第1章|課税の対象:国内取引の基本フレーム
課税対象の原則とは
消費税は、国内において事業者が行った一定の取引や仕入れ、さらには輸入に対して広く課税される制度です。
そのなかでも「国内取引」については、どのような条件を満たすと課税の対象となるのか、まずはその枠組みを押さえておく必要があります。
国内取引が課税対象となるかどうかは、次の4要件すべてを満たすかどうかによって判断されます
- 国内において行う取引であること
- 事業者が事業として行うものであること
- 対価を得て行うものであること
- 資産の譲渡・貸付け、または役務の提供であること
いずれかひとつでも欠ければ、不課税取引として課税対象外となる点に注意が必要です。
「国内において行う取引」とは
最初の判定基準は、その取引が「国内」で行われたものかどうかです。
具体的な判定方法は、取引の性質により異なります。
資産の譲渡・貸付けの場合
この場合は、譲渡または貸付けが行われる時点で、その資産が所在していた場所に基づいて判断します。
資産の所在が日本国内であれば国内取引、国外であれば国外取引となります。
たとえば、ある資産を日本で譲渡すれば課税対象となり、海外に所在する資産をそのまま海外で譲渡する場合は、不課税となるという整理です。
役務の提供の場合
役務の提供が行われた場所が国内である場合、国内取引として課税対象に該当します。
ここで注意したいのは、単純に「提供した側」が日本にいるかどうかではなく、「提供された場所」が国内かどうかで判断されるという点です。
電気通信利用役務の提供
この分野だけは判定方法が異なります。
利用者の住所や居所、または本店・主たる事務所が国内にある場合には、役務提供者の所在地に関わらず国内取引とされます。
「事業者が事業として行う」ことの意味
次に確認するのが、その取引を行ったのが「事業者」かつ「事業として行ったもの」かどうかです。
「事業者」とは、事業を行う個人事業者または法人を指します。
ここには国や地方公共団体、人格のない社団なども含まれます。
法人が行う取引については、原則としてすべてが「事業として」行われたものと見なされます。
一方、個人事業者については、事業としての立場と生活者としての立場を併せ持っているため、事業に該当する取引かどうかの判断が必要です。
たとえば、自宅で使っていた家具をフリマアプリなどで売却した場合は、「事業として」ではないと判断されることがあります。
このような取引は不課税取引に該当する可能性があります。
「事業として」とは、対価を得て行う資産の譲渡・貸付け・役務提供を、反復継続かつ独立して行うことを意味します。
副業のような小規模であっても、反復性や独立性があれば課税対象となる場合もある点には留意が必要です。
「対価を得て行う」取引とは
消費税は「消費」に対して課される税であるため、取引に「対価性」があることが求められます。たとえば、資産の売却代金、賃貸料、サービス提供の報酬などが該当します。
一方で、寄附金や助成金、保険金などのように、対価性が認められないものは課税対象外となります。ここで重要なのは、金銭の授受があっても、それが「対価」かどうかで判断されるという点です。
また、無償取引であっても、消費税法上は「対価を得て行ったもの」とみなされ、課税対象となるケースもあります。
たとえば、次のような取引が「みなし譲渡」として課税対象になります。
- 個人事業者が棚卸資産を自家消費した場合
- 法人がその資産を役員へ贈与した場合
また、代物弁済や負担付贈与、金銭以外の資産による出資といったケースも、形式上の無償に見えても実質的に「対価性あり」と判断され、課税されることがあります。
「資産の譲渡・貸付け・役務の提供」であること
最後に、その取引が「資産の譲渡・貸付け・役務の提供」に該当するかどうかを確認します。
資産の譲渡
「資産の譲渡」とは、売買や交換などによって、資産の所有権が移転する行為を指します。
対象となる資産には、有形資産だけでなく、無形資産(例:特許権や商標権など)も含まれます。
なお、土地の譲渡については非課税とされている点は別途整理が必要です。
資産の貸付け
「資産の貸付け」は、賃貸借や消費貸借契約などに基づき、資産を他人に使用させる行為です。
不動産の賃貸だけでなく、著作権や地上権などの権利設定行為もこれに該当します。
もっとも、住宅の貸付けや利子を得るための金銭の貸付けについては、非課税取引とされています。
役務の提供
「役務の提供」とは、請負契約や委託契約などに基づき、労務やサービスを提供することです。
広告、運送、宿泊、弁護士や税理士の報酬などがこれに該当します。
