第1章|法人税の沿革と意義
はじめに:法人税の位置づけを整理する
法人税は、会社などの法人が得た利益に対して課される税金です。
いわば、法人が国に納める「所得税」にあたるものであり、個人にかかる所得税とは区別されて制度設計されています。
現在では日本の財政を支える主要な税目のひとつですが、 その制度は長い歴史とともに少しずつ形を変えてきました。
この章では、まず法人税制度がどのように成立してきたのかという歴史的な流れを押さえたうえで、現在の税体系における位置づけや、法人税に対する考え方の違いなどを整理していきます。
法人税の沿革:明治から現代までの流れ
配当に課税するところから始まった
日本で初めて所得に課税する仕組みが設けられたのは、明治20年 (1887年)のことです。
このとき創設されたのは「所得税」ですが、当初は法人そのものに課税する制度ではありませんでした。
法人が配当として株主などに分配した所得などに対して課税が行われていたというのが実情です。
その後、明治32年(1899年)に大きな転機が訪れます。
この年の税制改正により、法人自体にも所得税の納税義務が課されるようになりました。
法人に課せられるこの新たな課税は「第1種所得税」と呼ばれ、税率は当初2.5%と定められました。
この制度改正は、当時想定されていた日露戦争への財源確保という背景があったようです。
法人税の税目としての独立
その後、日露戦争が実際に始まった明治37年 (1904年)には、法人に対する税率は一気に4.25%まで引き上げられました。
さらに翌年にも大幅な増税が行われるなど、法人に対する課税は戦時財政の要として機能していたことがうかがえます。
大正期以降も、法人課税の範囲や対象は少しずつ拡大していきました。
特に大正9年(1920年)には、外国法人に対しても所得税を課す制度が導入され、法人課税の対象が国内法人だけでなく国外にも広がっていきます。
ただし、法人税という名前で税目が独立したのはもう少し後のことです。昭和15年(1940年)の税制改正において、ようやく、法人税が「法人税」として一つの税目として扱われるようになりました。
現行制度のベースとなる改正
現在の法人税制度の骨格が整ったのは、昭和25年(1950年)のことです。
この年に導入された法人税制は、いわゆる「シャウプ勧告」に基づいており、当時の日本の税制を包括的に見直す一環として行われました。
このときの制度設計は、現在の法人税の基礎となっており、その後の税制改正においても多くの部分が引き継がれています。
歳入に占める法人税の位置づけ
法人の数と経済的役割
現在の日本には数多くの法人が存在しており、その経済的な活動は国民経済にとって重要な役割を担っています。
たとえば、令和3年6月時点では約322万の法人が存在し、そのうち実際に申告を行った法人は301万社にのぼります。ただし、黒字で申告している法人の割合は約35%とされており、すべての法人が利益を出しているわけではありません。
法人は法人税だけでなく、消費税などの他の税金も納めています。
このような背景から、法人税の財政的な役割は非常に大きく、国の歳入の中でも重要な地位を占めています。
税収に占める割合
令和4年度の予算ベースで見ると、法人税の税収は約13.3兆円にのぼっています。
これは全体の租税収入 (約65.2兆円)のうち、約20.4%を占めており、消費税 (21.6兆円、33.1%)、所得税(20.4兆円、31.3%)に次ぐ規模です。
このように、法人税は財政面で見ても決して軽視できない存在であることがわかります。
法人活動が活発であれば税収も増加しますし、逆に景気が悪化して企業の利益が減ると税収も減少するため、法人税は景気の動向にも比較的敏感な税目といえるかもしれません。
法人税の性質と基本的な考え方
法人税とは何か
法人税は、法人の利益に対して課される税金であり、広い意味では所得税の一部に分類されることがあります。
ただし、日本の制度では個人の所得に対する税(所得税)と、法人の所得に対する税(法人税)を分けて運用しています。
法人税は、納税義務者と担税者が一致しており、最終的に税を負担するのが法人自身であるという点で、「直接税」とされています。
所得税との関係と二重課税の問題
法人の所得には法人税が課され、その後、法人から配当が出された場合には、個人株主の側でもその配当に対して所得税が課されます。
このように、同じ利益に対して法人と個人の双方で課税が行われることで、「二重課税」の問題が生じることがあります。
