルを維持しつつ完全リタイア最も高い
リーンFIRE必要最低限の支出に抑えて完全リタイア中〜高
サイドFIRE投資+副業の収入で生活、完全には辞めない
バリスタFIRE投資+パートタイム(週2〜3日勤務など)比較的低い
コーストFIRE若いうちに資産だけ貯め、あとは働きながら維持柔軟

たとえば、サイドFIREを選ぶなら「資産取り崩しゼロ」も可能ですし、バリスタFIREなら社会保険加入を続けられるので、保険料がグッと安く抑えられるという効果も期待できます。

2-6|数字に追われないために、「自分のFIRE方程式」を持つ

ここまでお読みいただいて、いかがでしょうか?
「FIREは年間支出×25倍」というシンプルな言葉の裏には、**想像以上に複雑な“現実の変数”**が絡んでいることが、お分かりいただけたと思います。

だからこそ──
“あなた自身のFIRE方程式”を持つことが、最も重要です。

✅ 自分の生活費をしっかり把握する
✅ 家族構成やライフイベントを踏まえて「想定外支出」に備える
✅ 税金・社会保険・年金を構造的に理解する
✅ 資産取り崩しの計画は「柔軟性」も組み込む

こうした視点が、SNSの「FIRE達成しました!」という投稿には見えづらい部分。
Quiet Money Labでは、まさにこういう“見えない構造”をていねいに解きほぐしていきます。

次章では、その一歩として**「自分の生活費を正しく知る方法」**について掘り下げていきます。
FIREは「自由に生きること」が目的ですが、その自由には“数字で語れる力”が必要です。

第3章|自分の生活費を正確に把握する方法

「生活費って、意外と“なんとなく”でしか把握していない人が多いんですよね」
私もそうでした。「家賃と食費で…あとなんだっけ?」くらいの感覚で。
でもFIREを目指すなら、“なんとなく”ではダメなんです。

この章では、FIREに必要な「資産目標」を支えるもう一つの重要な要素、“自分の生活費”をどう見積もるかにフォーカスしていきます。
4%ルールや25倍理論も、この生活費の精度が狂えばすべてが崩れてしまいますから。

3-1|まずは「ライフイベント費用」を正しく知ることから

「月々の生活費だけわかっていれば十分」と思っていませんか?
確かに家賃、食費、光熱費…毎月の支出は計算しやすいです。
でも──人生って、それだけじゃ済まないんですよね。

たとえば以下のようなライフイベントには、まとまったお金が必要です

ライフイベント費用の目安(夫婦・子ども1人想定)参考
結婚・新婚旅行約300〜400万円🔷ゼクシィ調査
出産〜高校卒業約949万円/子1人🔷文科省・厚労省
大学進学(私立)約400〜500万円🔷文科省
住宅購入(首都圏)自己資金830万円+ローン3,000万円超🔷フラット35調査
老後のゆとり生活月36.1万円×30年=1億円超🔷生命保険文化センター

これ、**「家計簿では見えないコスト」**なんです。
「FIREを目指す=こうしたライフイベントをどこまで前倒しし、どれを削り、どれを組み込むか?」という設計力が必要なんですね。

3-2|生活費の全体像をつかむには、「固定費」と「変動費」に分けて考える

では、実際の生活費はどう分類するとわかりやすいか?
おすすめは、以下の2ステップです。

✅ Step1:固定費を洗い出す

  • 家賃/住宅ローン返済額
  • 通信費(スマホ、Wi-Fi)
  • 保険料(生命保険、医療保険、火災保険)
  • サブスク費(動画配信、音楽、クラウド、ジムなど)

これらは、毎月ほぼ一定額が出ていく支出
ここを見直すだけで、FIREまでの「月間キャッシュフロー」が劇的に改善します。

🔷松井証券の実態調査では、サブスク利用者は全体の約4割で、月平均3,828円支払っているとのこと。
年額にすると約45,936円──見直す価値、大いにあります。

✅ Step2:変動費を平均化して把握する

  • 食費(外食含む)
  • 交通費・交際費・医療費・日用品
  • 娯楽費・趣味・ペット関連
  • 教育関連(塾、習い事)