ただし、従業員への給与は、雇用契約に基づくものであり、事業としての役務提供には該当しないため、不課税となります。
第2章|輸入取引とみなし引取りのポイント
輸入取引にも消費税が課される理由
消費税は、基本的に「国内での消費」に着目して課税される仕組みです。
この原則は「消費地課税主義」とも呼ばれ、国内での取引に限らず、国外から輸入される物品についても同様に課税対象となる理由とされています。
つまり、国内の事業者が日本国内で商品を販売する場合に消費税がかかるのと同じように、海外から商品を輸入して国内で消費する場合にも、税負担の公平性を保つ観点から、消費税の納付が求められるという考え方が背景にあります。
このような位置づけのもと、輸入取引については、消費税法上、独立した課税対象として明確に定められています。
消費税が課される輸入取引とは
輸入取引における課税対象は、「保税地域から引き取られる外国貨物」とされています。
保税地域とは、関税の徴収が一時的に保留されている状態で外国貨物を置くことができる特定の場所のことを指します。
この保税地域から貨物を引き取ることで、その貨物が日本国内での消費の対象となるため、消費税の課税対象になるという流れです。
したがって、保税地域内に留まっている限りでは課税は発生せず、引き取りのタイミングで課税が確定するという整理になります。
なお、「外国貨物」とは、外国から到着してまだ輸入が許可されていない貨物や、輸出許可を受けた貨物などを意味します。
この定義に該当するものが、保税地域から引き取られた時点で「課税貨物」として消費税が課されることになります。
みなし引取りとは何か
輸入に関する実務上、注意すべき概念のひとつが「みなし引取り」です。
これは、保税地域にある外国貨物が、明示的に引き取られることなく、そこで消費されたり使用された場合に適用される取扱いです。
たとえば、保税地域内で外国貨物を試験使用したり、製品に加工するなど、物理的な引き取りは行われていないものの、実質的に消費されたとみなされるケースがあります。
このような場合には、その使用等があった時点で、「保税地域から引き取られたもの」とみなして消費税が課されるという整理です。
ただし、一定の用途に限っては、みなし引取りの対象外とされるケースもあります。たとえば、課税貨物の原料として消費された場合など、一定の条件を満たすと引き取りとは見なされない扱いとなる場合があります。
この点については、実際の貨物の用途や消費のタイミングなど、個別事例に即して慎重に判断する必要があるでしょう。
輸入取引の課税標準の考え方
次に、輸入取引において消費税の「課税標準」がどのように定められるのかを確認しておきましょう。
課税標準とは、消費税額を計算する際の基準となる金額のことです。
輸入取引における課税標準は、関税課税価格(いわゆるCIF価格)に加えて、関税および個別消費税等の金額を合計した額となります。
CIF価格とは、貨物の価格に加え、輸送費(Freight)や保険料(Insurance)などを含んだ価格です。
そこに関税、酒税やたばこ税、揮発油税、石油石炭税などの個別消費税が上乗せされ、その合計額が消費税の計算基礎になります。
このように、消費税が「商品そのものの価格」だけでなく、輸送・保険・関税・その他間接税を含めた「総合的な輸入コスト」に対して課されるという点には注意が必要です。
輸入取引における納税義務者とは
消費税の納税義務者という観点では、国内取引と輸入取引で少し考え方が異なります。
国内取引の場合には、課税資産の譲渡等を行う事業者が納税義務を負いますが、輸入取引においては、「保税地域から課税貨物を引き取る者」が納税義務者とされています。
つまり、輸入者が法人であれ個人であれ、また事業者であるかどうかにかかわらず、その貨物を引き取ることで消費税の納税義務が発生するという点が特徴です。
たとえば、個人が海外から商品を購入して自宅で使用する目的で輸入した場合でも、その個人は納税義務者となり、消費税の支払いが必要になります。
この取扱いにより、国内で購入する場合と輸入する場合で税負担の不均衡が生じないよう、制度設計がされています。仮に輸入取引に課税されなければ、国内の事業者と比較して輸入者が有利になる可能性があるため、その差をなくすという趣旨に基づいています。
第3章|インボイスとの接点:帳簿のみ保存特例と課税対象の整合
インボイス制度導入前の実務と仕入税額控除の関係
インボイス制度導入以前においては、消費税の仕入税額控除を適用するために、仕入先から受領した請求書等の保存が必要とされていました。
ただし、この段階では、請求書の発行者が誰であるかは問われず、請求書の形式的な保存が要件とされていた点が特徴です。
