法人税の基本構造をやさしく解説|納税義務者・課税範囲・事業年度の全体像

目次

Chapter 1| 法人税の役割を俯瞰する

法人税の基本的な性格と分類

法人税は、企業活動に伴って生じた利益、いわゆる所得に対して課される税金です。
所得とは、売上などの収益から必要経費などを差し引いた最終的なもうけのことであり、この金額に所定の税率を乗じて計算されます。

税金にはいくつかの種類がありますが、大きく分けると「直接税」と「間接税」に分類されます。
法人税は前者の「直接税」に該当し、納税義務者が自ら税金を申告・納付する仕組みとなっています。
これは、所得税や相続税と同じく、課税される対象者と納税者が一致するという特徴を持っています。

一方、消費税のような「間接税」は、消費者が最終的な負担者となり、企業などがその税額を預かって納付するという形を取ります。
このように、法人税は税制全体の中でも「誰に・どのように」負担を求めるのかという観点から見たときに、直接的な役割を持つ税目だとされています。

税制における法人税の役割

法人税は、国家の税収構造の中で重要な位置を占めています。
法人から安定的に税金を確保できる仕組みであるため、景気変動の影響を受けやすいとはいえ、一定の税収を確保しやすい特徴があります。
加えて、地方においても「法人住民税」 や「法人事業税」などの形で、法人税収は地方自治体の貴重な財源となっています。

このような構造から、法人税の動向は国・地方双方の財政運営に直接的な影響を与えることになります。
企業の業績が好調であれば税収も増え、反対に景気が冷え込むと税収も落ち込む傾向があります。

また、法人税の税収が不足した場合、地方交付税の財源にも影響が及びます。
これは、地方交付税が所得税や法人税などを財源として組み立てられているためであり、結果的に一部の自治体では財源補填が難しくなる可能性も否定できません。

所得課税と資産課税の違い

法人税は「所得課税」に該当する税金です。
所得課税とは、企業の経済活動の結果として得られた利益(所得)に対して課税を行う仕組みを指します。
簡単に言うと、売上(益金)から費用(損金)を差し引いた利益(所得)額に税率を乗じて税額を計算します。
このように、法人税の金額は企業のもうけに応じて変動することになります。

一方で、「資産課税」という考え方もあります。
これは企業が保有している土地や建物などの資産そのものに対して課税するもので、固定資産税がその代表例といえます。
資産課税の場合、企業の経済活動によるもうけの有無にかかわらず、保有する資産の価値に基づいて課税が行われる点が、所得課税との大きな違いです。

このように、法人税は企業活動の成果に応じて課税がなされる仕組みであり、企業の「稼ぐ力」に対して負担を求める制度といえます。

公平性の観点から見た法人税

法人税は、税負担の公平性という点でも重要な役割を担っています。
公平性には大きく「垂直的公平」と「水平的公平」という考え方があります。

垂直的公平とは、経済的に余裕のある法人がより多くの税負担をすべきだという考え方を指します。
例えば、利益(課税所得)の大きな企業が多くの法人税を納めることは、この垂直的公平に基づいた仕組みといえます。

一方、水平的公平とは、同じような所得や資産の状況にある法人は、等しく税負担を行うべきという考え方です。
特定の企業だけが税制上の特例や制度を活用することで、結果的に税負担を軽減できてしまう状況は、水平的公平を損なうおそれがあるという指摘もあります。

このような考え方を踏まえ、法人税の制度設計は、所得や資産の大小に応じて適切に負担を求めること、また、制度の不公平感を減らすことが求められているといえるでしょう。

国際的な法人税の動き

近年では、法人税に関連する国際的な議論も活発になってきています。
特に、多国籍企業による利益移転や税負担の不均衡を是正するための「グローバル・ミニマム課税」の導入が注目されています。

これは、一定水準以下の法人税率で企業を優遇する国が存在することによって、企業が税負担の軽い国に利益を移転することを防ぐための国際的な取り組みです。
実際の仕組みとしては、法人税の実効税率が一定の水準(たとえば15%)を下回る場合、一定の水準との差額を他国で課税できるようにするという制度です。

こうした仕組みが導入されることで、企業が意図的に税率の低い国へ利益を移すインセンティブが抑制され、各国での課税のバランスが取れる可能性があります。
国際間の税制調和が進むことで、法人税の公平性や税収の安定性が高まることが期待されています。

