第1章| 益金の基本と収益認識基準の全体像
はじめに|「益金」をどう捉えるかが出発点
法人税の課税所得は、「益金から損金を差し引いた金額」で算出されます。
このうち益金については、何を収益とみなし、いつその金額を計上するのかによって、所得額が大きく変わる可能性があります。
費用の処理が正確でも、益金の認識にずれがあると、課税上の問題につながりかねません。
本章では、益金に含まれる金額の基本的な考え方と、令和時代の収益認識をめぐる会計基準・税務上のルールを整理します。
条文の内容を含みますが、できる限り平易に解説していきますので、実務の確認としてご活用ください。
益金の額に算入すべき金額とは
出発点となる定義
法人税法では、別段の定めを除き、資本等取引を除くすべての取引から生じる「収益の額」を益金に算入すると定めています(法22条2項、22条の2)。
ここでいう「収益の額」は、あくまで取引総額を示すものであり、利益や純収入とは異なります。
代表的な7つの取引類型
法人税法上、益金として扱われる主な収益の類型は以下のとおりです。
類型 | 具体例 | 補足 |
---|---|---|
(1) 商品・製品の販売 | 完成品の出荷など | 会計上の売上高に相当 |
(2) 固定資産・有価証券の譲渡 | 不動産売却、株式売却 | 一般的に営業外収益に該当 |
(3) 請負等の役務提供 | 建設工事、運送、コンサル | 部分完成基準の可能性あり |
(4) 資産の無償譲渡 | 寄贈品の提供など | 時価で益金算入 |
(5) 役務の無償提供 | 無料サービス提供 | 時価評価が必要 |
(6) 資産の無償譲受け | 贈与や債務免除など | 時価で益金算入 |
(7) その他 | 雑収入など | 包括的なその他取引 |
特に⑷〜⑹は、企業会計よりも税務の対象範囲が広くなる点に注意が必要です。
会計とのずれに注意
企業会計でも「収益」という用語は使われますが、たとえば資産の無償譲渡や無償譲受けは、会計上では収益として扱わないことも考えられます。
一方で法人税法では、これらも時価で取引があったとみなして益金に算入する仕組みになっており、会計上の利益計算とは乖離が生じる場面もあります。
収益認識基準と法人税法の対応
会計基準の導入と背景
2018年3月30日に公表された「企業会計基準第29号(収益認識に関する会計基準)」は、国際的な整合性を意識して IFRS15を基礎に策定されたものです。
この基準の柱となる考え方は、「履行義務の充足に応じて収益を認識する」というもので、以下のように適用範囲が異なります。
- 監査対象法人:2021年4月1日以降に開始する事業年度から強制適用
- 中小企業:従来どおり企業会計原則等の利用が可能
法人税法第22条の2の創設
上記の会計基準への対応として、法人税法も2018年度税制改正により第22条の2 (収益の額)を新設しました。
これにより、法人税上の収益の扱いについて、次のように明文化されています。
- 計上時期:原則は「引渡し基準」
- 計上金額:原則は「時価または通常得べき対価」
あわせて、会計基準に沿った経理を認める規定、申告調整による選択規定も整備されました。
収益の計上時期と金額|押さえておきたい3つの原則
計上時期の原則:引渡し基準(法22の2①)
資産の販売または役務の提供による収益は、その引渡し日または提供が完了した日の属する事業年度において益金として計上します。
これは法人税上の基本的なルールです。
会計処理に基づく計上(法22の2②)
もし会計上、契約効力発生日など「引渡しに近い日」に収益を計上している場合には、法人税上もその処理が認められます。
ただし、継続適用が前提となります。
申告調整による計上(法22の2③)
決算では計上していない場合でも、確定申告書で益金として申告すれば「決算で経理したもの」とみなされます。
ただし、上記①または②による収益認識をしている場合は申告調整により後から変更することはできません。
計上金額の原則(法22の2④)
益金として計上する金額は、以下のように定められています。
- 時価主義:販売資産は引渡し時点の時価、役務は通常得べき対価で認識
- 変動対価:値引きや割戻し等が合理的に見積もれる場合、あらかじめ控除が可能
- 貸倒・買戻しの可能性:それが見込まれる場合でも、基本的には影響を加味しない
見積もりの根拠資料を残しておくことが、後の税務調査でも重要なポイントとなります。
