インボイス制度の完全解説|登録・発行・保存まで実務対応をやさしく整理

目次

第1章|インボイス導入の背景と制度概要

仕入税額控除制度のこれまで

消費税について日本ではこれまで、帳簿と請求書等を保存することを条件とする「請求書等保存方式」によって、仕入税額控除が行われてきました。
この方式における請求書等の記載事項は、発行者名、取引年月日、取引内容、対価の額、交付を受ける者の氏名といった基本的な5項目に限定されていました。

その後、軽減税率制度の導入に伴い、標準税率と軽減税率の区別が求められるようになり、従来の方式は「区分記載請求書等保存方式」へと改められます。この段階では、取引内容が軽減税率対象であること、税率ごとの合計対価額を記載することが追加されました。

しかし、いずれの方式も請求書発行者が課税事業者であるか免税事業者であるかを問わず、一定の記載があれば仕入税額控除が可能でした。このため、消費者から預かった消費税相当額が実際には納付されず、事業者に残る、いわゆる「益税」の問題が指摘されてきました。

インボイス制度導入による変更点

こうした課題に対応するため、令和5年10月から「適格請求書等保存方式」、いわゆるインボイス制度が導入されました。この制度では、帳簿と「インボイス」と呼ばれる所定の記載要件を満たした請求書等の保存が、仕入税額控除の前提条件となります。

インボイスの記載事項では、従来の「税率ごとの合計対価額」に代わって、「税率ごとに区分した税抜価額または税込価額の合計額及び適用税率」と「税率ごとに区分した消費税額等」が求められるようになります。つまり、より詳細かつ明確な税率情報の提示が必要となり、帳簿だけではなく書類にも正確な税区分の把握が求められるようになったということです。

この制度により、仕入れ先が免税事業者である場合、その請求書がインボイスの要件を満たさないことから、仕入税額控除ができなくなります。逆にいえば、インボイス発行事業者として登録することにより、課税事業者は自らが交付する請求書が仕入税額控除の対象となるインボイスとして機能することになります。

「買手」と「売手」双方への影響

インボイス制度の理解にあたっては、取引における「買手」と「売手」の立場を明確に区別することが重要です。事業者は、商品やサービスの仕入れにおいては「買手」として、また販売においては「売手」として、双方の立場を持ち合わせています。

まず「買手」の立場から見ると、仕入税額控除を適用するためには、交付された請求書がインボイスの形式に則っている必要があります。そのため、取引先がインボイス発行事業者であるかどうかを確認し、不備があれば訂正を求める対応が求められる場面も出てきます。

一方「売手」としては、自社がインボイス発行事業者でなければ、買手である取引先に不利益が生じる可能性があるため、取引継続のために登録を検討せざるを得ないという状況も生まれます。特に、取引先が仕入税額控除の適用を必要とする課税事業者である場合、インボイスを発行できる体制を整えることは実務上の重要な要素となります。

登録の判断に必要な視点

インボイス発行事業者としての登録は任意ではありますが、制度導入に際しては、すべての事業者が登録を検討する必要があります。
とくに売手側は、登録することで取引先に不利益を与えずにすむ一方で、請求書フォーマットの見直しや交付義務への対応、さらには保存義務の発生など、新たな負担も生じます。

課税事業者にとっては、登録の有無にかかわらず消費税の納税義務があるため、取引先との関係性や業種の性質を踏まえて対応方針を決めることが求められます。
一方で免税事業者の場合には、登録すれば課税事業者となり、納税と事務負担が生じることから、慎重な検討が必要になります。

業種や顧客属性によっては、登録しない選択が取引に大きく影響しないケースもあるかもしれませんが、すべての事業者がインボイス制度の趣旨と要件を正しく理解し、自社にとって適切な対応を選択していくことが重要だと考えられます。