法人税と二重課税の関係

法人税をめぐっては、「二重課税」の問題が指摘されることもあります。
これは、同じ所得に対して複数回課税が行われる状況を指すもので、たとえば企業が得た利益に対して法人税が課されたあと、その利益を株主に配当として分配した場合、今度は株主の側で所得税が課されることがあります。

このように、法人段階と株主段階の両方で課税が行われることを「法人税の二重課税」と呼びます。
この仕組みそのものは制度として成立していますが、実務においては、配当控除や受取配当金の益金不算入、外国法人から配当を受けた場合の外国税額控除などの調整手段によって負担の重複をある程度軽減できるようになっています。

とはいえ、国際的な二重課税の回避には租税条約などが必要となる場面も多く、制度間の調整が重要となる領域の一つです。

Chapter 2 | 納税義務者と課税所得の範囲

法人の種類と納税義務の違い

法人税が課されるかどうかは、その法人の性質や活動内容によって異なります。
一般的には、内国法人と外国法人に大別され、それぞれに応じて納税義務の範囲が定められています。

内国法人とは、日本に本店や主たる事務所を置いている法人を指し、その活動全体に対して法人税が課税される仕組みになっています。
ただし、内国法人であっても、その法人の形態によっては、すべての所得が課税対象となるわけではない場合もあります。

たとえば、普通法人については、国内外すべての所得が法人税の課税対象となります。
一方、公益法人や協同組合などについては、原則として「収益事業」から生じた所得のみに法人税が課され、それ以外の所得については非課税とされるケースが見受けられます。

また、人格のない社団や財団のような法人格を有しない団体であっても、法人税法上では一定の取扱いが定められており、収益事業を行っている場合には、その事業による所得に対して課税がなされると考えられています。

さらに、外国法人については、日本国内における活動や所得の有無に応じて納税義務が発生することがあります。
具体的には、日本国内で生じた所得、いわゆる「国内源泉所得」が課税の対象とされており、日本に恒久的施設を有しているかどうかが一つの判断基準となることがあります。
※恒久的施設とは、Permanent Establishment(PE)の略称で、「事業を行う一定の場所」を言います。

このように、法人税の納税義務の有無や範囲は、法人の種類や活動形態によって異なりますので、実務上は法人ごとの判定が必要となります。

収益事業の範囲と課税対象となる所得

法人税法では、一定の法人については「収益事業」に該当する活動から得られた所得のみに課税されると定められています。
では、収益事業とはどのようなものを指すのでしょうか。

収益事業とは、継続して行われる事業であって、事業場を設けて実施されるもののうち、法人税法施行令で列挙された34の業種に該当する事業をいいます。
たとえば、物品販売業や不動産貸付業、製造業、請負業、運送業、旅館業などがこれに該当します。

これらの業種に該当している場合、その法人が公益法人や協同組合等であっても、その収益事業部分については課税が行われるということになります。
逆にいえば、収益事業に該当しない活動による収入については、法人税の課税対象外となる可能性があるということです。

ただし、収益事業に該当するかどうかの判断は、単に事業の内容だけでなく、その継続性や営利性、事業場の有無なども考慮する必要があります。
したがって、形式的に判断するのではなく、実態に即した評価が求められる場面も少なくありません。

また、特定の法人においては、その法人の性格や法令に基づく制約を踏まえ、一部の事業については収益事業として取り扱わないとされているケースもあります。
このような例外的な取扱いは、行政庁の確認を受けることを要するものも含まれており、 注意が必要です。

同族会社に対する特別な規定と留意点

法人税法上、一定の支配関係を有する株主が存在する法人については、「同族会社」として特別な規定が設けられています。
同族会社とは、株主等のうち3人以下の者およびこれらと特殊な関係を有する個人または法人が、その会社の議決権の過半数を保有しているような場合を指します。

このような構成が認められる場合、法人税の計算において、いくつかの制限や調整が適用されることがあります。
たとえば、使用人兼務役員の範囲が制限され、同族会社の特定役員(社長や専務取締役など)については、使用人兼務役員となることができません。
また、同族会社が法人税の負担を不当に軽減するような行為や計算を行ったと判断される場合には、その内容を否認し、税務上適切な処理に置き換えて課税するという規定も設けられています。

