第1章|棚卸資産の範囲と取得価額
~対象資産の明確化と評価の起点を押さえる~
棚卸資産とはどのようなものか
法人税法上、棚卸資産とは、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で、棚卸しをすべきものとして政令で定められている資産を指します。
有価証券や短期売買商品等はこの範囲に含まれず、それぞれ別の評価ルールが適用されます。
ここでいう「棚卸しをすべきもの」とは、販売のために保有されている物品、または販売を目的とする製品の製造に使用される物品を意味します。同じ資産であっても、用途によって棚卸資産に該当するか否かが分かれることがあるため、取り扱いには注意が必要です。
具体的に棚卸資産とされるものには、次のような区分があります。
- 商品および製品(副産物や作業くずを含む)
- 半製品や仕掛品(半成工事も含まれる)
- 主要原材料
- 補助材料
- 消耗品であって貯蔵中のもの及びこれに準ずるもの
なお、有価証券については、その性質上、棚卸資産には含まれません。
平成19年度の税制改正によって、短期売買商品、 すなわち短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得された金や白金等についても、棚卸資産から除外される取扱いとなっています。
棚卸資産の取得価額にはどのようなものが含まれるのか
棚卸資産の評価にあたって基礎となるのが取得価額です。
これは、期末時点の棚卸資産の価額を算出する際の出発点であり、その構成要素を正しく把握することが、適正な損益計算につながります。
取得価額の構成は、資産の取得方法に応じて次のように整理されます。
購入による場合
- 購入対価
- 引き取り運賃
- 荷役費
- 発送保険料
- 購入手数料
- 関税
- その他、購入のために要した費用
- 消費または販売の用に供するために直接要した費用(例:検収費や買い入れ事務費など)
自己製造による場合
- 原材料費
- 労務費
- 経費
- 販売の用に供するために直接要した費用(例:検収費や出荷検査費など)
このように、取得価額には購入対価や製造原価のみならず、当該資産を消費または販売に至らせるために直接的に必要な費用まで含まれることになります。
棚卸資産の評価に際しては、これらの費用項目が正確に捉えられているかを丁寧に確認していくことが求められます。
第2章|評価方法と届出手続
~棚卸資産の期末評価と税務処理の前提条件を確認する~
棚卸資産の評価方法にはどのような方法があるのか
棚卸資産の評価方法は、企業が恣意的に利益を操作することを防ぎ、適正な所得計算を行うために、法人税法上で明確に定められています。
棚卸資産の評価方法には「原価法」と「低価法」があり、さらに原価法は複数の細分類に分かれています。
原価法の基本的な考え方
原価法とは、棚卸資産を取得したときの価格を基準として評価する方法で、以下の6種類から選定することができます。
- 個別法
- 先入先出法
- 総平均法
- 移動平均法
- 最終仕入原価法
- 売価還元法
たとえば、先入先出法では、先に取得した棚卸資産から順に払い出されたものとみなし、残っている資産は後に取得したものとして評価します。
物価が上昇している局面では、結果的に評価額が高くなる傾向があります。
一方、最終仕入原価法は、事業年度の最後に取得した資産の単価を基に評価する方法です。
この方法は時価に近い金額での評価が可能であり、期末時点での在庫数量さえ把握できれば、計算処理が比較的簡便に済みます。
なお、最終仕入原価法は企業会計原則では認められていない評価方法のため、上場企業などは会計上の評価方法として採用することができません。
低価法の仕組み
低価法は、棚卸資産の価額を次のいずれか低い方で評価する方法です。
- 原価法により評価した価額
- 税務上の時価(期末時点の価額)
この評価方法を選ぶことにより、価値が下落した棚卸資産について、損金算入のタイミングを早めることができます。ただし、 選定には慎重な検討が求められます。
資産の評価損との関係
低価法の適用と混同されやすい論点として、法人税法第33条に基づく「資産の評価損」との違いが挙げられます。
原則として、評価損は損金としての取扱いが認められておらず(法33①)、例外的に損金算入が可能となるのは、災害などの特殊事情がある場合や、時価が帳簿価額を下回り、かつ回復が見込めない場合などに限られます(法33②、令68①一、基通9-1-4~5)。
一方、低価法は、そのような損失の原因や将来の回復可能性にかかわらず、あくまでも「期末における資産評価の一手法」 として、一定の要件のもとで認められています。
