「株の値動きに振り回されて、正直もう疲れてしまったんです」
──そんな相談を受けたとき、私はふと、債券という存在の“静かなる強さ”を思い出します。
2025年現在、「お金の置き場所」に悩む投資家が急増しています。
ゼロ金利時代の長い停滞、コロナ後の経済混乱、インフレと利上げの波…。
こうした激しい市場の揺れの中で、「できればもっと落ち着いて、でもしっかりとお金を育てていきたい」と願う人たちに、今あらためて注目されているのが債券投資です。
ただし──。
「債券って、結局よくわからない」「株とどう違うの?」「利回りって何を見れば?」
そんな声が多いのも事実。特に、投資初心者にとっては“地味で複雑”という印象を持たれがちです。
でも、仕組みを正しく理解できれば、債券ほど再現性の高い資産運用はそう多くありません。
本記事では、会計・ファイナンス実務経験に基づいたプロの目線と、ライフプランに寄り添うFP視点の両軸から、債券の本質をやさしく、かつ徹底的に解説していきます。
【第1章】導入:なぜ今、債券が注目されるのか
「株が不安定な今こそ、債券を見直すタイミングだと思ってます」──実際、私自身の運用戦略にもここ数年で債券の比率をじわじわと増やしてきました。
2025年、日本は長く続いたゼロ金利政策に一区切りを打ち、金融政策の正常化へと舵を切りました。
これは、投資の世界において“地殻変動”と言っても過言ではない変化です。
これまでのように「どうせ金利なんて上がらない」「債券は利回りが低すぎる」といった思考停止が通用しなくなった今、債券市場は確実に“次のステージ”へと進もうとしています。
▍金利の波が、資産運用の構造を変える
「金利」というのは、投資家の期待値でもあり、経済の温度計でもあります。
この金利が動くと、真っ先に反応するのが債券市場。言い換えれば、債券は経済の“鼓動”にもっとも忠実な金融商品なのです。
米国では4%を超える政策金利が継続され、欧州でも利下げのタイミングを慎重に模索。
一方、日本では0.1%前後と、世界との金利格差が広がりつつあります。
この差は、投資家に「為替」「利回り」「リスク」をどう捉えるかという問いを投げかけているわけですね。
▍「安全資産」という再評価
金融ショックが起きるたびに、投資家は“逃げ場”を探します。
その一つが、信用度の高い国が発行する国債。いわゆる安全資産としての債券です。
たとえば、2023〜2024年の株式市場では、高成長企業のバリュエーションが過熱した反動で調整局面が目立ちました。その影で、国債利回りの上昇を「安定収入の源」として評価する動きが着実に進んでいたのです。
ここで大切なのは、**「守りの資産だからこそ、増やせる局面がある」**という視点。
地味に見えて、実は戦略的。これが債券の面白さです。
▍「値動きが小さい=退屈」ではない
「債券って値動きがないから面白くないでしょ?」──これ、初心者がよく抱く誤解のひとつです。
実際には、金利の変動によって価格は日々上下しますし、外貨建て債券なら為替変動も加わります。
何よりも、運用目的によって“どの債券を、どのくらい保有するか”がガラリと変わる点は、実に戦略性が高い。
しかも、満期まで保有すれば額面で戻ってくるという「出口が見えている」安心感もあります。これは、株式にはない債券特有の魅力です。
▍債券を通じて「投資の構造」を学ぶ
投資の本質は、「期待リターン」と「リスク」のバランスをどう取るかにあります。
債券を通じてこのバランス感覚を養うことは、投資家としてのリテラシーを高める近道にもなります。
私自身、ファイナンスの現場で、感情的に振り回されない投資判断を支えるものとして、債券の構造理解がいかに大切かを実感してきました。
▍これから本記事でお伝えすること
これから先の章では、
- 債券とはそもそもどんなものか
- 株式とは何が違うのか
- どうやってリターンを得るのか
- どんなリスクがあるのか
- 初心者が取るべき一歩とは何か
という視点から、**「構造を読み解く力」と「感情に流されない仕組みづくり」**を、じっくり紐解いていきます。
難しい話は避けません。でも、難しく書きません。
数字の裏にある意味、そして生活に落とし込む視点から、債券投資の「使える知識」をお届けしていきます。
【第2章】債券の基本定義
「債券って、“債権”と同じなんですか?」──投資を始めたばかりの方から、こんな質問をいただくことは少なくありません。
専門家の立場から見ても、“当たり前すぎて説明しづらい”のが債券の入り口かもしれませんね。
投資の世界には、「なんとなく知っているけど、説明できない」用語がたくさんあります。
その代表格が、「債券」。
そして、その隣に並ぶ言葉が「債権」や「社債」「国債」「利息」「利回り」など──どれも似て非なるものでありながら、初心者にはごちゃ混ぜになりやすいものです。
でも安心してください。
ここでは、会計実務経験を背景に、“法的・経済的な本質”に照らして一つひとつを丁寧に紐解いていきます。
投資初心者の方にも、仕組みを自分の言葉で説明できるようになることを目指して。
▍「債権」と「債券」はまったくの別物?
