法人税の基礎|納税義務者・課税所得・事業年度をわかりやすく解説

目次

第1章|納税義務者の範囲と法人区分

納税義務者とは何か

法人税の納税義務者とは、法人税を負担する義務を負う主体のことを指します。
法人税法では、「法人税の納税義務を負う者」として、内国法人、外国法人、そして人格のない社団等が挙げられています。
これらの者は、それぞれに応じた条件のもとで法人税が課されることになります。

ここでいう「法人」とは、法人税法において明確な定義が置かれていないため、民法や会社法などの他の法律で定義されている法人の概念を借りて解釈する、いわゆる「借用概念」に基づいて理解されます。

たとえば、民法では、「この法律その他の法律の規定により成立した法人」が法人とされています。
会社法では、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4種類を会社として定義し、「会社は法人とする」と規定しています。

このように、法人税法上の「法人」とは、様々な法律に基づき設立された法人を広く含むものであり、税務上の取扱いはそれぞれの法人形態に応じて異なってきます。

納税義務を負う法人の類型

法人税法において、納税義務者となる法人は、まず「内国法人」と「外国法人」に区分されます。
内国法人とは、国内に本店または主たる事務所を有する法人を指し、外国法人とはそれ以外の法人をいいます。

さらに、内国法人はその性質に応じて、次の5つの区分に分類されます。

  • 公共法人
  • 公益法人等
  • 協同組合等
  • 普通法人
  • 人格のない社団等

このうち、公共法人は国や地方公共団体が拠出した資金をもとに運営されていることから、法人税の納税義務を負いません。
一方、公益法人等や人格のない社団等については、収益事業を行う場合など一定の要件を満たしたときに限り、法人税の納税義務が生じることとなります。

人格のない社団等については、法人格を持たない団体であっても、代表者や管理人の定めがあるなどの一定の条件を満たせば、法人とみなして法人税の課税対象となります。
これは、課税の空白を回避するための制度上の措置と位置付けられています。

法人該当性の判定とその基準

法人に該当するかどうかの判断は、法令上の形式だけでなく、実態を踏まえた判定が必要となる場合もあります。
たとえば、外国の法令に基づいて設立された団体であっても、その団体が訴訟当事者になり得るか、財産を自己名義で保有しているか、契約締結が可能かどうかなど、実質的な活動内容や法的権利行使の可否によって法人該当性が判断されることがあります。

実際に、外国におけるリミテッド・ライアビリティ・カンパニー (LLC)について、日本の裁判所は、法人としての機能を有している場合には、わが国の税法上も法人とみなして課税することが適当であると判断しています。

また、人格のない社団等についても、ねずみ講組織のように実態として組織性や管理体制が不明瞭な団体については、法人とみなすことはできないとされた事例があります。
このように、形式的な設立根拠だけでなく、運営の実態も踏まえた上で、 納税義務者としての法人性が問われることがあります。

まとめ

法人税の納税義務者には、さまざまな類型の法人が含まれ、それぞれに応じた取扱いが設けられています。
法人の区分は、単に法律上の区別にとどまらず、実務上の課税関係にも大きな影響を与えます。
内国法人と外国法人の区分、公益性の有無、収益事業の実施状況など、複数の要素が組み合わさって法人税の納税義務の有無が判断されることになるため、制度理解を丁寧に進めていくことが重要です。

第2章|課税所得の範囲と計算構造

課税所得の基本的な範囲

法人税の課税対象となる「課税所得」は、法人が一定の期間において得た経済的利益を基礎に計算されます。
ただし、その範囲は法人の種類によって異なる点に注意が必要です。

たとえば、普通法人の場合には、その全ての所得が課税の対象となります。
一方、公益法人等や人格のない社団等については、収益事業から得られた所得のみに課税されるという取扱いがなされています。
これは、法人の設立目的や活動内容によって、課税の公平性を考慮した仕組みと考えられています。

外国法人についても、国内に源泉を持つ所得が課税の対象となります。
つまり、すべての収入に法人税が課されるわけではなく、対象となる所得の範囲は法人の区分と事業の有無により異なってくるということになります。

実質所得者課税の原則

課税の際には「誰の所得か」が重要な論点となります。
法人税法では、「名義人」と「実質的な収益享受者」が異なる場合に、実質的な帰属先を基準として課税するという考え方が採用されています。
これがいわゆる「実質所得者課税の原則」と呼ばれるものです。

この原則には2つの考え方があります。
一つは、名義上の所有者が実態として権利を有していない場合に、その収益を実際に享受している者に帰属させるという法的実質主義です。
もう一つは、法律上の権利関係を問わず、経済的な実態として収益を得ている者に課税すべきとする経済的実質主義です。

現行の運用では、法律上の形式と実態を総合的に考慮しつつ、実質的に収益を享受していると認められる場合には、そちらに課税する対応がとられているようです。
ただし、実態把握の困難さや法的安定性の観点から、慎重な判断が求められる場面も少なくありません。