この二重課税を調整するために、さまざまな仕組みが検討されてきました。
たとえば、法人税を支払った後の配当を受け取る際に一定の控除を設けたり、法人間の配当については益金に算入しないようにする制度が設けられています。
こうした措置により、実質的な負担の公平性が保たれるよう調整がなされています。
法人税に対する二つの考え方
法人実在説と法人擬制説
法人税の課税根拠については、これまでに二つの代表的な考え方が存在しています。
一つは「法人実在説」と呼ばれるもので、法人は個人とは別の存在であり、独立した課税主体として取り扱うという立場です。
もう一つは「法人擬制説」で、法人は株主の集合体にすぎず、法人税は実質的に個人に課せられる所得税の前払いにすぎないとする立場です。
かつての日本では法人実在説が採用されていましたが、昭和25年のシャウプ勧告により、法人擬制説を基調とした制度が導入されました。
ただし、その後の制度改正を経て、現行制度はどちらか一方に明確に分類されるものではなくなっています。
おわりに
本章では、法人税の歴史的な経緯から制度としての意義、税収における位置づけ、そして課税に関する基本的な考え方までを概観しました。
法人税は単なる「会社の税金」ではなく、日本の財政や経済に密接に関わる重要な仕組みです。その成り立ちや考え方を押さえておくことは、今後の実務や制度理解においても大いに役立つことでしょう。
第2章|法人税法の法源と体系

はじめに:法律の仕組みを理解するために
法人税のルールは、単に一つの法律だけで完結するものではありません。
実際の実務においては、憲法をはじめ、複数の法令や政省令、さらには通達や判例など、さまざまなレベルの「法源」または参照根拠が相互に関係しながら法人税制を構成しています。
この章では、法人税の根拠となる憲法上の考え方から、法人税法を含む関連法規、そして法令の具体的な構造に至るまで、全体の体系を俯瞰していきます。
実務に携わるうえで、法体系の全体像を把握しておくことは、判断の根拠を明確にするためにも非常に重要です。
法人税の根本にある憲法の規定
憲法と法人税法の関係
法人税に限らず、租税に関する法制度は、憲法の規定に基づいて整備されています。
特に重要とされるのが、以下の2つの条文です。
- 第30条:「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」
- 第84条:「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」
これらの規定は、租税法律主義と呼ばれる原則の根拠であり、「法律によらなければ課税できない」という考え方を示しています。
加えて、「法の下の平等」や「財産権の保障」など、租税と関係の深い他の憲法条文も、法人税制度を考えるうえで無視できない位置づけにあります。
特に課税の平等性や納税者の権利に関する議論では、これらの憲法原則が実務上も参照される場面が多いといえるでしょう。
法人税に関する主な法令とその位置づけ
法人税法
法人税に関する基本的な事項は、「法人税法」に規定されています。
ここには、納税義務者の範囲、課税所得の定義、税額の算出方法、申告・納付の手続きなどが具体的に定められています。
法人税法は、いわば法人課税の基礎となる成文法であり、すべての判断の出発点となるものです。
実務上も、まず法人税法に目を通すことが必要とされます。
関連法:租税特別措置法・国税通則法など
法人税に関する規定は、法人税法だけで完結するものではありません。
たとえば、特定の業種や制度に関する課税上の優遇措置などは「租税特別措置法」にまとめられています。
また、申告や納税手続きなどについての共通ルールは「国税通則法」、滞納処分などの徴収手続きに関する内容は「国税徴収法」に記載されています。
これらの法律は、法人税法と一体的に機能するため、実務においても併せて理解しておくことが望ましいと考えられます。
租税条約およびその実施法
近年、経済活動の国際化が進むなかで、法人税においても国際的な視点が欠かせなくなっています。
このような背景から、 各国間で締結される「租税条約」は非常に重要な意味を持つようになっています。
租税条約は、二重課税の回避や租税回避行為の防止、課税権の調整などを目的としており、その内容は国内法よりも優先して適用されることもあります。
また、租税条約の内容を実際に運用するための国内法として、「租税条約等実施特例法」 も整備されています。