最初のつまずきポイントは、やはりこれです。読み方は同じ「さいけん」でも、その意味はまったく違います。
用語 | 意味 | 文脈 | 見かける場面 |
---|---|---|---|
債権(さいけん) | 法律上の「請求する権利」 | 法務・会計 | 契約書、売掛金、貸付金など |
債券(さいけん) | 金銭債務を証券化した「金融商品」 | 投資・金融 | 国債、社債、地方債など |
たとえば「売掛金」や「貸付金」は債権です。
一方、私たちが証券会社で購入する「日本国債」や「社債」は債券。
つまり、「債券」は、金融取引において債権(=金銭を返してもらう権利)を証券という“モノ”にしたもの。
この違いをまず頭に入れておくと、後々の理解がグッと楽になります。
▍債券は「借金の証文」
債券は、発行体が投資家からお金を借りて、その代わりに将来の利息(クーポン)と元本(額面)を約束する“借用証書”のようなものです。
発行体には以下のような種類があります。
発行体 | 債券の呼び名 | 特徴 |
---|---|---|
日本政府 | 日本国債 | 安全資産の代表格。利回りは低め |
地方自治体 | 地方債 | 教育・福祉・インフラなどの財源 |
一般企業 | 社債 | 利回りは高めだが信用リスクあり |
外国政府・企業 | 外債 | 高金利もあり。ただし為替リスク大 |
ここで注意したいのは、債券を買う=出資ではないということ。
株式は企業に出資して「所有者」になるのに対し、債券はあくまで「貸している」立場。
そのため、利息(クーポン)を受け取る代わりに、株主のような経営権は一切ありません。
▍「クーポン」と「配当」の違い
株式と債券の収益の違いを明確にするなら、クーポン(coupon)と配当(dividend)という用語の違いが重要です。
項目 | 債券(クーポン) | 株式(配当) |
---|---|---|
性質 | 契約で決まっている | 利益が出たら出す |
支払い義務 | あり(通常) | なし |
変動性 | 原則固定 | 業績で変動 |
不払いの意味 | 債務不履行(デフォルト) | 企業判断の範囲内 |
債券では、クーポンが“約束された支払い”であり、それが守られなければ信用問題に直結します。
一方、株主への配当は企業の自由裁量であり、「今年はゼロ」ということも珍しくありません。
▍「元本が戻る」って本当?
債券には多くの場合、「満期償還」が設定されています。
これは、「〇年後に額面(通常100円)で返しますよ」という約束。
もちろん、返す相手(=発行体)が健全な経営をしていればという条件付きです。
この点も「元本保証ではない」という注意点として、しっかり押さえておきたいところです。
▍「利回り」とは何か──数字に惑わされないために
ここで登場するのが「利回り」という概念。これが初心者にとって非常に混乱を招きやすい言葉です。
ポイントは次の2つ。
- 利息(クーポン)と利回りは別物
- 利回りは「価格」によって常に変動する
たとえば…
- 額面100円、年1円の利息 → 表面利率は1%
- 市場で95円で買えた場合 → 実質利回りは約1.05%
- 逆に105円で買ったら → 実質利回りは約0.95%
つまり、債券の**利回りは“現在の価格と将来の収益のバランス”**で決まるもの。
証券会社の画面やメディアで「利回り○%」と表示されていても、それは“今この瞬間の条件下での期待値”だということを忘れてはいけません。
▍投資信託やETFの中にも“債券”がある
最近では、個人が一から債券を選んで買うのではなく、債券を組み込んだ投資信託やETFを通じて間接的に保有するケースが増えています。
具体的には…
- 国内債券インデックスファンド(つみたてNISAでも採用)
- 外国債券ファンド(為替ヘッジあり/なし)
- 債券ETF(上場していて売買しやすい)
この場合、債券そのものではなく「債券の詰め合わせパッケージ」に投資する形になります。
もちろん、分散が効いている分リスクが抑えられる一方、信託報酬などの運用コストがかかる点には留意が必要です。
▍よくある誤解・混同まとめ
誤解 | 実際の意味 | 解説 |
---|---|---|
債券と債権は同じ | 全く別物 | 法律用語と金融商品 |
利息と利回りは同義 | 計算の視点が違う | 利回りは「投資効率」 |
債券=ノーリスク | 元本保証ではない | 破綻リスク・金利リスクあり |
債券は値動きしない | 価格は日々変動 | 金利や信用で価格が上下 |
個人で買うのは難しい | 少額でも可能 | 個人向け国債などあり |
