第1章|リース取引の所得計算
~リース取引に係る所得の計算~
リース取引の基本的な取扱い
法人が行うリース取引については、税務上「所有権移転リース取引」と「所有権移転外リース取引」に区分されるファイナンス・リース取引が中心的な位置づけとなっています。
このリース取引は、実質的には売買取引として取り扱われることになり、オペレーティング・リース取引のような単なる賃貸借取引とは異なる考え方をとります。
貸手側がこのようなリース資産を譲渡した場合、その譲渡に伴う収益や費用の帰属年度については、一定の条件のもとで「延払基準」により分割して認識する方法が認められています。
所得計算に用いられる主な3方式
リース取引に係る収益および費用の計上方法には、以下の3つの方法が用意されています。
法人は、自社の会計処理方針等に応じてこれらを選択することになります。
1.通常の延払基準の方法
この方法は、賦払金の支払期日に応じて収益と費用を按分計上する考え方です。
具体的には、リース譲渡に係る対価および原価に、当該事業年度に到来する賦払金の合計額が全体に占める割合(賦払金割合)を乗じた金額を当該年度の収益および費用とします。
賦払金割合の算出は、支払期日に基づいて行います。
2.利息相当額を区分する方法(延払基準の一種)
この方法では、対価から利息相当額を除いた元本相当額を、リース期間にわたって按分し、その年の期間に応じた分を収益として計上します。
さらに、利息相当額についても複利法によって算出し、各年に配分します。
費用の計上に関しても同様で、リース原価を月数で均等に割り、その年に対応する月数分だけを費用とする仕組みです。なお、端数月については1か月として扱われます。
3.特例計算(利息相当額を純利益の20%とする方法)
この特例は、利息相当額の算定を簡便に行う目的で設けられたもので、対価から原価を差し引いた残額の20%を利息相当額として扱う点が特徴です。
この20%相当額を利息とみなし、残りの金額を元本相当額としてリース期間で按分し、収益を計算します。
この方法を適用するには、初年度の確定申告書に明細書の添付が必要となる点に注意が必要です。
上記3方式を用いない場合の扱い
いずれの方式も採用しない場合には、原則どおり、リース資産の引渡しを行った事業年度において、リース譲渡に係る対価の全額および原価の全額を、それぞれ収益および費用として一括計上する必要があります。
リース取引の法的位置づけと会計処理との違い
法人税法上の「リース取引」とは、基本的には中途解約ができず、かつ借手が資産から生じる経済的利益を実質的に享受し、使用に伴う費用を負担することが求められるものを指します。
このような契約形態は、会計上で言う「ファイナンス・リース取引」に該当するものであり、税務と会計とで概ね対応が取れています。
ただし、税務上はその実質から売買取引として扱うため、資産の引渡しがあった時点で収益認識のタイミングを問題とする点に特徴があります。
会計基準変更に伴う経過措置
旧法においては、リース取引に加え、他の長期割賦販売も延払基準の適用対象とされていましたが、収益認識基準の導入により、延払基準の適用対象はリース譲渡のみに限定されました。
ただし、平成30年3月31日以前に長期割賦販売等を行った法人については、一定期間に限り、従前の取扱いが認められる経過措置が設けられています。
特に、令和5年3月31日までに開始する事業年度までは、旧法による延払基準の収益計上が可能とされていました。
また、適用を取りやめた場合には、繰延割賦利益額については原則として10年で均等に収益計上することになります。
セール・アンド・リースバック取引の注意点
貸手が譲受人として資産を取得し、同時にリースバックによって貸付けを行うような取引が「セール・アンド・リースバック取引」です。
このような一連の取引が、実質的に金銭の貸借であると認められる場合には、形式的な売買ではなく、金銭貸付取引とみなされます。
結果として、税務上は資産の売買がなかったものとして扱われ、リース取引ではなく金融取引として課税関係が整理されることになります。
第2章|外貨建取引・外貨建資産の換算
~外貨建取引の換算等・外貨建取引及び外貨建資産、債務等の換算~
制度の背景と位置づけ
法人が行う取引のうち、外貨建で処理されるものについては、会計上・税務上いずれにおいても本邦通貨への換算が不可欠です。特に、わが国ではかつて固定相場制を採用していたこともあり、外貨換算の取扱いは長らく一部の業種を除いて限定的でした。
しかし、変動相場制への移行後は、為替の変動が損益に大きな影響を与える可能性が高まり、制度面でも整備が進められることとなりました。その結果、外貨建債権債務や資産に関する換算方法は法人税法上に明確な規定として設けられ、今日では収益計算の精度を確保するうえで重要な論点の一つとされています。
用語の整理と換算の基本原則
まず、外貨建取引とは、外国通貨で支払いが行われる一連の取引全般を指します。これには、商品の販売や役務の提供、金銭の貸借、配当の受領といった通常の企業活動に含まれる取引が含まれます。
一方で、「外貨建資産等」とされるものは、外国通貨で表示された債権・債務、有価証券、外貨預金および外国通貨などが該当します。
これらの外貨建取引や資産等については、原則として、その都度の外国為替の売買相場により円換算を行うこととされています。
発生時換算法と期末時換算法
換算方法には、基本的に「発生時換算法」と「期末時換算法」の二つがあり、資産の種類や取引の性質によって使い分けることになります。
- 発生時換算法:資産の取得または負債の発生時点における外国為替の相場に基づいて換算する方法です。
取得原価や発生金額を基準とする考え方に合致する換算方法といえます。 - 期末時換算法:事業年度終了時点での相場を用いて換算する方法で、期末時点の評価に基づくため、時価評価的な要素を含んでいます。