第2章|インボイス発行事業者登録の手順とスケジュール

登録申請の基本的な流れ

インボイス発行事業者として登録を希望する場合、所轄税務署長に対して登録申請書を提出する必要があります。登録申請の方法は、申請者が個人事業者か法人か、あるいは新設法人かといった事業者区分に応じて異なる様式が用意されています。

現行の提出様式としては、令和5年10月1日以降の申請には「第1-(3)様式」が使用されます。申請書では、課税事業者であることや、必要に応じた納税管理人の届出の有無、消費税に関する罰則歴の有無などを確認する項目があります。免税事業者が申請する場合には、免税事業者である旨を明記する必要があります。

また、相続により事業を引き継いだ場合には、その旨を登録申請書に記載し、承継の状況を明示する必要があります。このような場合、被相続人がすでに登録を受けていたかどうかなど、引継ぎの経緯に応じた記載が求められます。

通知書の受領と登録番号の管理

登録の完了後には、申請者が選択した方法により通知書が交付されます。e-Taxで申請した場合には電子データとして通知が届き、紙での申請では書面の通知書が郵送されます。ただし、書面で受領した通知書は原則として再発行されません。

登録番号は、「T」から始まる13桁の数字で構成されています。法人の場合には「T+法人番号」が用いられます。
なお、登録番号が分からなくなってしまった場合には、インボイス登録センターに問い合わせることで、再確認することができます。

登録番号の表記形式には若干の変遷があり、早期登録時には4桁区切りのハイフン付きの表示もありましたが、現在では連続した数字13桁の形式で表記されています。ハイフン付きの番号でも有効な番号として扱われますので、過去に作成した印字物が無駄になることはありません。

公表サイトでの情報確認

インボイス発行事業者として登録された情報は、国税庁の公表サイトに掲載されます。このサイトでは、登録番号を入力することで、当該事業者の登録情報を確認できます。法人であれば法人番号からの検索も可能ですが、個人事業者については、氏名や屋号からの検索はできません。

公表される情報には、法人名や所在地、登録番号、登録日などが含まれます。個人事業者については、氏名や登録番号に加え、事業者自身の申し出によって屋号や所在地が公表される場合もあります。これらの情報は、取引先から請求書に記載された登録番号の有効性を確認するための手段として活用されています。

登録スケジュールの整理

令和5年10月1日からインボイス制度が開始されましたが、この開始日に間に合わせて登録するには、原則として令和5年3月31日までに申請書を提出する必要がありました。ただし、やむを得ない事情がある場合には、令和5年9月30日までに事情を記載して申請することで、制度開始日に登録されたものとみなされる特例も設けられました。

この特例については、制度の運用上、困難な事情の記載がなくても受理されることとされており、実務上は制度開始直前まで登録の検討が可能な状態となっていました。取引先との調整状況を踏まえながら、申請タイミングを柔軟に決めることができるよう配慮されています。

制度開始後であっても、課税事業者であればいつでも登録申請が可能です。この場合、登録の効力は「登録簿に登載された日」から生じるため、課税期間の途中であっても登録が成立すれば、インボイスの交付義務が発生します。

国外事業者の登録における留意点

国外事業者が国内で課税資産の譲渡等を行う場合、一定の要件を満たすと消費税の納税義務が生じます。登録については、国内事業者とは異なる様式により申請を行う必要があります。

国外事業者に対しては、登録拒否の事由が比較的多く設定されており、例えば税務代理人の不在や納税管理人の未届出、国税の滞納などが該当するケースでは、登録が拒否される可能性があります。また、過去に登録を取り消され、その取消日から1年を経過していない場合なども、登録が制限される対象となります。

さらに、一定の国外事業者については、登録申請を行わなくても自動的に登録を受けたものとみなされる扱いもあります。該当の取引を行う事業者であれば、この特例に該当するかどうかをあらかじめ確認しておくことが必要です。