▍“地味”だからこそ見落とされがちな本質
「派手なリターンではなく、確実性を追求したい」──そんな時、債券という選択肢が一気に輝きを放つことがあります。
株式投資が“攻め”なら、債券は“守り”。
でも実際には、その“守り”の力が、長期的な資産形成の安定性を下支えしてくれるのです。
債券の仕組みは、最初は少しだけ複雑に感じるかもしれません。
けれど、数字の構造を読み解く楽しさは、慣れてくると逆にクセになります。
【第3章】株式との違いを徹底比較

「債券って“株の劣化版”じゃないんですか?」──正直、そう言われたときは少し驚きました。でも、よくよく聞いてみると、そう思ってしまうのも無理はないのかもしれません。
たしかに、投資の世界では「リターンを求めるなら株式」「安定を求めるなら債券」といった分類で語られることが多く、「成長性で勝負するのが株」「守り重視の地味な存在が債券」というイメージが広がっています。
けれど本質的に見ると、株と債券は**構造からしてまったく異なる“別物”**です。
この章では、債券と株式の違いを単なる「リターンの大小」ではなく、法的立場・リスク構造・価格変動要因・倒産時の優先順位といった軸から深掘りしていきます。
債券の理解は、株式をより正しく扱うための“補助輪”にもなりうる──そんな視点もぜひ持って読んでみてください。
▍1. 立場の違い:「出資者」か「債権者」か
まず根本的な違いは、投資先に対してどのような立場でお金を渡しているのかという点です。
資産 | 立場 | 関係性 | 法的位置付け |
---|---|---|---|
株式 | 出資者(オーナー) | 「会社の一部を保有」 | 自己資本(純資産) |
債券 | 債権者(貸し手) | 「お金を貸して利息を得る」 | 他人資本(負債) |
株主は企業の所有者の一部となり、配当や株主優待を受ける代わりに、元本返済の義務はありません。
一方、債券保有者はあくまで貸し手。企業にとっては「借入」と同義であり、満期には元本を返す義務があるのです。
この構造が、リターンやリスク、そして企業破綻時の扱いにも大きく影響してきます。
▍2. リターン構造の違い:「青天井」か「上限あり」か
資産 | 収益の種類 | リターンの特徴 |
---|---|---|
株式 | 配当+売却益(キャピタルゲイン) | 業績連動・上限なし・大きな変動 |
債券 | クーポン+償還差益 | 固定または想定範囲内・安定的 |
株式は企業の業績が伸びれば配当が増え、株価も上がる可能性があります。
つまり、青天井のリターンが狙える反面、赤字が続けば配当はゼロ、株価は大きく下がることも。
一方、債券は発行時に利息(クーポン)が決まり、満期も明確。業績に左右されにくく、設計通りのリターンが得やすいのが特徴です。
その代わり、企業が好業績になってもクーポンが増えることはありません。
▍3. リスクの質が違う:「価値の揺れ幅」と「元本の保証性」
比較軸 | 株式 | 債券 |
---|---|---|
値動き(ボラティリティ) | 高い | 低め(特に国債) |
元本返済の義務 | なし | あり(破綻しない限り) |
クーポン/配当支払い | 業績次第 | 契約上の義務 |
デフォルト(破綻)時の回収性 | 極めて低い | 一部回収の可能性あり |
株価は日々ニュースや業績、投資家心理に反応して動く“感情的な資産”。
債券は、金利や信用力など、より構造的・マクロ的な要素で動きます。
とはいえ、債券も「無リスク資産」ではありません。信用不安(例:社債の格下げ)、金利急騰による価格下落、インフレによる実質利回りの目減りなど、見えにくいリスクが潜んでいます。
▍4. 倒産時の弁済順位:ここが最大の違い
「どっちが損をしにくいか?」という視点では、この弁済順位が最も決定的です。
企業が破綻した場合の弁済順位(簡略版)
- 担保付き債権者(銀行など)
- 無担保債券保有者(社債など)
- 劣後債保有者
- 優先株主
- 普通株主
つまり、株式は“最後の最後”に残った資産しか受け取れない。
実際、多くの破綻企業では株主に戻らないケースが多数です。
一方、社債は無担保でもある程度優先順位が高いため、債務整理プロセスで部分的な返済を受けられる可能性があります。
※もちろん、債券の種類(劣後債など)によっては株式並みにリスクの高い商品もあります。
▍5. 価格変動要因:株は“業績”、債券は“金利と信用”
債券価格と株価は、ときに似たように動くように見えて、根本的な駆動要因が異なります。
債券価格に影響するもの
- 金利(市場金利が上がると債券価格は下がる)