さらに、特定同族会社に該当する場合には、「留保金課税」の対象となることがあります。
これは、一定額以上の所得を社内に留保した場合に、その留保された所得に対して追加的に法人税が課されるという仕組みです。

この留保金課税については、控除額や税率が段階的に設定されており、企業の資本金や所得水準に応じて負担の大きさが変わるようになっています。
具体的には、控除額には所得基準額、定額基準額、資本金基準額などが用いられ、課税留保金額に応じた税率が段階的に適用される設計となっています。

また、一定の要件を満たす法人については、留保金課税の適用除外が認められる場合もあります。このような判定には、過去の所得水準や支配関係の有無など、複数の条件を総合的に判断する必要があります。

このように、同族会社に対しては、税務上の扱いが非同族会社とは異なる点が多く、制度の趣旨や適用要件を踏まえた正確な理解が求められます。

Chapter 3 | 事業年度と課税ベース設定の実務視点

事業年度の決定と変更手続き

法人税の申告においては、「事業年度」の設定が出発点となります。
事業年度とは、法人の財産および損益を一定期間ごとに区切って集計するための区分であり、多くの場合は法人の定款に定められている会計期間がそのまま適用されます。

もし定款に明確な定めがない場合には、納税地を所轄する税務署に届け出た期間、または税務署長が指定した期間が事業年度として扱われます。
これにより、法人税の計算単位が画一的に管理されることとなります。

事業年度を変更したい場合には、変更後の期間を所轄税務署へ遅滞なく届け出る必要があります。
この届出がなされていない場合や、手続きが適切でない場合には、税務上の認定に時間がかかることもあるため、事前の確認が望ましいといえます。

清算・休業などによる特例的な区切り方

法人が通常の営業活動を継続している間は、事業年度もそのままの形で推移していきますが、一定の事情が生じた場合には特別な取り扱いがなされます。
たとえば、法人が解散することになった場合には、その時点で通常の事業年度が終了し、 以降は「清算事業年度」に区分されます。

この清算事業年度は、法人が残余財産を確定させるまでの期間とされ、会計処理や税務申告の上でも独立した区切りとして取り扱われます。
また、清算中において継続することとなった場合には、その時点から再び事業年度が設定され直されることになります。

さらに、法人が事業活動を休止する場合でも、自治体に対して休業にあたる必要な申請を行えば、均等割課税の一部負担が軽減されることがあります。
もっとも、この届出はあくまで事前の手続きが前提となるため、後日の遡及適用には制限がある点に注意が必要です。

加えて、合併や分割などの組織再編行為により、みなし事業年度が生じるケースもあります。
これにより、一つの事業年度が途中で区切られる形となり、それぞれについて別個に所得計算と申告を行うことが求められる可能性があります。

課税ベースとしての収益認識とタイミング

法人税の計算においては、課税の対象となる「所得」を正確に把握することが重要です。
所得は、基本的に益金から損金を差し引いた金額によって構成されますが、この「益金」と「損金」がどの事業年度に属するのかという判断が、課税のタイミングを左右します。

収益については、資産の引渡しや役務の提供を行った事業年度に計上するのが原則とされています。
ただし、公正妥当と認められる会計処理の基準に従って処理されていれば、実際の引渡し日に近い日を基準に収益を計上しても差し支えないものとされています。

一方で、たとえ収益の計上が会計上は別の期間でなされていても、税務上は引渡し等の日に属する事業年度に益金として算入することが求められる場面があります。
こうした場合には、申告調整によって会計上の処理と税務上の取り扱いを区分する必要が生じます。

また、収益の額を見積もる場合には、時価や通常得べき対価などの考え方が用いられますが、法人税法では回収不能や返品の見込みをあらかじめ控除するような収益認識会計基準上の取引価額の調整は基本的に認められていないとされています。
この点は、会計基準との違いとして理解しておく必要があります。

このように、事業年度の設定と収益・費用の帰属時期の判断は、法人税の課税ベースの構築において中心的な役割を果たしており、実務上も慎重な取り扱いが求められるところです。

Chapter 4|税務の不安を相談できるサービス紹介

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免責事項

本記事は、税制度に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務判断や対応策を推奨するものではありません。
適用にあたっては、必ず税理士などの専門家や信頼できる専門書籍等を確認のうえ、ご自身の判断で対応いただきますようお願いいたします。

なお、本記事の内容を参考にされたことにより生じた損害等について、運営者は一切の責任を負いかねます。
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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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