これは、評価損がすでに発生した損失を会計上で明示する手続であるのに対し、低価法は取得原価主義の枠内で行う価格調整にすぎないとされているためです。
このように、両者は制度的にも目的的にも全く異なるものであり、同列には扱えません。
実務上は、例えば、市場価格が緩やかに下落しているような場合、低価法であれば、在庫が低価法により評価され、型落ちなどによる大幅な値引きなどは著しい陳腐化として評価損の損金経理が可能ということになります。
また、評価損の場合には、損金経理することが絶対条件である点も低価法との違いになります。
特別な評価方法の位置づけ
上記の方法以外にも、特別な評価方法を選ぶ余地はあります。
ただし、この場合には、所轄税務署長に対して申請書を提出し、承認を得る必要があります。
承認の可否は、評価方法の合理性や企業実態への適合性に基づいて判断されます。
評価方法の選定や届出はどうするのか
評価方法を選定する際には、法人が営む事業の種類ごと、かつ、商品や製品、半製品、仕掛品などの区分ごとに、それぞれ方法を決定しなければなりません。
法人の実情に最も合った方法を選び、売上原価の計算が適切に行われることが求められます。
選定した評価方法については、以下のいずれかのタイミングに応じて、確定申告書の提出期限までに所轄税務署長に届出を行う必要があります。
- 新たに法人を設立した場合:設立の日
- 新たに収益事業を開始した場合:開始した日
- 他の種類の事業を開始した場合:開始した日
- 事業の種類を変更した場合:変更した日
このように、適切な届出を行うことで、評価方法が正式に適用されることとなります。
評価方法の変更手続
一度選定した評価方法は、原則として継続して使用することが求められます。
変更を希望する場合には、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに、所轄税務署長へ変更承認申請書を提出し、承認を受ける必要があります。
なお、法人が届出を行っていなかった場合や、届け出た方法により評価していない場合には、「最終仕入原価法による原価法」で評価したものとみなされます。
届出の失念や形式的な不備であっても影響を受けることになるため、手続面にも注意が必要です。
第3章|売上原価と期末調整
~損益計算の要所となる原価計算の基本を押さえる~
売上原価はどのように求めるのか
法人税法上、売上原価は、当期に販売された商品の仕入高に相当する金額を表し、次の算式によって計算されます。
売上原価=期首商品棚卸高+当期仕入高-期末商品棚卸高
この算式のうち、期首商品棚卸高は前期末に確定しており、当期仕入高も取引内容に基づいて集計が可能です。そのため、当期の売上原価を正確に算出するためには、期末商品棚卸高の金額を適正に評価することが重要な前提となります。
期末棚卸高が損益に与える影響
期末棚卸高の金額は、売上原価を構成する要素の一つであり、その算定結果が大きく損益に影響を与えることがあります。
具体的には、次のような関係があります。
- 期末棚卸高が過少に評価された場合
→売上原価が過大に計算され、結果として利益が過少に計上される - 期末棚卸高が過大に評価された場合
→売上原価が過少に計算され、結果として利益が過大に計上される
このように、期末評価の適否によって、所得金額の認識にも差が生じる可能性があるため、正確な棚卸と評価が求められます。
棚卸数量の確定と実務上の留意点
期末の商品棚卸高は、「期末在庫数量×1単位あたりの評価額」によって求められます。
ここでの評価額は、評価方法ごとに定められた単価であり、種類・品質・型ごとに区分して決定されることとなっています。
期末在庫数量の把握方法としては、実際に数量を確認する「実地棚卸法」があります。
ただし、実地棚卸だけでは盗難や減耗などによる在庫の減少が把握できない場合もあるため、受払帳などの帳簿を用いた「帳簿棚卸法(継続記録法)」を併用することが在庫管理上は望ましいと言えます。
いずれの方法を用いるにしても、在庫数量と評価額の双方について正確性を確保することが、適切な原価計算の土台となります。
【免責事項】
本記事は、法人税法及び関係法令等に基づき、棚卸資産および売上原価に関する基本的な仕組みや手続の概要を説明することを目的として作成されたものです。
実務において判断が求められる場面では、必ず所轄税務署、税理士へご相談ください。
本記事の内容に基づいて生じたいかなる結果についても、執筆者および提供元は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承くださいますようお願いいたします。
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