- 発行体の信用力(格付けや業績)
- インフレ率
- 為替(外債の場合)
- 中央銀行の政策(国債買入れ・イールドカーブ操作)
株価に影響するもの
- 業績(売上、利益)
- 景気・市場全体の雰囲気
- 金利(企業の借入コスト、株式の相対的魅力)
- 投資家心理・期待
- 政策・地政学リスク
つまり、金利が上昇する局面では債券価格は下がりやすく、株価も圧迫されやすいという意味では連動性があるものの、「何がそれを動かしているか」はまったく別のロジックです。
▍6. 「価格変動の揺れ方」の違いを図解で見ると…
資産 | 値動きの性質 | 説明 |
---|---|---|
債券 | 長期的に金利と逆相関でじわじわ | 満期が近づくにつれて価格は額面に近づく(収束性) |
株式 | 日々上下。ニュースや決算に敏感 | “上にも下にも”突発的な変動が多い(感情的) |
この違いは、「売却タイミングにおける難易度」や「価格変動への耐性」にも直結します。
株式はタイミングを誤ると損失が大きくなる一方、債券は満期まで保有すれば額面で戻ってくる(※デフォルトしなければ)という安心感があります。
▍7. 株式投資と債券投資を“競わせる”のはナンセンス
株と債券を比べると、つい「どっちが得か?」という問いにたどり着きがちです。
でも、これは**包丁とまな板のどちらが優れているか?**を議論するようなもの。
株式は成長を狙う道具。債券は安定を支える土台。
どちらが欠けても、バランスの取れた資産形成にはなりません。
私は、株式で増やしつつも、「ここは確実に守りたい」という資金に債券を充てることで、投資全体のリズムを整えるよう心がけています。
その「守る場所」があるからこそ、「攻め」が思い切れる──そう実感しています。
▍こんな人には、債券の比率を高める価値がある
- 投資初心者で、まずは市場に慣れたい方
- 値動きに感情を振り回されやすい方
- 退職金や教育費など、減らしたくない資金を運用したい方
- 株式市場が過熱気味だと感じている方
- 利息による安定収入を確保したい方
債券は、派手ではないかもしれません。
でも、派手さよりも再現性や安全性を求めるフェーズでは、非常に合理的な選択肢となり得ます。
▍結論:株式と債券は“補完し合う”関係
株式と債券は、「どちらかを選ぶ」のではなく「どう組み合わせるか」が鍵です。
投資初心者こそ、株だけに偏るのではなく、債券という“土台”を持つことで、リスクを抑えながら安定感ある資産形成を目指せるようになります。
このあと続く章では、実際に債券投資で得られる魅力──特に、**「毎年もらえる収入」と「満期に返ってくる安心感」**について、さらに具体的にお伝えしていきます。
【第4章】債券投資の魅力

「株よりも地味だし、派手なリターンも期待できない。でも、どうしてか債券には“戻ってきたくなる安心感”があるんです」──そう語った投資家の言葉が、今も心に残っています。
債券は、確かに“主役”になることは少ないかもしれません。
SNSでも、YouTubeでも、注目されるのは大抵、テンバガー候補の成長株や、仮想通貨の値動きだったりします。
でも、資産形成において本当に欠かせないのは、「守り」と「安定性」の存在です。
そしてその機能を担ってくれるのが、債券という“静かなエンジン”なのです。
この章では、債券の構造的な強み──特に「定期収入」「元本償還」「金利との関係性」──を軸に、債券がなぜ優れた資産防衛ツールであり、場合によっては“増やす”投資先にもなり得るのかを、私自身の実務経験を交えながら深掘りしていきます。
▍1. クーポン(利息)という“確定収入”
株式の配当は企業の業績次第で「ある年はゼロ」「来期は半減」なんてことも珍しくありません。
しかし債券の利息、つまりクーポン収入は原則、契約に基づき支払われるものです。
半年に一度、あるいは年に一度──
決まった日に、決まった金額が自動で振り込まれる。
この「見通しの立つ収入源」は、キャッシュフローの安定化という観点でも非常に重要です。
このように、債券には“利息を受け取りながら待てる”という極めて実用的なメリットがあります。
▍2. 預金より高く、株式より穏やかな「ちょうどいい収益性」
利率の低い普通預金と比べて、債券のクーポン利回りは圧倒的に高い傾向があります。
例えば、国債でも年0.9~1.3%前後、社債なら2~3%台も珍しくなく、海外債券に至っては5%~10%に達するものもあります。
ここで大切なのは、「投資としての収益性がある程度“見えている”」という点です。
株式は、確かに10%を超えるリターンもあります。