これらは月によって大きく波が出る費用ですが、だからこそ過去3〜6ヶ月で平均を出すことが重要です。

3-3|実は生活費を“高く見積もっておく”方が、FIREは安定する

ここで一つ、あえて逆張り的な視点を出させてください。

FIREを目指す人ほど、「できるだけ生活費をミニマムにして、目標金額を下げたい」という傾向があります。
でも実務的には、それって非常に危ういんです。

その理由は明確です。
生活費の見積もりが甘いと、FIRE後に以下のような事態が起こるから。

  • 想定外の支出(家の修繕、親の介護、災害など)に対応できない
  • 年齢とともに支出が増える(医療費や介護保険料など)
  • 精神的余裕がなくなり、「結局また働く」羽目に

ですから私は「FIREプランは“贅沢”を含めて設計するべき」と考えています。

3-4|数字が不安な人は「家計アプリ」×「積立シミュレーター」を活用

「うちの生活費って、いくらなんだろう…?」
そんな人は、無理にExcelで管理しようとしなくても大丈夫です。

最近は優秀な家計簿アプリが無料でも使えますし、
将来のライフプランを無料でシミュレーション
できるツールも提供されています。

また、積立投資に関しては、以下のような複利計算の考え方を取り入れてみてください

たとえば、年3%の利回りで30年間運用すれば、
「月3万円の積立」でも最終的に約1,400万円以上の資産に成長します。
(元本:1,080万円、運用益:約350万円)

このように、「今の生活費」×「今の積立余力」から、将来のFIRE目標達成可能性を“逆算”することが、現実的な道のりになります。

3-5|老後に向けて生活費はどう変化する?「2,000万円問題」の裏側

生活費の設計で忘れてはならないのが、「老後資金の実態」です。

🔷金融庁の試算によれば、夫婦二人で年金以外に約2,000万円不足するという“老後2,000万円問題”が話題になりました。

この背景には:

  • 公的年金の減少(国民年金だけでは月6〜7万円程度)
  • 退職給付の縮小(大企業でも退職金が3〜4割減少)
  • 生活コストの上昇(特にエネルギー・医療費・介護費)

──といった現実があります。

特に、FIRE達成後は「自営業者扱い」となるため、以下の点も考慮が必要です:

  • 国民健康保険料:所得がゼロでも最低限発生
  • 国民年金保険料:令和7年現在で月17,510円(+付加年金あり)
  • 介護保険料:40歳以上は負担が開始され、自治体によって大きな差がある

つまり、FIRE後の生活費は「今と同じ」ではありません。
制度の変化と社会保障の構造を正しく理解しておくことが、FIREを破綻させない鍵になるのです。

3-6|FIREに必要な「生活費×安心感のバランス」を自分で設計しよう

結論として、私はこう思っています:

「節約生活をベースにしたFIRE」ではなく、
安心して支出できるFIRE」のほうが、人生の幸福度は確実に高い。

もちろん、全員がファットFIREを目指す必要はありません。
でも、サブスクもカフェ代も旅行も──「これは自分の人生に必要」と思える支出は、削る必要なんてないと思うんです。

そのかわり、

  • 何にいくら使っているかを「自分の言葉」で語れるようにする
  • 未来にどんな出費があるかを、ざっくりでも把握しておく
  • “いざというときの生活防衛費”を数ヶ月分、現金で用意しておく

──そんな地に足のついた設計が、FIRE成功への“リアルな道筋”になるはずです。

次章では、いよいよ「資産形成の具体的なシミュレーション方法」へと進みます。
貯蓄率、投資利回り、複利の力──これらをどう組み合わせれば、自分にとって現実的なFIREスケジュールが見えてくるのか。じっくり解説していきます。