それぞれの方法は、外貨建資産等の種類ごとに政令で細かく指定されており、たとえば外国通貨や外貨預金については期末時換算法、有価証券については保有目的に応じた換算が必要となります。
実務上の換算相場と選択制度
円換算に用いる相場としては、原則として取引日の対顧客直物電信売買相場の仲値が採用されます。ただし、継続適用を条件に、電信買相場または電信売相場を用いることも可能とされています。
また、外貨建資産等について複数の換算方法が認められている場合には、その取得年度の確定申告書の提出期限までに、所轄税務署長へ書面により届け出ることで換算方法を選択することができます。
この届出を行わない場合、選択制を利用した継続適用ができなくなる点には注意が必要です。
先物為替予約の活用と予約差額の取扱い
外貨建資産の為替リスクを回避するために、先物外国為替契約を利用することがあります。
こうした契約により、円換算額があらかじめ確定している場合には、その先物契約に基づく相場により換算を行います。
このとき生じる「為替予約差額」については、その資産や債務の決済日までの各事業年度に配分し、益金または損金として処理することとされます。配分方法は次の通りです。
為替予約差額×(当該事業年度の日数/契約締結日から決済日までの日数)
また、外貨建資産が短期外貨建資産等に該当する場合には、この予約差額を一括計上することも可能です。
換算差損益の帰属と洗替え処理
期末における換算により生じる差額、すなわち為替換算差額については、所得金額の計算上、益金または損金に算入されることになります。
ただし、翌事業年度においては、前年度で計上した差額相当額を逆仕訳のように戻す処理が求められています。このように、当該換算差額は原則として「洗替え処理」により翌期に調整される取扱いです。
会計基準との整合性
外貨建取引の換算に関しては、企業会計審議会や公認会計士協会から処理指針が示されており、税務上の換算方法とおおむね整合が取られています。
実際の処理においても、現金や預金、短期債権債務、有価証券、固定資産などの種類ごとに換算の考え方が定められており、適切に分類して処理を行うことが重要です。
第3章|借地権の設定と税務
~借地権(借地権等)とは・借地権の設定等~
借地権の税務上の位置づけ
借地権という用語については、借地借家法においては「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義されています。一方で、法人税法上はより広い概念を採用しており、他人に土地を使用させる行為のすべてを「借地権等」として取り扱う点に特徴があります。
このため、借地借家法でいう借地権に限らず、地役権の設定、借地権の転貸、その他土地の使用に関する一定の行為も「借地権の設定等」として含まれることになります。
権利金の収受がない場合の認定課税
法人が借地権の設定等を行い、通常権利金を収受する取引慣行がある地域や取引であるにもかかわらず、当該権利金の一部または全部を収受しなかった場合には、税務上「権利金の認定課税」が行われることになります。
この取り扱いの背景には、過去に借地権を用いた租税回避行為が繰り返されたという経緯があります。無償で借地権を設定することにより、実質的な土地の譲渡であるにもかかわらず、それを形式的に回避しようとする動きが見られたためです。
相当の地代を収受している場合の扱い
一方で、通常の権利金を収受する代わりに、その土地の時価に照らして相当の地代を継続的に収受している場合には、当該取引は正常な取引条件で行われたものとして認定課税は行われないとされています。
この「相当の地代」とは、原則としてその土地の更地価額の年6%程度の金額とされています。ただし、時期により年8%相当額が基準とされる場合もあり、実際の適用に際しては更地価額や借地権割合の算定根拠が必要です。
また、相当の地代の授受がある場合には、その改訂方法について所轄税務署長への届出が必要とされています。
無償返還に関する届出の活用
借地権の設定等において権利金の収受がなく、また相当の地代にも満たない場合でも、将来的にその土地を無償で返還する旨の契約があるときは、所定の届出を行うことで、一定の取扱いが認められます。
この無償返還の届出があった場合、権利金の認定課税は見合わせられる一方で、相当の地代と実際に収受している地代との差額については、借地人に対する贈与とみなされます。
認定課税が行われる場合の算定方法
認定課税が行われるケースでは、次の算式により「権利金相当額」が算定されます。
権利金相当額=土地の更地価額×(1-(実際に収受している地代の年額/相当の地代の年額))
権利金の認定額=権利金相当額-(実際に収受した権利金+特別の経済的利益)
たとえば、更地価額が1,000で借地権割合が80%の場合に、権利金の収受がないケースで相当の地代が適正に収受されていれば、認定課税は行われないことになります。ただし、この考え方はあくまで法人税の観点に基づくものであり、借地借家法の適用上は別途の法的解釈が必要になる場合もあります。
権利金以外の経済的利益
なお、ここでいう「権利金」には、現金の授受だけでなく、無利息での借入れなど、経済的価値が法人に移転するような実質的な利益も含まれます。したがって、形式的な権利金の支払がない場合であっても、経済的利益の提供があれば、それに応じた課税関係が発生する可能性があります。
免責事項
本記事は、法人税に関連する制度や取扱いについて、現行の法令および公表されている実務情報に基づき整理したものです。内容の正確性には留意しておりますが、すべてのケースに適用されるものではありません。
個別の事案における判断や具体的な処理方法については、必ず所轄の税務署または税理士等の専門家へご相談ください。
本記事の記載内容により生じたいかなる損害についても、当方では一切の責任を負いかねます。予めご了承ください。
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