でもその裏には、暴落時に30~50%以上の損失を被る可能性も含んでいます。
その点、債券は満期まで保有すれば額面で戻る(※デフォルトしなければ)ため、
「上下に振れすぎない」「プラス圏で安定する」リターン設計が可能なのです。
投資を“当てもの”にしない。
これが、債券がプロから好まれる大きな理由のひとつです。
▍3. 満期償還という「見えている出口」
株式や投資信託と違い、債券はあらかじめ決められた日に満期償還されるのが原則です。
たとえば、「5年債」「10年債」という表現があるように、保有期間が決まっているんですね。
これが意味するのは、「出口が設計できる」ということ。
私があるファミリーオフィス支援を行っていたとき、子供の教育費や老後資金に備える目的で、
「3年後に300万円、5年後に500万円を現金化できるように」
といった債券設計が求められました。
このとき、株式だとタイミング次第で損失を抱える可能性があるため、
満期のある債券を目的時期に合わせて分散配置するという方法を採用。
予定通りキャッシュ化できたときの安堵感は、クライアントにも強く印象に残ったようです。
▍4. キャピタルゲインも狙える「二段構えのリターン」
「債券は利息だけ」だと思われがちですが、実はもう一つのリターンがあります。
それが**キャピタルゲイン(値上がり益)**です。
市場金利が下がると、既存の高利回り債券の価格は上昇します。
この仕組みを理解すれば、「買ったときより高く売って利益を得る」ことも可能なのです。
- 金利が高い局面で仕込む
- 金利が下がり始めたときに売る
このように、金利サイクルを見極めて**“仕込みと利確”のタイミングを読む**戦略が取れるのは、債券ならではの妙味です。
個人的には、利上げがピークを迎えたと見られるタイミングで債券を仕込み、
その後の緩和局面で価格が上がった際に一部を売却した経験があります。
「地味に見えて動きがある」──まさに、債券の実戦的な一面です。
▍5. 債券が生む「心理的な安心感」は数字以上に大きい
債券が支持される最大の理由は、実はメンタル面の安定かもしれません。
- 利息が定期的に入る
- 満期日が決まっている
- 株のように日々の値動きに振り回されない
これらは、投資家の“感情”にとって極めて重要です。
人は、変動が大きいと冷静な判断ができなくなる。
それは私も、何度も相談を受ける中で痛感してきました。
だからこそ、ポートフォリオに債券を組み入れることで、
「一部は安定している」という前提がメンタルの軸になり、
株式などリスク資産への投資判断もブレなくなるのです。
▍6. 投資対象としての多様性──“選べる債券”の時代へ
債券と一口に言っても、今は非常に多様な選択肢があります。
種類 | 特徴 | 向いている人 |
---|---|---|
日本国債 | 信用度が非常に高い。利回りは低め | 超安定志向・初心者 |
個人向け国債 | 少額から可能。途中換金制度あり | 初心者・初投資層 |
地方債 | 公共インフラなどの資金調達目的 | 社会貢献意識の高い層 |
社債 | 信用力に差。利回りは中~高 | 中リスク中リターン派 |
劣後債 | 高利回りだがリスク大 | ハイイールド狙い |
外国債 | 高金利。ただし為替リスクあり | 通貨分散・高利回り狙い |
このように、リスクとリターンを自分で選べる時代になったことも、債券投資をより魅力的にしています。
▍まとめ:利回りよりも、“設計可能性”こそが債券の真価
「利回りが1%? そんなの魅力ないでしょ」──そう感じる人がいるのも事実です。
でも、1%でも“確実に入ってくる”ことが、どれほど価値のあることか。
実務に立ち会ってきた身からすると、それがどれほど難しく、ありがたいかを痛感しています。
債券の本質は、「設計できること」。
将来の出口、キャッシュフロー、分散、心理的安定感……
これらをすべて、静かに裏で支えてくれるのが債券です。
次章では、そうした“安心感”がなぜ生まれるのか、
そしてその裏に潜む「債券のリスク」についても正面から向き合っていきます。
「安全資産」と呼ばれることも多い債券ですが、
本当に“安全”と呼ぶに値するのか──一緒に考えてみましょう。
【第5章】債券を持つことがもたらす心理的安心感
「値動きが怖いから投資は無理だと思ってました。でも、債券なら続けられそうな気がするんです」──そんな声をいただくたびに、私は“数字だけじゃない価値”を再確認させられます。
投資において、リターンの数字やシミュレーションは確かに大切です。