第4章|資産形成のシミュレーション:貯蓄率×利回りの力

「自分がFIREできるのは何年後だろう?」

正直に言えば、私もこの問いには何度も悩みました。
計算方法が分からないわけじゃないんです。
むしろ、“前提”が定まらないからこそ、数字が何度も揺らぐんですよね。

この章では、FIRE達成までの道のりを見える化するために、「貯蓄率」と「運用利回り」という2つの軸を中心に、
「自分はいつFIREできるのか?」を現実的なモデルで再現可能な形
でシミュレーションしていきます。

4-1|「貯蓄率を上げる」だけで、FIREは加速する

まずは、資産形成の出発点とも言える「貯蓄率」に注目しましょう。
ここで注目したいのが、FIREムーブメントの中で語られている**“貯蓄率とリタイア可能年数”の関係性**です。

🔷FIRE界隈で有名な基本式(投資利回りを無視する単純モデル)

貯蓄率リタイア可能までの年数
10%約51年
25%約32年
50%約17年
75%約7年

(※ 生活費を25年分ためる前提)

例えば、月収30万円で生活費15万円=貯蓄率50%であれば、17年間でFIRE可能という計算です。
ただしこれは「利回りゼロ(=貯金だけ)」の極端な仮定。実際には、運用による複利効果がもっとも重要な加速装置になります。

4-2|投資利回りが生む“複利のちから”をなめてはいけない

資産形成で使われる超基本的な方程式がこちら:

将来資産額 = 毎月積立額 × {(1 + r)^n – 1} ÷ r

ここで、

  • r:年利(例えば3%なら0.03)
  • n:年数
  • 積立額は毎月ベースで計算

これを使えば、「毎月いくら投資すれば、何年後にいくらになるか?」が簡単に出せます。

✅例:月5万円を年利3%で30年間積み立てた場合

  • 元本:5万円 × 12ヶ月 × 30年 = 1,800万円
  • 利息込みの最終額:約2,900万円
  • 運用益:約1,100万円(=元本の1.6倍弱

FIREを目指すなら、この「時間を味方につける」設計が何よりも大事です。

4-3|複利の効果を“目で見て実感”する

私自身、「複利がすごい」と言われてもピンと来なかったんです。
でも、あるときエクセルで毎年の資産推移を可視化したら──気づいてしまいました。

最初の10年は増えない。でも、20年目から加速度的に増える。
これは、“我慢した人だけが見える景色”なんですよね。

(運用例:年利4%、月5万円、30年間積立)

10年目:約750万円
20年目:約1,600万円
30年目:約2,900万円

このカーブを見て、「やっぱり最初の数年で諦めたらもったいない」と痛感しました。

4-4|現実的なFIREプランは「入金力」×「複利」×「変数の許容」で決まる

FIREに向けて資産形成を進めるとき、私はこう考えています:

🔸「自分がいくら投資できるか(=入金力)」
🔸「どんな利回りで、どれくらい運用するか(=複利)」
🔸「どこまで“ずれ”を許容するか(=リスク耐性と柔軟性)」

たとえば、入金力が5万円の人と、10万円の人では単純にFIRE達成までの年数が半分になります
でもそれ以上に重要なのが、「その5万円を10年後も続けられるか?」という視点です。

4-5|「固定シナリオ」ではなく「変化に強いシナリオ」を作ろう

ここで、多くの人が陥る“落とし穴”があります。

それが──

「平均利回り4%」「支出は25万円/月」「30年間取り崩し」で計算した“理想のFIREプラン”をそのまま信じてしまうこと。

現実には、次のようなブレが必ず起こります:

  • 年によって投資がマイナスになる(特に退職直後の暴落は大ダメージ)
  • 家族構成が変わる(結婚・出産・離婚など)
  • 金利や税制が変わる(日本は変化スピードが遅いがゼロではない)
  • 「思ったよりお金を使いたい」となる(←けっこう多い)

