【2025年最新版】電子インボイス完全解説|保存要件・Peppol・電子帳簿保存法の実務対応ガイド

目次

第1章 電子インボイスとは何か|定義・Peppol標準と提供方法

電子インボイスとは?仕組みと制度上の位置づけ

インボイス制度の開始前までは、仕入税額控除の適用を受けるために、紙で交付された請求書を保存することが前提とされてきました。しかし、令和5年10月からインボイス制度が本格的に導入されたことで、請求書を電子データでやり取りし、そのまま保存する方法が正式に認められるようになりました

このように、紙の代わりに電子データとしてやり取りされる請求書のことを、一般に「電子インボイス」と呼びます。なお、消費税法上には「電子インボイス」という用語そのものは登場しませんが、国税庁では「適格請求書に係る電磁的記録」を電子インボイスとして紹介しています。

従来の紙媒体に依存した処理から、電子データへの転換が制度上認められたことで、経理業務のデジタル化に大きな追い風が吹いています。

Peppolとは?電子インボイスの国際標準仕様

電子インボイスの仕組みを理解するうえで欠かせないのが「Peppol(ペポル)」という国際的な仕様です。これは、インボイスなどの電子文書をネットワーク上で安全かつ効率的にやり取りするためのグローバル標準フォーマットを指します。

国内では、会計ソフト事業者などが中心となって「電子インボイス推進協議会」が設立され、Peppol形式の導入と標準化が進められています。Peppolの導入により、以下のような効果が期待されています:

  • 会計処理の自動化と業務効率の向上
  • 既存の会計ソフトで対応可能なため導入コストが低い
  • 銀行との連携による請求〜支払処理の迅速化

Peppolの特徴的な構造として、いわゆる「4コーナーモデル」が採用されています。これは以下のような仕組みです。

  1. 売手(C1)は、自身のアクセスポイント(C2)を経由して
  2. Peppolネットワークへ接続し
  3. 買手側のアクセスポイント(C3)へ電子インボイスを送信し
  4. 買手(C4)のもとに届く

この仕組みにより、紙書類の郵送や手入力による処理は不要となり、会計システムへの自動取り込みが可能になります。Peppolに対応したシステムを選定しておくことが、今後の経理DXを推進するうえでの重要な視点となるでしょう。

電子インボイスの提供方法とは?実務における手段

電子インボイスの提供方法については、制度上いくつかの手段が認められています。具体的には、以下のような方法があります。

  • EDI(電子データ交換)による提供
  • 電子メールによるファイル添付
  • インターネット上のサイト経由でのダウンロード提供
  • CD-ROMなどの記録媒体を通じた提供

また、インボイスが電子データとして扱われる範囲は非常に広く、たとえば次のような形式も対象に含まれます:

  • 手書きの請求書をスキャンしたPDFやJPEG
  • Excelで作成された請求書ファイル
  • 受発注データをまとめたEDIデータの集合体

このように、電子インボイスの定義は技術的な形式よりも「データとしての記録性」に重きを置いている点がポイントです。電子帳簿保存法の定義と連動しているため、提供方法と合わせて保存要件にも留意する必要があります。

DX推進の鍵となるインボイスの形態選択

近年では、単に紙の請求書を電子化するだけでなく、企業全体の業務プロセスを効率化する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の文脈でも電子インボイスが注目されています。

ただし、「電子インボイス」と一口に言っても、その形態はさまざまです。たとえば:

  • PDFや画像ファイルでの授受:紙と業務フローがほとんど変わらない
  • EDI形式のインボイス:会計データとの自動連携が可能

つまり、単に電子化すること自体が目的なのではなく、どのような形態で電子インボイスを運用するかがDXの効果を左右します。

「郵送コストを削減できれば十分」と考える企業もあれば、「会計ソフトまで自動連携させたい」といった戦略を持つ企業もあるかもしれません。自社の業務フローや経理体制に応じて、適切な形態を選ぶことが導入成功のカギとなります。

第2章 電子帳簿保存法改正と保存要件・検索要件の緩和

保存要件は4つのポイントから成り立つ

電子インボイスを電子データのまま保存するには、電子帳簿保存法に定められた4つの保存要件をすべて満たすことが基本となります。その4要件とは、次のとおりです。

  1. システムの概要書などの備付け
  2. パソコンやディスプレイなどの整備
  3. 検索機能の確保(いわゆる検索要件)
  4. 改ざん防止措置

このうち、1〜3は「可視性要件」として、データ内容をすぐに確認できることを求めたものです。4つ目の「改ざん防止措置」では、データが改変されていないことを担保する仕組みが必要とされます。これらの要件をすべてクリアすれば、電子データを紙に出力せずに保存することが可能になります。

ペーパーレス化を進めたいと考える企業にとって、これらの保存要件の理解と対応は避けて通れないものとなっています。

検索要件に対する2つの緩和措置

とはいえ、実務上「検索要件をどう満たすか」に悩む企業も少なくありません。そこで制度上、次のような緩和策が設けられています。

① 売上高5,000万円以下の事業者への特例

年間の売上高が5,000万円以下であれば、検索機能の整備は不要となります。ただし、税務調査の際に職員の求めに応じてデータをダウンロード形式で提示できる体制が必要です。

② 売上高にかかわらず検索要件を満たせない場合

検索機能以外の要件(改ざん防止など)は満たしているが、検索機能だけが対応できないケースでは、整然とした書面出力で提示できることが条件となります。この場合も、電子データ自体は保存しておく必要があります。

いずれのケースも、税務署への届出は不要です。社内の準備状況や業務フローに合わせて柔軟に選択できるようになっている点がポイントです。

「相当の理由」があれば要件不充足でもOK?