また、請求書に記載される内容に不備があった場合には、買手側で追記することも認められており、一定の柔軟性をもって運用されていたといえます。
売手側には、請求書等の交付義務が法律上明確に課されていたわけではありませんでしたので、全体として負担は比較的軽いものでした。
このような背景のもと、実務上は帳簿と請求書等を整えて保存することが基本的な対応とされてきました。
インボイス制度導入後の変更点
令和5年10月1日から導入されたインボイス制度では、仕入税額控除の適用要件が大きく変わりました。
買手側が控除を受けるためには、売手が交付する「適格請求書(インボイス)」の保存が必須となります。
この「適格請求書」は、所定の要件を満たした事業者(適格請求書発行事業者)に限り発行できるものであり、登録制度によって管理されています。
したがって、仕入先が適格請求書発行事業者でなければ、買手側はインボイスを受け取ることができず、仕入税額控除が認められないことになります。
従来の方式と異なり、制度上の選択肢は買手ではなく、売手側の登録状況によって左右されるため、買手としては一定のリスク管理が求められるようになったといえるでしょう。
免税事業者との取引と制度の影響
特に注意したいのが、免税事業者との取引です。
免税事業者はそもそも消費税の申告義務がありませんので、通常の状態では適格請求書発行事業者としての登録ができません。
登録を行うためには、課税事業者となる手続きが必要となり、実質的に申告義務を引き受けることになります。
このように、従来免税であった事業者が適格請求書を発行するには相応の準備と覚悟が必要となります。
買手側から見ると、免税事業者との取引が続く限り、仕入税額控除を受けることができないケースが生じ得るという点に留意が必要です。
帳簿に記載すべき内容
インボイス制度下でも、帳簿保存の意義は変わりません。
保存すべき帳簿には、次のような事項が記載されている必要があります。
- 取引の相手方の氏名または名称
- 課税仕入れの年月日
- 資産や役務の内容(軽減税率の対象かどうかも含む)
- 支払対価の金額
これらの項目は、仕訳帳や元帳といった会計帳簿だけでなく、整然と記載された管理台帳のようなものであっても問題ありません。
要は、税務調査などで客観的に確認できるかどうかがポイントです。
帳簿のみ保存で仕入税額控除が認められる場合
インボイス制度では、原則として適格請求書がなければ仕入税額控除は認められませんが、例外も存在します。
たとえば、取引の性質上、インボイスの交付が困難とされる場合には、帳簿のみの保存で控除が認められることがあります。
具体的には、事務的に交付が難しい取引や、制度的に例外扱いとされている少額な取引などが該当します。
ただし、この例外も無制限ではなく、一定の記載要件を満たした帳簿が保存されていることが前提となります。
帳簿に記載される内容が不十分である場合には、たとえ例外的取引であっても仕入税額控除の適用が認められない可能性がありますので、記録の整備は不可欠といえます。
少額取引に関する経過措置とその実務影響
インボイス制度においては、事務負担軽減の観点から、特定の中小事業者に対して経過措置が設けられています。
具体的には、一定の要件を満たす事業者が行う1万円未満の課税仕入れについては、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能となる取り扱いです。
この経過措置が適用される期間は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までとされています。
対象となる事業者は、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下のいずれかを満たす必要があります。
なお、特定期間の判定においては、支払給与額に基づく代替判定は認められていませんので、課税売上高の金額で直接的に判定される点は重要です。
また、「1万円未満」の判定は、商品ごとではなく1回の取引単位で行います。
取引明細の細分化で適用回避を図るような方法は認められていないため、取引単位の整理も併せて求められることになります。
このように、少額取引であっても、インボイス制度の影響は軽微ではないため、現場での対応ルールを明確にしておくことが重要です。
免責事項
本記事は、特定の事案に対する法的助言または税務判断を提供するものではありません。
個別具体的な取扱いについては、必ず専門家や所轄の税務署等に確認のうえ、対応をご検討ください。
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