だからこそ、シナリオは1つでは足りないんです。

4-6|複数のFIREシナリオを持つ人は、ブレない

Quiet Money Labでは、次のような「3つのシナリオ設計」をおすすめしています:

シナリオ名内容用途
ベースケース想定利回り3%、月5万円積立、65歳まで働く標準的な将来予測
楽観ケース想定利回り5%、副業で入金力+3万円FIREの“可能性”を検討するため
悲観ケース利回り1%、途中で積立中断、支出やや増加リスクに備える予備プラン

この3本柱で管理しておくと、「想定外」が起きたときに右往左往せずに済むんです。
特に“悲観ケース”を作っておくと、「あ、これでも死にはしないな」と安心できます(笑)。

4-7|投資の中身は「利回り」より「続けられる設計かどうか」

ここまで来ると、皆さんこんな疑問が湧いてくるかもしれません。

「じゃあ実際、どんな投資をすればいいの?」

これは正直、万人に共通する“正解”はありません。
でも1つだけ、私が強くお伝えしたいのは:

利回りではなく“続けられる設計”を重視すべき」ということです。

たとえば…

  • 🔸ほったらかし投資が向いているなら、つみたてNISA×インデックスファンド
  • 🔸選ぶのが面倒・時間がないなら、ロボアドバイザー
  • 🔸少額から分散したいなら、不動産クラファン×月1万円から

──といった“仕組み型の投資”が、心理的にも続けやすく、FIRE向きです。

📌具体的なサービスを一覧で確認してみたい方は以下の記事を参考にしてみてください。
👉 【2025年最新版】ネット証券の選び方と比較ガイド|手数料・NISA対応・アプリ機能まで徹底解説
👉 【2025年版】ロボアドバイザー比較ガイド|新NISA対応・手数料・特徴をわかりやすく整理
👉 初心者向け|不動産クラファンおすすめサービス一覧【少額・安心設計】2025年版
👉 はじめてのFX口座選び

4-8|「数字で語れるFIRE」を持てる人が、遠回りせずに済む

私自身、20代のころは「投資ってなんか怖い」「FIREってお金持ちだけでしょ」と思っていました。
でも今では、Excelと電卓で、“自分の未来の姿”を数字で可視化することができるようになった
これは小さなようで、大きな変化でした。

FIREは“感覚”では達成できません。
でも“構造”を理解し、日々を積み重ねれば、誰にでも手が届く現実でもあります。

次章では、そんなFIRE後に実際に直面する生活費・社会保障・税金の現実について、さらに掘り下げていきましょう。

第5章|FIRE達成後の生活費と社会保障のリアル

「FIREを達成したら、毎日が自由で楽しいだけ?」
…それ、ちょっとだけ甘い見立てかもしれません。

FIREの本番は、実はリタイア“後”の生活設計にあります。
この章では、FIREを果たした後に直面する「生活費」「社会保険料」「年金」「税金」といった**“固定コストの壁”**を、実務目線で徹底的に解剖していきます。

5-1|リタイア後は「生活費の質」と「社会保障の切り替え」が勝負

会社を辞めた後、まず直面するのが「支出の構造がガラッと変わる」という事実です。
特にインパクトが大きいのはこの3点

  1. 会社員から自営業者扱い(国保・国年)への切り替え
  2. 年収ゼロなのに「保険料」がかかるという現実
  3. 年金受給までの“無収入期間”の長さ

なんとなく「リタイア後は節約すればいいでしょ」と思いがちですが、社会保険料の仕組みを知っているかどうかで支出の見通しが大きく変わってくるんです。

5-2|国民健康保険の「思ったより高い現実」

会社を辞めると、会社が半分払ってくれていた健康保険料は自分で全額支払う必要があります。
しかも、前年の所得をもとに計算されるため──

🔻「リタイア初年度は収入ゼロなのに、前年の給与に基づく国保料がドンッと請求される」

という逆転現象が起きやすいんです。

✅ 例:東京都在住・独身・前年所得400万円の場合(参考値)