第3章|適格請求書の法定記載事項と返還インボイス

適格請求書に必要な記載項目

インボイス制度のもとで仕入税額控除を適用するには、交付された請求書が所定の要件を満たしていることが必要です。ここでいう「インボイス」とは、名称にかかわらず、法定の記載事項をすべて備えている書類を指します。請求書、納品書、領収書、レシートなど、形式や名称は問いません。

インボイスとして求められる記載事項は、以下の6つです。

  1. インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号
  2. 課税資産の譲渡等を行った年月日
  3. 課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容(軽減税率対象である旨を含む)
  4. 税率ごとに区分して合計した税抜価額または税込価額および適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

これらの記載があれば、手書きでも印刷でもインボイスとして認められます。なお、商品が軽減税率の対象とならない場合には、「8%対象0円」などの記載は不要ですが、適用税率と消費税額は省略できません。

簡易インボイスの取扱い

不特定多数の顧客を相手にする事業(小売業、飲食業、タクシー業など)では、「簡易インボイス」の交付が認められています。

簡易インボイスでは、次のような点で記載要件が緩和されます。

  • 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称は不要
  • 「消費税額等」または「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる

つまり、簡易インボイスでは通常のインボイスと異なり、消費税額そのものの記載がなくても、税率が記載されていれば成立します。必要項目としては、通常のインボイスに準じた記載が求められますが、そのうち1項目(交付相手の氏名等)は不要となります。

複数の書類によるインボイスの成立

日常の業務においては、一つの取引について複数の書類が交付されることもあります。たとえば、納品時に納品書、月末にまとめて請求書を発行するケースなどが該当します。

こうした場合でも、納品書と請求書との関連性が明確であれば、それら複数の書類を合わせて一つのインボイスとみなすことができます。重要なのは、インボイスの要件を全体として満たしているかどうかであり、必ずしも一枚の書類で完結している必要はありません。

返還インボイスに必要な記載事項

返品や値引きが発生した場合には、売上げに係る対価の返還等に関するインボイス、いわゆる「返還インボイス」の交付が必要となります。

返還インボイスには、以下の事項を記載することが求められています。

  1. インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号
  2. 対価の返還等を行った年月日および当初の取引日
  3. 対価の返還等の基となる資産または役務の内容(軽減対象である旨を含む)
  4. 返還額の税抜または税込価額(税率ごとに区分して合計した金額)
  5. 消費税額等または適用税率(税率ごとの区分は不要)

なお、税込金額が1万円未満の返還等であれば、返還インボイスの交付義務は免除されます。この点は実務上の負担軽減措置として重要です。

インボイスの修正に関する実務対応

交付済みのインボイスに記載ミスがあった場合には、売手から買手に対して、修正したインボイスまたは返還インボイスを交付する必要があります。

修正の方法としては、主に2通りの対応が考えられます。

  • 1つ目は、すべての記載事項を正しく記載した新しいインボイスを再発行する方法です。
  • 2つ目は、当初のインボイスとの関連性を明示し、修正した内容を追記した書類を交付する方法です。

一方、買手側が受け取ったインボイスに誤りを発見した場合、自ら追記・修正することはできません。売手に修正の依頼を行い、再交付されたインボイスを保存する必要があります。

ただし、実務上の配慮として、買手が作成した仕入明細書などに訂正内容を反映させ、売手の確認を受けた上で保存する方法も認められています。この場合、再交付は不要です。また、電話などで訂正内容を確認したうえで、既存のインボイスに修正を加えたコピーを保存し、売手からの了承を得ておけば、仕入税額控除の適用を受けることもできます。

第4章|税務の不安を相談できるサービス紹介

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免責事項

本記事は、税制度に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務判断や対応策を推奨するものではありません。
適用にあたっては、必ず税理士などの専門家や信頼できる専門書籍等を確認のうえ、ご自身の判断で対応いただきますようお願いいたします。

なお、本記事の内容を参考にされたことにより生じた損害等について、運営者は一切の責任を負いかねます。
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皆さまの選択が、より良い方向につながることを心より願っております。

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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