課税所得の計算構造

法人税の課税標準は「各事業年度の所得の金額」とされており、その計算方法は法人税法第22条に基づいて行われます。
具体的には、その事業年度における「益金の額」から「損金の額」を差し引いて課税所得を算出するという構造です。

企業会計上の利益と課税所得は似た構成を持ちますが、両者の間にはいくつかの違いが存在します。
たとえば、企業会計では収益と費用の考え方に基づいて利益が算定されますが、税務上はその中から一定の金額を除外または加算する必要があります。
これが「税務調整」と呼ばれるものです。

企業会計との関係

企業会計では、期間損益の認識にあたり発生主義や実現主義といった原則が用いられます。
たとえば、売上は商品の引き渡しが完了した時点で収益として認識されるなど、経済活動の成果を一定のルールに従って処理しています。

一方で法人税の計算では、税法に基づく別段の定めがある場合には、そのルールに従って計上金額を調整することが求められます。
そのため、収益や費用の扱いに違いが出る場面が出てきます。

決算から課税所得までの流れ

課税所得の算定は、法人の決算手続から始まります。
まずは企業会計上の利益が確定され、その後に税務上の加算・減算を行い、課税所得が導き出されます。
さらに、この課税所得に基づいて法人税額が計算され、申告・納付へと至る流れになります。

この過程では、「損金に算入できる項目か否か」や「益金として認識すべきかどうか」といった判断が重要となります。
特に、損金算入の要件には、事前の帳簿記載や適切な経理処理が求められるケースもあり、実務上は注意が必要です。

税務調整の位置づけ

税務調整とは、企業会計上の処理と法人税法上の計算ルールとの差異を補正するための手続です。
これには、大きく分けて「決算調整事項」と「申告調整事項」があります。

決算調整事項は、帳簿段階で損金経理を行う必要があるもので、代表例として減価償却費や引当金などがあります。
一方、申告調整事項には、法人が確定申告書上で調整を行うものが含まれます。
このうち、調整が任意とされるものと、必ず調整しなければならないものとに分かれています。

たとえば、受取配当等の益金不算入や過大な役員給与の損金不算入といった取扱いは、税法上のルールに基づいて申告書で調整が行われる項目に該当します。
これらの調整を正しく行わないと、法人税額の過不足が発生する可能性があるため、慎重な取り扱いが求められます。

まとめ

法人税の課税所得は、企業会計に基づいて計算された利益を出発点にしつつも、税法上の定めに従って調整を加えることで導き出されます。
法人の種類や事業内容によって課税の対象となる範囲が異なるため、それぞれの要件に応じた適切な処理が必要です。 特に、実質所得者課税の原則や税務調整の取扱いなどは、実務上の判断を要する場面も多くあります。
日々の経理処理や決算業務のなかで、こうした構造的な理解を持って対応することが、適正な申告と納税につながっていくといえるでしょう。

第3章|事業年度と中途解散時の取扱い

事業年度の基本的な考え方

法人税法における「事業年度」とは、法人の損益を一定期間ごとに計算し、課税の基礎となる期間を指します。
通常、これは法人が定款等に定めた会計期間に一致するものとされており、法人税の申告や納税はこの事業年度を単位として行われます。

事業年度の長さは1年以内とされており、会計期間が明示されていない場合には、税務署長が指定した期間を事業年度とすることになっています。
また、法人の設立時においては、2か月以内に会計期間を届け出ることで、初年度の事業年度を定めることが可能です。

事業年度の変更手続

法人が途中で会計期間を変更することも認められています。
この場合には、変更前と変更後の会計期間について、所轄の税務署長に届け出を行う必要があります。

中途解散の場合の取り扱い

法人が事業年度の途中で解散した場合には、通常の事業年度とは異なる特別な扱いがなされます。
具体的には、「解散の日までの期間」と「解散の日の翌日から期末までの期間」をそれぞれ別個の事業年度として取り扱うこととなります。
これらの期間は「みなし事業年度」と呼ばれ、各期間ごとに課税所得を計算し、申告を行う必要があります。

このような取り扱いは、法人の活動期間が通常の会計単位と異なる場合であっても、適正な課税を確保するための仕組みとして設けられています。

まとめ

法人税の課税期間となる事業年度は、法人の会計期間に連動して定められることが基本です。
変更や解散といった特殊な事情が生じた場合には、事業年度の区切り方が変わるため、申告・納税の際には十分な注意が必要となります。

特に、中途解散や合併などのイベントが発生する場合には、通常とは異なる手続きや申告時期が求められることがあるため、実務上は早めの準備と正確な対応が重要になるでしょう。

免責事項

本記事は、法人税法に関する制度や取扱いについて、現行の法令等に基づき一般的な説明を行ったものです。内容の正確性や完全性には十分配慮しておりますが、個別の事情により適用結果が異なる場合があります。

具体的な判断や申告手続等を行う際には、税理士にご相談いただくことをおすすめいたします。
また、本記事の内容は将来的な法令改正等により変更される可能性がありますので、最新の情報をご確認のうえご対応ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次