でも、実際にお金を投じてみると、その人を支えているのは“安心感”や“続けやすさ”のような、定量化しにくい感情の部分だったりします。
この章では、債券が投資家にもたらす「心理的安心」の構造を解き明かします。
同時に、その安心感を過信しすぎないために押さえておくべきリスク──特に信用リスク・金利リスク・流動性リスクにも触れながら、“安定と安全”を両立させる実践的な債券の持ち方についてお伝えします。
▍1. 「損をしにくい投資」=行動を止めないための土台
投資を始めたばかりの方の多くは、損失に直面した瞬間にこう感じます。
「自分にはやっぱり投資は向いていなかったのかもしれない…」
実際、株式や仮想通貨などは日々の値動きが大きく、数日で10〜20%の含み損になることも珍しくありません。
その瞬間、人は感情的になり、冷静な判断ができなくなります。
その点、債券は値動きが穏やかで、満期償還による元本返還があるという“出口の確実性”が存在します。
これは、心理的な安全基地となり、「投資をやめずに続ける力」につながります。
▍2. 「一定額が戻ってくる」ことの絶大な安心感
たとえば100万円を債券に投じた場合、
株式ならその価値は翌週には90万円かもしれませんが、債券であれば、満期まで保有すれば額面100万円で返ってくる設計です(※信用リスクを除く)。
この“保証ではないが、見通せる”という構造が、投資家の心を支えるのです。
私のクライアントの中には、「退職金の半分を債券で持つ」という設計を選んだ方もいます。
「株で増やしたいけど、すべてをリスクにさらすのは怖い。でも、債券があるから攻めに出られる」
──このように、ポートフォリオの緩衝材(クッション)として債券が心理面でも機能しているのです。
▍3. 「安全資産」と言われる理由を分解してみる
債券が「安全資産」と呼ばれるのには、以下のような理由があります。
理由 | 内容 |
---|---|
信用力が高い | 特に国債などは政府が発行体で、返済能力が高いとされる |
満期償還の存在 | 満期まで保有すれば額面が返ってくる設計になっている |
ボラティリティが小さい | 株式に比べて価格変動が穏やかである |
利息収入の確実性 | クーポン支払いがあらかじめ定められている |
とはいえ、これはあくまで**相対的な“安全”**です。
「安全=ノーリスク」と誤解するのは禁物。
この安心感は、正しい理解と設計によってこそ機能するのです。
▍4. 債券でも損失は起こりうる──現実を直視する
① 発行体の破綻(信用リスク)
債券の発行体(企業や政府)が破綻した場合、
利息が支払われなかったり、元本が戻らない可能性があります。
かつて、国内でも大手流通企業が発行していた社債がデフォルトし、個人投資家の多くが損失を被った事例がありました。
利回りがやや高かったことで人気を集めていましたが、最終的な回収率は10~30%程度と極めて低い結果に。
「利回りが高い=信用リスクが高い」という事実を見逃さず、債券を選ぶ際は発行体の財務健全性に注意を払う必要があります。
② 金利の変動による価格下落(金利リスク)
債券価格は、市場金利が上がると下がり、金利が下がると上がる──という“シーソー”の関係があります。
つまり、満期前に売却するときは金利の変化によって損益が変動します。
特に長期債ではこの影響が大きく、「保有中に金利が上がってしまったら、途中売却では元本割れになる」こともあるのです。
これは、満期まで持ち切るならリスクにならない一方、
「流動性(いつでも換金可能)」を重視する人にとっては見逃せないポイントです。
③ 流動性の低さ
債券は株式と違い、取引所での流通量が少ないことが多く、
売りたいときに買い手がいない、希望の価格で売れないという事態が起こりえます。
特に個人向けの私募債やマイナーな社債では、このリスクが顕著です。
債券を選ぶときは、「途中で手放す予定があるかどうか」を事前に考えておくことが重要です。
▍5. リスクを抑える債券の持ち方:私の実務的おすすめ5選
方法 | 内容 |
---|---|
発行体の分散 | 国債・地方債・社債などに分けることで信用リスクを抑える |
通貨の分散 | 外貨建てと円建てを組み合わせ、為替リスクをコントロール |
残存期間の分散 | 3年・5年・10年などを組み合わせ、金利リスクを平滑化 |
利率のタイプ分散 | 固定金利・変動金利・割引債などで収益構造を多様化 |
ETFや投信の活用 | 個別債券が難しい場合は債券ETFやインデックス型投信を活用 |
これらを組み合わせることで、債券の持つ「安心感」を裏付ける設計を強化することができます。
私が相談を受けたとある公務員世帯では、退職金運用の一部を