法令の構造と実務上の読み方
政令と省令
法人税法などの法律を実際に運用するには、その詳細を定める下位法令の存在が不可欠です。
こうした下位法令として位置づけられるのが「政令」および「省令」です。
政令は、内閣が制定する命令であり、法律の執行に必要な事項を定めるものです。
省令は各省大臣が発する命令で、法人税に関しては財務大臣が制定するケースが一般的です。
政令や省令は、法的効力を有するものであり、法律とともに参照すべき重要な資料といえます。
法人税実務においても、具体的な運用の場面ではこれらの政省令の記載内容を確認する必要が出てきます。
訓令・通達の役割
もう一つ実務上無視できないのが、国税庁長官などが発する「訓令」や「通達」です。
これらは、法源としての法的拘束力を持つわけではありませんが、実際の取扱いを示すものであり、納税者が通達に従って申告を行っていれば、原則として後日否認されることがないという実務上の保護があります。
通達には、一般的な取扱いを定めた「基本通達」と、特定のケースに対する個別的な対応を示した「個別通達」とがあります。
現在では、国税庁のウェブサイトなどを通じて、文書回答事例やFAQが広く公開されており、これらも実務上の判断材料として活用されています。
判例の意義と限界
税法は非常に複雑で、すべてのケースを成文法で網羅することは困難です。
そのため、課税の可否を巡ってはしばしば裁判で争われることもあり、判例が実務に与える影響は少なくありません。
たとえば、実質課税の原則や、同族会社に対する特別な取扱いなど、法律上明確な基準がない事項については、過去の判例が重要な指針となる場合があります。
特に「不確定概念」が含まれる条文については、裁判例の積み重ねが実質的な運用ルールを形成しているケースも見受けられます。
法人税法の構造を読み解く視点
目的規定と体系的な分類
法人税法の冒頭では、その目的や趣旨が明記されています。
このような「目的規定」は、法律の全体像を理解するうえでの道しるべとなるものであり、実務における条文解釈にも一定の影響を与えることがあります。
また、法人税法は体系的に整理されており、「編」「章」「節」といった構造で分類されています。
たとえば、内国法人の納税義務に関する事項は第2編、外国法人については第3編にまとめられているなど、項目ごとに規定のまとまりがあることで、検索や理解をしやすくする工夫が施されています。
見出し・定義規定・別表の活用
各条文には、その内容を簡潔に示す「見出し」が付されており、法文を読む際の目安となります。
たとえば「各事業年度の所得の金額の計算」といった見出しを見るだけで、どのような内容が書かれているかの見当をつけることができます。
また、法人税法第2条などには、法律全体に共通する用語の定義がまとめて掲載されており、各条文の意味を正確に読み取るためにも欠かせません。
個別の条文内にも、用語の意味が明記されているケースが多くあります。
さらに、特定の法人類型に関する規定などは、別表に一覧化されており、条文の煩雑さを避けるための工夫がなされています。
実務で頻繁に確認するような項目については、このような別表の存在を把握しておくと便利です。
おわりに
法人税法の全体像は、一見すると複雑に見えるかもしれませんが、各法源の役割や条文の構造を理解していくことで、その全体像を少しずつ掴んでいくことができます。
とくに、関連法令や政省令、通達、判例といった複数の要素が相互に補完し合っている点に注意が必要です。
制度を正しく理解し、それを実務に反映させていくためには、こうした体系的な視点を持って法令にあたる姿勢が求められるといえるでしょう。
第3章|法人税の種類と納税地の基礎
はじめに:申告の基本構造を押さえる
法人税の実務を理解するうえで、まず整理しておきたいのが「どのような法人税があるのか」、そして「どこに申告を行うのか」という基本的な構造です。
これらは、法人の設立直後から関係してくる重要なポイントであり、申告や納税の手続きに直結する実務的な項目です。
本章では、法人税の主な種類や、それぞれの課税対象の違い、さらに「納税地」の考え方やその指定ルールまでを順を追って見ていきます。加えて、申告制度の基本である「確定申告」にも簡単に触れていきます。
法人税の主な種類
大きく分けて3つの法人税
法人税には、法人の活動内容や拠点に応じて、いくつかのタイプが設けられています。現在、法人税法に定められている法人税の種類は、以下の3つです。