本章のまとめ
本章で見てきたとおり、
- 益金の範囲は企業会計よりも広く、無償取引なども含まれる
- 収益認識基準は履行義務に基づくが、法人税では引渡し基準が原則(会計処理を認める例外規定あり)
- 計上の時期・金額には選択肢があるものの、継続性と根拠資料の整備がカギ
次章では、ここで整理した枠組みを、実際の販売取引や請負契約に当てはめながら、いつ収益を計上すべきかを事例ベースで深掘りしていきます。
日々の会計処理が、どのように税負担へ影響するのかを、実感していただける内容となるはずです。
第2章|資産の販売・請負収益の計上時期
はじめに|本章の目的
前章で確認した「益金」の枠組みを踏まえ、本章ではさらに一歩踏み込んで、収益をいつ計上するのかというタイミングの問題を整理します。
特に、商品販売と請負取引では収益発生のタイミングが大きく異なり、判断を誤ると「期ズレ」が生じる恐れがあります。
ここでは、法人税法およびその通達が定める原則と特例をもとに、収益計上の考え方を実務べースで確認していきます。
商品・製品の販売収益はいつ計上するのか
販売フローと計上の着眼点
商品が売れるまでには、一般的に以下のような流れが想定されます。
契約成立→出荷・発送→到着→検収→請求→入金
この一連のプロセスの中で、法人税では「引渡しがあった日」を基準として益金に計上することが原則とされています(法22の2①)。
実務上の代表的な5つの基準
引渡し日をいつとみなすかは取引形態により異なります。
例えば、以下のような基準が考えられます。
基準 | 引渡しとみなす日 | 主な適用例 |
---|---|---|
出荷基準 | 倉庫から商品を出荷した日 | 遠隔地への卸売取引など |
船積基準 | FOB条件で船積みを行った日 | 海外向け輸出取引 |
着荷基準 | 商品が買主に到着した日 | 通販や宅配等の販売 |
検収基準 | 買主による検収が完了した日 | 機械・装置の納入取引など |
使用収益開始基準 | 買主が使用を開始できる状態になった日 | サブスクリプション型機器など |
上記のいずれかの基準を選択し、継続して適用することが求められます。
期中に恣意的に変更することは、税務上の信頼性を損なう恐れがあるため注意が必要です。
例外処理の考え方
一部の取引(例:委託販売、ガス・電気・水道等の供給取引)では、通常の引渡し基準が適用困難なこともあります。
その場合、「引渡し日に近接する日」に収益を計上する方法も認められています。
このようなケースでは、契約書、出荷記録、検針結果など、客観的な資料を基に日付を判断し、帳簿上の証拠として保管することが実務上の対応となります。
請負による収益はいつ計上するのか
請負取引の基本的な考え方
請負契約には、次の2つのタイプがあります。
- 物の引渡しを伴う工事:その工事の全体が完了し、引き渡した日に収益を計上
- 役務の提供のみで完結するサービス:提供が完了した日に収益を計上
このように、完了の事実に基づいて収益計上を行うのが基本です。
部分完成基準の適用場面
建設工事など長期にわたる案件では、完成部分ごとに対価を受け取る契約となっていることがあります。
この場合には、「部分完成基準」により、各部分の完成・引渡しごとに収益を分割して計上します。
工事進行基準
「工事進行基準」とは、工期が1年以上・請負金額が10億円以上などの要件を満たす長期大規模工事に対して強制適用されるものです。
それ以外の工事でも選択適用は可能ですが、一度適用した場合は継続適用が求められます。
収益・費用は「請負対価 × 進行割合」で計算し、進行度合いに応じて毎期分割計上する方法です。
ただし、着手から6か月以内や進行割合が20%未満の工事は、ないものとすることも認められています。
収益計上に関する特例と会計方針変更の注意点
延払基準の概要(リース譲渡)
「リース譲渡」に該当する取引については、一般的な販売基準ではなく、「延払基準」を選択することが認められています (法63、令124)。
この方式では、以下の計算により、当期の収益を配分します。
当期の収益額=対価の額×賦払金割合
賦払金割合 = 当期中に支払期日が到来する賦払金÷対価の額
このように、キャッシュインに合わせて収益と原価を配分できるため、資金繰りと課税のタイミングを一致させたい場合に有効な選択肢となります。ただし、対象はリース譲渡に限られますので注意が必要です。