・個人向け国債(変動10年)
・社債ETF(利回り3%前後)
・為替ヘッジあり外国債券ファンド
で分散し、「ストレスを減らす運用」の設計を支援しました。
▍6. 安心感だけに頼らず、仕組みで守る
「債券を買えば安心」と思ってしまうと、それは逆に危険です。
債券の価値は、“安心を感じる設計を自分で組み立てられる”ところにあります。
債券は、「利回りが高いから買う」のではなく、
「自分のライフプランや資産構成の“土台”をどう支えてくれるか」で選ぶべきです。
- 教育費のタイミングに合わせた償還日設計
- 年金までの生活費補填をカバーするクーポン収入
- 株式市場が荒れたときに売らずに済む“心理的バッファ”としての債券
このような設計を持てたとき、債券は数字以上の価値を生み出します。
▍まとめ:本当の「安全」とは、“設計と理解”の上にしか存在しない
安心を得るには、理解が必要。
債券はそのことを、投資家に静かに教えてくれる存在だと思います。
確かに、債券はリターンが限られています。
でも、**「損をしにくい」「続けやすい」**という構造は、資産形成の長期戦においては最大の武器となり得ます。
ただし、それを実現するためには、
- 正しく選ぶ
- 適切に分散する
- 自分の目的に合った期間・通貨・発行体を見極める
という“設計”が必要です。
この章でお伝えしたかったのは、債券そのものではなく、債券をどう使うかという「考え方」。
次の章では、そんな債券投資をこれから始める人に向けて、
具体的な第一歩と、長期的な活用法についてお話していきます。
【第6章】まとめ:これから債券投資を始める人へのメッセージ

「最初は個人向け国債から始めようと思います。なにより、“怖くない”って感じたのが大きかったです」──これまで数多くの投資初心者と接してきましたが、債券に対する第一歩は、いつもこの言葉に集約されていた気がします。
この章では、これまでご紹介してきた債券の仕組みや魅力をもとに、
**「では、実際にどこから始めればいいのか」**を具体的にご提案します。
資産形成には、“やってはいけないこと”もあれば、“続けやすい始め方”もあります。
その中で債券は、再現性のある仕組み型投資として、初心者にとって最適な入り口となり得る存在です。
ここでは、ライフステージや投資目的に応じた活用法から、制度活用・分散設計・具体的な行動まで、Quiet Money Labらしく“静かに着実に進める”投資の実践案をまとめてお届けします。
▍1. 債券をポートフォリオに入れる意味──「攻めるための守り」
株式やリスク資産に偏ったポートフォリオは、資産が増えるチャンスも大きい一方で、
急落時の恐怖や売却タイミングに迷う不安定さがつきまといます。
その一方で、債券はリターンこそ限定的ですが、
- 利息(クーポン)という定期収入
- 満期償還による資金回収
- ボラティリティの低さによる感情の安定
といった安定的な“支柱”としての役割を果たしてくれます。
これは、「守りたいお金」と「攻めたいお金」を明確に分けることに直結します。
結果として、リスク資産にもブレずに向き合える心理的基盤になるのです。
▍2. ライフステージ別:債券活用の考え方
投資は、その人のライフイベントや目的に応じて、必要な“道具”が変わります。
債券の使い方も、「若い人には不要」と一刀両断するのではなく、ステージに応じた意味づけが大切です。
▪ 20代~30代:投資習慣の基礎として
- 株式中心でOK。ただし「クッション資産」として債券ファンドを5〜10%程度組み込むのは有効。
- 「債券ってこういう動きをするんだ」という感覚を掴むためにも、少額でETFやバランス型投信を保有するのがおすすめ。
▪ 40代~50代:ライフイベントの費用管理に
- 教育費や住宅ローン返済など、中期的に必要になるお金の“置き場所”として、満期3〜5年の債券を組み込む。
- 元本返済の見込みがある資産として、将来のキャッシュフロー設計に活用。
▪ 60代以降:資産の安定運用と生活費補填に
- 株式比率を徐々に減らし、クーポン収入を活かす設計へシフト。
- 社債・外債は信用リスクを確認しながら厳選。国債やETF型の債券商品を中心に、リスクを取りすぎない設計へ。
▍3. つみたてNISA・iDeCoでの活用──制度と債券の“相性”
つみたてNISAやiDeCoのような制度は、「非課税」での長期運用を可能にします。
特に、以下のような考え方で債券型の投資信託を活用するのが有効です。
制度 | 活用方法 | ポイント |
---|---|---|