  • 医療分保険料:約26万円
  • 後期支援金分:約8万円
  • 介護保険料(40歳以上):約9万円
  • 年間合計:約43万円(≒月3.5万円)

これを、「年金受給前の貯蓄から払う」と考えると──
「1年で生活費+40万円超」が追加でかかるわけです。

📌参考:自治体によって料率が異なるため、FIRE後の住民票をどこに置くかは重要な戦略ポイントです。

5-3|国民年金は「払わなくてもよい」制度もあるが…

国民年金保険料(2025年度)は月額17,510円
こちらも原則として全額自己負担。
しかし、所得がない(あるいは極端に少ない)場合は次の制度が使えます:

制度名条件メリットデメリット
免除制度所得が一定以下支払い義務なし/一部年金受給可受給額が減る
納付猶予制度50歳未満/所得が一定以下一時的に支払を止められる将来支払わないと年金に反映されない

このように、「払わない」という選択肢もあるにはあるんですが、
やはり「最低限の年金は確保したい」ので、できれば払っておくほうが安全というのが現実的な判断です。

5-4|年金の繰下げ・繰上げでどう変わる?

FIREと年金の関係でよく話題にのぼるのが「繰下げ受給」。

  • 繰下げると → 1ヶ月あたり0.7%増額(最大75歳まで)
  • 繰上げると → 1ヶ月あたり0.4%減額

つまり、65歳からの受給を70歳に繰り下げると、
42%の増額になります。

📌 ただし、「長生きできたら得」という**ある種の“賭け”**でもあるため、
自身の健康状態・家族歴・貯蓄状況と照らし合わせて判断する必要があります。

5-5|40歳以上の“介護保険料”が地味に重い

意外と盲点になりやすいのが「介護保険料」です。

  • 会社員のとき:給与天引きで気づきにくい
  • FIRE後(40歳以上):国保とセットで課される

例として、40代・東京都民で収入が200万円以下でも、
年間8万円前後の介護保険料を支払うケースもあります。

これが20〜30年と続くと考えると、
「介護なんてまだまだ」と思っていても、現役引退時から支出が始まっていることを忘れてはいけません。

5-6|“緊急支出”にどう備えるか? FIRE後こそ柔軟性が命

会社を辞めた後に最も怖いのが、「想定外の支出」です。

  • 医療費(高額療養費制度ありでも上限あり)
  • 家電の買い替え/住居修繕費
  • 家族の介護や支援
  • 災害・事故など突発事象

こうした支出は、いくら事前に計画しても“ゼロにはできない”もの。
だからこそ──

「FIRE後に取り崩す資産は、すべて投資に回さないでおくこと」

が極めて大切なんです。

✅参考:セーフティネットの一例

項目内容
高額療養費制度医療費の自己負担上限を抑える制度
傷病手当金(会社員時)退職後は対象外
小規模共済(自営業者)退職後には不適用
生活保護資産が一定以下で条件を満たせば対象

FIREは、「自由=完全に孤立」ではありません。
日本の制度を活用しながら、“無理のない範囲での自由”を守る工夫が求められます。

5-7|「老後30年問題」と資産取り崩しの設計

FIREを達成しても、人生は続きます。
平均寿命から逆算すると、65歳でリタイアしてもその後20〜30年生きる可能性が高い

だからこそ──

「どのくらいのペースで取り崩すか?」
「どの資産から、どの順番で取り崩すか?」

この2つが、**“第二の資産設計”**とでも呼べる重要フェーズになるのです。

🔸生活費の支出抑制ルール(たとえば「年間支出は前年末の資産×3.5%以内」など)
🔸ボラティリティが高い資産は、退職直前に比率を減らす
🔸必要資金3〜5年分は現金・低リスク資産で保有