会計方針変更時のチェックポイント
収益計上の基準を変更する場合は、次の点に注意が必要です。
- 変更の合理性があるか(例: 制度改正や取引形態の変化など)
- 継続適用が可能か(翌期以降も同じ処理が可能か)
- 帳簿・申告への影響(過去との比較情報が整合的か)
したがって、会計方針の変更を行う場合は、取締役会議事録や社内規程により、明確な根拠を示すことが必要です。
第3章|営業外収益と無償取引
はじめに|本章の目的
この章では、本業以外で得られる収益(営業外収益)と、無償での資産の譲渡や譲受けをめぐる税務上の取扱いについて整理します。
一見すると収益が発生していないように見える無償取引も、法人税の世界では「時価での取引」として処理されることがあります。
法人税法の考え方と会計との違いを踏まえ、実務上押さえるべきポイントを確認していきましょう。
営業外収益はいつ計上するか
固定資産を売却した場合
固定資産を売却したときの収益は、「引渡しがあった日」を基準に益金へ算入します(法22の2①)。
なお、契約の効力が発生した日など、引渡し日に近接する日をもって計上する方法も認められています。
いずれの場合も、選択した基準は継続して適用することが求められます。
利息収入
預金や貸付金などから生じる利息は、利息計算期間の経過に応じて計上するのが原則です。
また、利払期が明確である場合には、利払日基準も認められています。
適用にあたっては、契約書面等で日付が確認できる状態にしておくことが望まれます。
受取配当金
他法人からの配当金は、配当額が確定した時点で益金として計上します。
実際の入金日とはずれるケースも多いため、期末処理において計上漏れがないよう、配当確定通知などの書面で確認しておくことが重要です。
資産の無償譲渡|時価で収益を認識する場面
無償でも「時価取引」とみなす
法人が資産を無償で譲渡した場合、会計上は収益として扱われないことが一般的ですが、法人税法では時価での譲渡が 行われたものとみなし、その時価相当額を益金に算入するものとされています。
これが「資産の無償譲渡による収益の額」としての取扱いです。
二面性のある処理に注意
無償譲渡には、以下の2つの側面があります。
- 収益面:譲渡した資産の時価を益金として認識
- 支出面:相手方によっては、寄附金または給与として損金不算入になる可能性あり
特に、贈与先が役員や従業員である場合は、給与課税との関係も生じ得るため、社内規程や議事録などで目的・経緯を 明確に残しておくことが重要です。
資産の無償譲受け|経済的利益をどう扱うか
受贈時の時価を益金に計上
他の法人や個人から資産を無償で受け取った場合、その時価相当額を益金に算入します(法22の2)。
同様に、債務免除を受けた場合も、その免除額がそのまま益金となります。
これらはいずれも、法人の正味資産が実質的に増加する性質を持つため、収益として課税対象になります。
必要となる資料と備え
無償譲受けに該当する場面では、以下のような書類を整備しておくことが考えられます。
贈与契約書や覚書などの交付文書、受け取った資産の時価に関する評価資料、譲受理由・経緯を示した社内の稟議書や議事録。
これらの書類を備えておくことで、経済的利益の発生とその合理的根拠を明確にし、税務調査への対応をスムーズに進めることができます。
この章のまとめ
- 固定資産の譲渡益、利息、配当などは、それぞれ法人税法で定められたタイミングで収益として認識する必要があります。
- 無償であっても、資産を譲渡すればその時価を収益に、譲受ければその時価を益金に計上します。
- 譲渡先・譲受先の属性によっては、寄附金や給与として処理すべき場合があり、注意が必要です。
- 判断の根拠となる契約書や時価評価資料をあらかじめ整備し、課税当局からの照会に備えることが実務では重要と考えられます。
こうした取引は金額も大きくなりがちで、税務調査でも注目されやすい項目です。
処理をあいまいにせず、条文と実態に即した正確な判断と証拠の備えを日頃から心がけておきましょう。
免責事項
本記事は、法人税に関する一般的な考え方を解説したものです。
実際の税務判断は、 取引の内容や状況により異なる場合がありますので、個別のケースについては税理士などの専門家にご相談のうえ、最終的なご判断をお願いいたします。
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