さらに、「どうしても保存要件を満たせない」という場合でも、**“相当の理由”**があれば特例的に保存が認められます。たとえば、

  • システム導入が間に合わなかった
  • 人手や資金が不足していた

といった事情が該当します。もちろん、何の理由もなく「対応しません」では認められません。経営者の主観や方針だけでは不十分とされます。

この特例が適用される場合でも、電子データやその出力書面を整然とした形式で提示できる体制は必要です。税務調査時に備えて、必要な準備は怠らないようにしたいところです。

クレジット明細は適格請求書になるのか?

経費精算の際にコーポレートカードの明細データを使うケースは多く見られます。しかし、明細に記載されている内容は通常、

  • 取引日
  • 取引先名
  • 金額

といった項目にとどまります。消費税率や取引内容など、適格請求書として必要な記載事項が欠けていることが一般的です。

そのため、明細データだけを保存していても、インボイス制度上の仕入税額控除の要件を満たせない点には注意が必要です。必ず、領収書など適格請求書に該当する書類を別途受領し、保存するようにしましょう。

スマホ決済と電子インボイスの関係

スマホアプリを通じた決済も、電子取引に該当します。たとえば、

  • アプリ提供者からの利用明細を電子データで受領した場合
  • 従業員が立替えた費用に関する明細データが個別のスマホへ届いた場合

こうしたケースでも、企業としては検索機能や改ざん防止を意識した管理体制を整えることが重要になります。

また、スマホ決済の明細は電子データとして保存することもできますが、その内容が適格請求書の要件を満たしていなければ、仕入税額控除の対象とはなりません。

印刷して紙で保存することも可能ですが、電子保存で控除適用を狙うのであれば、「支払日時・支払先・金額に加え、消費税率や取引内容が明記されているか」をしっかり確認しておきましょう。

第3章 電子化導入プロジェクトと内部統制|システム選定からPeppol接続まで

導入プロジェクトは段階的に進めるのがポイント

電子インボイスの本格導入を検討する場合、いきなりすべてを一気に変えるのは現実的ではありません。社内に混乱を生じさせないためにも、段階的な導入計画を立てることが重要です。代表的なステップとしては、以下のような流れが挙げられます。

  1. システムの選定:自社に合った会計ソフトやEDIツールを選ぶ
  2. 社内規程の整備:運用ルールを文書化し、社内で統一したルールを周知
  3. テスト運用の実施:一部取引先との限定運用を通じて、実務面の確認と改善

特に、後述するPeppolとの接続を検討する際には、利用予定のシステムがPeppolに対応しているかどうかが一つのチェックポイントとなります。

電子インボイス保存における法人税と消費税の違い

電子取引データの保存については、税目ごとに対応が異なります。この点を理解しておかないと、制度上の不備を招くおそれがあるため注意が必要です。

法人税(および所得税)の場合

電子取引については、書面出力による代替保存が原則として廃止されました。したがって、法人税法上は、電子帳簿保存法に定められた保存要件を満たしたうえで電子データのまま保存することが必要とされています。

消費税の場合

一方で、消費税法上は今でも紙に出力して保存する方法が認められており、電子データの保存が必須とはされていません。

このように、税目ごとに取扱いが異なるため、実務では法人税・消費税の両方の要件を満たす保存方法を前提に運用設計することが現実的です。

Peppolネットワーク接続と取引先との連携実務

Peppolを導入する際には、自社だけの対応では不十分であり、取引先との連携も重要なテーマになります。

Peppolのネットワークでは、売手と買手がそれぞれのアクセスポイント(中継サーバのようなもの)を介してデータをやり取りします。この仕組みは「4コーナーモデル」と呼ばれ、以下のような流れで構成されます。

  1. 売手(C1)が自身のアクセスポイント(C2)を通じて
  2. Peppolネットワークへ接続
  3. 買手側のアクセスポイント(C3)にデータが送信され
  4. 買手(C4)へインボイスデータが届く

この仕組みにより、紙の請求書のやり取りや会計ソフトへの手入力作業が不要となり、経理部門の業務効率が飛躍的に向上します。

ただし、取引先がPeppolに未対応である場合には、この自動化の恩恵を十分に享受できない可能性もあります。導入を進める際には、主要な取引先にもPeppol対応を働きかけることが望ましいといえるでしょう。

インボイスの保存期間と保存場所は?

インボイスの保存に関しては、「写し」の保存が求められます。この「写し」は、発行したインボイスの複写や、その内容を確認できる程度の記載があるデータ・一覧表・レシートジャーナルなども含まれます。

保存期間

保存期間は、インボイスを交付した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間です。

保存場所

保存場所については、本社所在地だけでなく、取引に係る支店や営業所などの所在地でも問題ありません。実務上、どの拠点で発行・交付が行われたかを踏まえて、柔軟に保存場所を設定することが可能です。

電子化時代に求められる実務体制とは?

今後、電子インボイスや電子帳簿保存法への対応を進めていくにあたり、企業には「電子保存を基本としつつ、紙保存にも対応できる体制」が求められてきます。

たとえば、電子帳簿保存法の保存要件を満たしつつ、万一のシステムトラブルや調査対応のために紙でも整然と出力できる仕組みを用意しておくことは、リスク管理の観点でも有効です。

また、会計システムやEDIツールを導入する際は、「Peppol対応」「帳簿保存法対応」「改ざん防止措置の整備」といった要素が満たされているかを事前にしっかりチェックしておくことも大切です。

免責事項

本記事は執筆時点の法令・制度に基づいて作成されています。制度内容は今後変更される可能性がありますので、導入・運用に際しては必ず税理士等の専門家にご相談ください。当サイトでは個別の税務判断・会計処理についての責任を負いかねます。あらかじめご了承ください。

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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