つみたてNISA | バランス型ファンドに債券が含まれる | 長期運用で値動きを抑える効果。株式との組み合わせを意識 |
iDeCo | リスク許容度に応じて債券比率を調整 | 退職年齢に合わせて債券比率を上げる“ライフサイクル運用”が基本 |
※なお、2025年以降の制度改正も予想されるため、常に最新情報をチェックする習慣は忘れずに。
▍4. 少額から始められる具体的な債券投資の入口
初心者の方にとって、以下のような選択肢から始めるのが現実的です。
▪ 個人向け国債(変動10年/固定5年など)
- 1万円から始められ、元本割れの心配が少ない
- 途中換金も可能(1年経過後)
▪ 債券ETF
- 国内債券・外国債券のインデックスに連動する商品
- 少額で分散投資が可能。証券口座から簡単に購入可能
▪ 債券インデックスファンド(つみたてNISA/iDeCo対応)
- 株式とのバランスを意識した設計が主流
- 自動積立+長期運用でコストを抑えつつリスク分散
まずは「債券の動きを“体感”してみること」が重要です。
難しい理屈よりも、実際に数ヶ月持ってみることで「値動きの穏やかさ」や「クーポンのありがたみ」がわかってきます。
▍5. 少額投資×債券=“静かに積み上がる選択”
Quiet Money Labが一貫してお伝えしているのは、「焦らず、仕組みを味方につける資産形成」です。
債券はその中でも、「派手さはないけれど確実に積み上がる」資産です。
- 利息は少しずつでも確実に貯まり
- 満期があるから将来のお金の出口が見え
- ポートフォリオ全体を安定させる土台になる
“少額からでも意味がある”。それが債券の本質的な魅力です。
私も、自分自身の資産の中で「大きく増やす」株式と、「ぶらさない」債券を常にセットで考えるようにしています。
この“両輪の設計”があることで、安心して投資を継続できる感覚を持てるのです。
▍6. 一歩踏み出すなら、まずはここから
「結局、何を買えばいいですか?」と聞かれたら、私はこう答えます。
「まずは個人向け国債を1万円だけ買って、3ヶ月だけ様子を見てみてください」と。
なぜなら、実際に持ってみることで、債券に対する心理的な抵抗が一気に下がるからです。
数字に強くなくてもいい。金融商品に詳しくなくてもいい。
まずは一歩だけ、「自分のお金を“守る資産”に少しだけ置いてみる」。
その体験が、資産形成の“地に足をつける”第一歩になります。
▍Quiet Money Labからのメッセージ
投資というと、どうしても「増やす」「勝つ」「早くお金持ちになる」といったキーワードが先行しがちです。
でも、現実において資産形成の成功とは、**「続けられること」「途中で手を止めないこと」**に尽きると、私は実感しています。
債券は、その“続けられる設計”を支えてくれる静かなパートナー。
騒がず、焦らず、自分のペースで進めるためにこそ、ぜひ債券の力を活かしていただきたいと思います。
✅ 少しでも気になっているなら…
債券投資は、「時間を味方にする投資」を成功させるための心強い選択肢です。
利回りだけを追わず、感情に振り回されず、
静かに、じっくりとお金を育てていくために──
まずは、自分に合った債券のスタートラインを探してみてください。
📎 注釈・免責事項
- 本記事は2025年5月時点の制度・市況情報に基づいて執筆しています。将来的に制度内容や金融商品の条件が変更される可能性がありますので、最新情報は必ず各公式機関・金融機関の発表をご確認ください。
- 投資には元本割れなどのリスクが伴います。債券は比較的リスクの低い資産とされていますが、発行体の信用状況や市場金利の変動により損失が生じる可能性があります。
- 利回りや運用実績は過去のデータに基づいたものであり、将来の成果を保証するものではありません。
- 本記事にはアフィリエイト広告(PR)が含まれています。掲載サービスの選定・紹介に際しては中立性と信頼性に配慮していますが、最終的なご判断はご自身の責任にてお願いいたします。
- プライバシー保護の観点から、一部の事例やエピソードは構成上再編集・再構成しています。
出典・参考:
JETRO|アルゼンチン、2014年以来のデフォルト(アルゼンチン) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
日本経済新聞|個人向け日本国債と長期のアメリカ国債、投資するならどちら? – 日本経済新聞
総務省|地方債制度等について
財務省|レポート
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