- 各事業年度の所得に対する法人税:これは最も基本的な法人税で、法人が1年間の事業を通じて得た所得に対して課されるものです。
国内で事業活動を行う法人の大多数がこの税目の対象になります。 - 退職年金等積立金に対する法人税:特定の退職給付に関連する積立金に課税するものです。
ただし、現在は適用停止の扱いとなっており、実務ではあまり見かけないケースかもしれません。 - 外国法人の各事業年度の所得に対する法人税:海外に本店を置く法人が日本国内で事業活動を行った場合、その日本国内における所得について課される税です。
国内源泉所得に限定されている点が特徴です。
この3つのうち、中心となるのは、やはり最初に挙げた「各事業年度の所得に対する法人税」です。
大多数の法人がこの税目の対象となり、法人税申告の主軸を成しています。
納税地とは何か
「納税地」はどこを指すのか
法人税の申告において重要な概念の一つが「納税地」です。
これは、法人が各種の税務手続き(申告書の提出、納付、届出、申請など)をどの税務署に対して行うのかを決める基準となる場所のことを指します。
法人税法では、納税義務者である法人が、税務行政上の各種手続きを行う対象として、その本店または主たる事務所の所在地を「納税地」とするのが原則です。
これにより、法人がどこの税務署に申告や納税を行うべきかが決まってきます。
また、納税地は単に税金を納める場所というだけでなく、法人に対する更正や決定、指導、徴収といった国税当局の一連の対応の拠点ともなります。
そのため、実務における利便性や情報管理の観点からも、納税地の設定は非常に重要な意味を持っています。
納税地の届出と指定
設立時の届出義務
法人が新たに設立された場合には、その設立日から2か月以内に「設立届出書」を提出し、納税地を所轄の税務署に届け出る必要があります。
また、納税地に変更があった場合には、「異動届出書」を通じて、変更前・変更後の納税地をそれぞれ所轄の税務署長に届け出なければなりません。
この届出は、法人としての税務対応の起点となるものであり、他の行政手続きと連携する場合にも基本情報として使われます。
納税地の指定とは
一部のケースでは、法人が届け出た本店所在地が実態と合わず、納税地として不適当と判断される場合があります。
たとえば、本店は形式的に設置されているだけで、実際の事業活動が別の地域で行われているような場合などです。
このような状況では、国税局長または国税庁長官の判断により、実態に即した場所を納税地として「指定」することができます。
納税地が適切に定まっていないと、行政手続きの正確性や効率に支障が出るため、このような調整制度が設けられています。
指定が行われるかどうかは、法人の事業内容や資産の状況、実務上の利便性などを総合的に勘案して判断されるため、必ずしも一律に処理されるわけではありません。
確定申告とは何か
所得の確定と申告の関係
法人税の計算は、法人が行う決算に基づいて確定されます。
この決算を前提として、法人税法に定められた様式に従って作成される申告書が「確定申告書」です。
確定申告によって初めて、法人税額が正式に確定されることになります。
法人は、事業年度終了後に株主総会などの承認を経た決算内容に基づき、原則として2か月以内に確定申告書を所轄税務署に提出する必要があります。
事情に応じて申告期限の延長が認められることもありますが、原則として期日内の提出が求められます。
添付書類と記載事項
確定申告書には、所得金額や法人税額などのほか、決算書、内訳明細書、事業概況書など、複数の書類を添付する必要があります。
また、組織再編成や税額控除の適用がある場合には、さらに特定の書類の提出が求められるケースもあります。
こうした手続きの正確さが、法人としての信頼性を高める要素にもつながりますので、提出内容は丁寧に整えておくことが望ましいといえるでしょう。
おわりに
本章では、法人税の種類ごとの概要から、納税地の制度、確定申告の基本的な考え方までを整理しました。
これらはいずれも、法人が税務対応を行う際の土台となるものであり、設立時から常に関わることになる重要な実務項目です。
今後、より詳細な税額計算や特例適用を検討する際にも、今回整理したような基本的な枠組みを理解しておくことが、大きな助けになるのではないかと思います。
免責事項
本記事は、法人税制度に関する公的情報や法令内容に基づき、一般的な理解を深めていただくことを目的として作成されています。
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