こうしたルール設定が、FIRE後の“安心して使う”生活を支えてくれます。

5-8|「FIRE後」の見えない不安とどう付き合うか

私がこれまで複数のFIRE希望者と話してきて感じたのは──

「実は、FIREの後に訪れる“予定のない時間”の方が、精神的にキツいかもしれない」

ということでした。

収入がない生活では、1円使うことすら慎重になるし、
周囲と生活スタイルがズレることで孤独感を感じる人も少なくありません。

だからこそ、支出や社会保障だけでなく、“心の生活設計”も大切なんですよね。

👉 次章では、このようなFIRE後の支出や社会保障リスクを踏まえた上で、
あらためて「自分のFIRE計画をどう見直すか?」
行動ベースのプランニングへと導いていきます。

第6章|FIREに向けて押さえておきたい心構えと行動プラン

「なんとなく不安だから、とにかくお金を貯めよう」
「とりあえずインデックス投資しておけば、なんとかなるでしょ」

そんなFIREの始まり方もあるけれど、
本当に大切なのは、“数字に意味を持たせること”だと、私は思っています。

6-1|FIREの目的は「働かないこと」ではなく「選べること」

まず、大前提として整理しておきたいことがあります。

FIRE=完全リタイアと思われがちですが、Quiet Money Labでは

選択肢を増やすこと=FIREの本質
と捉えています。

つまり──

  • やりたくない仕事を“やらなくていい自由”
  • お金のために我慢する生活から“抜け出す自由”
  • 好きな仕事を、収入度外視で“選べる自由”

これらの自由を手に入れることが、FIREの真の価値だということです。

6-2|数字だけではFIREを描ききれない。「価値観マップ」を併せて持とう

FIREを語るとき、どうしても「貯蓄率」や「必要資産額」に目が行きがちです。
でも、その裏側にある“自分にとっての豊かさ”を言葉にしている人は意外と少ないんですよね。

たとえば…

  • 毎月3万円かけてでも大好きな猫に安心の保険をかけたい
  • 海外旅行に年2回は行きたい
  • 家族との夕食は外食でも手を抜かない
  • 逆に、車やブランド品は興味ゼロ

こうした「価値観の優先順位」は、FIRE生活を続けるうえで支出設計の軸になるんです。

私が実際に行ったのは、「価値観マップ」を書くこと
自分の大切にしたい支出ベスト5を書き出し、それ以外は“迷ったら削る”。
このルールに助けられた瞬間、何度もあります。

6-3|“途中変更”を前提にしたFIRE設計が、むしろ最強

FIREの落とし穴、それは──「計画が完成したら、あとは突き進むだけ」という思い込みです。

でも実際は、

  • 家族ができた
  • 病気や介護が発生した
  • 思ったより趣味にお金がかかる
  • 社会制度が変わった(例:NISA・iDeCoの改正)

…こうした“予定外”が山ほど起きるのが人生です。

だからこそ、

「プランAが崩れても、プランB・Cがある」

という「柔軟性のあるFIRE設計」こそが、最強だと思っています。

たとえば──

状況変化柔軟な選択肢の例
資産が予定より増えないバリスタFIREに移行/支出を一時見直す
子どもが生まれた教育費の確保を優先し、FIRE時期を後ろ倒し
為替が大幅変動した国内中心の生活設計にシフト/住む地域を見直す

こうした「予定変更に備えたマインドセット」が、継続可能なFIREの鍵になります。

6-4|家族とFIREを共有できないと、計画は崩れる

ここは少しセンシティブな話かもしれません。
FIREを目指すうえで、家族の理解を得られないことに悩む人は多いです。

  • 「そんなに働かないでどうするの?」
  • 「リスクありすぎない?」
  • 「子どもの教育はどうするの?」

といった現実的な不安は、むしろ当然。
だからこそ、FIREを目指すなら、“個人の夢”ではなく“家族の設計”として伝える努力が不可欠なんです。

✅ 具体的な行動案:

  • 毎月の生活費を“夫婦で”見直す
  • 子どもが小さいうちは“サイドFIRE”に留める
  • 不安が強い相手には「資産減少時の対応策」もセットで共有する

お金の話は、言いにくい。でも、言わないまま突き進んだFIREは長続きしません

6-5|FIREの計画を「可視化」することで、人は前に進める

私がこれまでお会いしたFIRE達成者の多くに共通していたのが、

「自分のFIRE計画を、必ず“見える形”で持っていた」

という点です。

  • エクセルの資産シミュレーション表
  • A4一枚のFIREライフ年間支出計画
  • 積立額と投資額を貼った冷蔵庫のメモ

方法は何でもいい。でも、可視化しておくと“曖昧さ”が減るんですよね。

逆に、「貯まったら考える」「引退したら考える」では、いつまで経っても不安は減りません。

6-6|FIRE実現に向けた行動ステップ【実践編】

では最後に、「FIREをいつか叶えたいけれど、今はぼんやりしている…」という方向けに、
具体的な行動ステップをまとめておきます。

ステップ行動内容
Step1|生活費を把握家計簿アプリ or 手書きで3ヶ月記録。支出の固定費/変動費を分ける。
Step2|目標資産額を計算年間支出×25倍+ゆとり+予備費(例:年間300万→7,500万円)
Step3|積立余力を算出今の収入から「毎月いくら投資に回せるか」を可視化。
Step4|投資商品を選ぶつみたてNISA/iDeCo/ロボアド/不動産クラファンなど。
Step5|年1回のFIRE進捗レビュー収入・支出・資産推移・制度改正などを踏まえ、プラン修正。

投資を始めたいけれど、何から選べばいいか迷っている方へ
投資信託・ロボアド・不動産クラファン・FX自動売買など、少額から始められる“仕組み型投資”を比較した一覧記事をご用意しています。
あなたに合った始め方を探すヒントに、ぜひこちらをご活用ください。
👉 【2025年最新版】ネット証券の選び方と比較ガイド|手数料・NISA対応・アプリ機能まで徹底解説
👉 【2025年版】ロボアドバイザー比較ガイド|新NISA対応・手数料・特徴をわかりやすく整理
👉 初心者向け|不動産クラファンおすすめサービス一覧【少額・安心設計】2025年版
👉 はじめてのFX口座選び

6-7|「静かなFIRE」でいい。見せびらかさなくても、満ち足りる人生はある

FIREを語ると、どうしても「資産1億円!」とか「海外移住!」とか、派手な話が目立ちがちです。
でも私は、そんなFIREじゃなくていいと思ってるんです。

  • 月20万円の支出で、自由に暮らす
  • 家族と過ごす時間を最優先にする
  • 好きな文章を、誰にも気を遣わず書き続ける

そんな静かで穏やかなFIREだって、立派なFIREです。
むしろ、「他人に見せなくても、自分が心から納得できる生き方」を貫けることこそ、
FIREの本質なのではないでしょうか。

注釈

※本記事は、2025年時点の制度・税制・市場情報に基づき作成しています。将来的な法改正や制度変更により内容が変更される可能性がありますので、最新の情報は各制度の公式サイト等をご確認ください。

※投資には元本割れのリスクがあり、運用結果は将来の利益を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

※記事内で紹介している制度(NISA、iDeCoなど)や投資商品・サービスに関する説明は一般的な概要を示したものであり、すべての方に該当するものではありません。必要に応じて金融機関・税理士・ファイナンシャルプランナー等へのご相談をおすすめします。

出典:
日本年金機構|国民年金保険料|日本年金機構
三井住友信託銀行|住宅ローンの頭金はいくら? 頭金を決めるときのポイントや貯め方などについて解説 | 住宅ローンコラム | 三井住友信託銀行
野村アセットマネジメント|人生にはどれくらいお金がかかるの? | 資産運用スタート編 | お金を育てる研究所
松井証券|家計管理に関する実態調査 | 会社案内・IR情報 | 松井証券
厚生労働省|社会保障とは何か|厚生労働省

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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