法人税の課税所得をわかりやすく解説|益金・損金・帰属年度の基本

目次

Chapter 1| 課税標準の基本概念

法人税の「土台」となる考え方

法人税の計算は、企業が得た所得金額をもとに進められます。
ここでいう「所得」とは、売上から費用を差し引いた、いわば最終的なもうけに該当するものです。
ただし、日々の会計処理で用いられる「利益」とは異なり、税法上は独自の定義に基づいて金額が計算されます。
したがって、まずはこの「所得金額」が法人税の課税対象となるという仕組みを押さえておくことが重要です。

この課税対象となる金額のことを、税務上は「課税標準」と呼びます。文字どおり、法人税を課すための基準となる金額を指します。

課税標準の計算は「益金-損金」

課税標準の算定には、基本となる数式があります。
それは、「益金の額-損金の額」という式です。
この差額が、その事業年度における課税所得、つまり法人税のベースとなる金額になります。

ここで注意したいのは、「益金」「損金」という言葉は、普段使っている「収益」「費用」とは少しニュアンスが異なるという点です。

たとえば、会計処理上では収益として認識する取引であっても、税務上の益金には含まれないケースもありえます。
そのため、会計上の利益=課税所得とはならず、税務調整を要することがあるわけです。

「益金」とはどういう収益か

では、税務上の益金にはどのようなものが含まれるのでしょうか。
代表的な項目としては、資産の販売や役務の提供といった、通常の営業活動による収益が挙げられます。
また、無償で資産を受け取った場合の評価額なども含まれるとされています。

基本的には、企業が事業を通じて得た対価や価値に相当するものが、益金として課税所得の計算に反映されるという仕組みです。
もっとも、すべての収益がそのまま益金に含まれるとは限らず、例外的な扱いとなるものもあります。

「損金」に含まれる費用の範囲

一方で、損金とは、その益金を得るためにかかった費用や損失を意味します。
たとえば、売上原価や販売費及び一般管理費などが典型的です。

ただし、将来的に発生が見込まれるだけで現時点で債務が確定していないような費用は、原則として損金に含めることはできません。この点でも、会計上の費用認識とズレが生じる場面が見受けられます。

会計と税務の基準の違い

法人税法では、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に準拠して金額を計算することが原則とされています。
とはいえ、税法独自の取り扱いが求められることもあり、すべての会計処理がそのまま税務に反映されるとは限りません。

特に、収益の認識タイミングや見積もり評価の扱いについては、税務上の慎重な判断が求められることが少なくありません。
結果として、企業の決算書に記載された利益と、法人税の申告書で計算された課税所得の間に差異が生じることになります。

グローバル・ミニマム課税の登場と課税標準の概念拡張

ここまで国内の法人税制度における課税標準の考え方を整理してきましたが、近年は国際的な枠組みの中でも課税標準という概念が注目を集めています。
その一例が、いわゆる「グローバル・ミニマム課税」です。

この制度は、多国籍企業が税率の低い国に利益を移してしまうことを防ぐため、一定水準(15%)の最低課税を行うというものです。
一定の収益規模を超える企業が対象となり、国外で低税率しか課されていない場合には、親会社側で不足分を補う仕組みとなっています。

こうした制度は、法人税の「国際的な公平性」を確保するための措置であると考えられていますが、同時に企業側には追加的な税務対応やシステム整備の負担が生じる可能性もあるといえます。

課税標準を押さえることが、第一歩になる

法人税の計算にあたっては、何よりもまず「どこに税金がかかるのか」を知る必要があります。
そのベースとなるのが、今回取り上げた課税標準の概念です。
企業がどれだけの益金を得て、そこにどれだけの損金が発生したか。
その差額が、法人税の対象になる所得というわけです。

次章では、より具体的に「益金とは何か)「損金とは何か」、それぞれの中身を掘り下げて整理していきます。
会計と税務の違いを意識しながら、実務上の判断にも役立つ視点を確認していきましょう。

Chapter 2 | 益金・損金の定義と差異

法人税計算の土台となる2つの概念

法人税の課税所得を算出する上で中心となるのが、「益金」と「損金」です。
前章で触れたように、これらの差額が課税対象となる所得の金額を構成します。
ただし、会計上の「収益」や「費用」とは似て非なるものであるため、定義の違いを明確に理解しておく必要があります。

会計処理で使われる収益や費用は、企業の経営成績を示すために幅広い基準で認識されますが、税務上は課税の公平性や実現性といった観点が重視されます。
そのため、同じ取引でも、会計と税務で異なる扱いになることがあります。

益金とは何か?収益とは違う「課税対象」

まず「益金」ですが、これは法人が事業を通じて得た経済的価値のうち、資本取引以外に起因するものを指します。
たとえば、商品の販売やサービスの提供によって得た金額が該当します。

これに加えて、無償で資産を取得した場合や、通常の取引を通じて得られた対価以外の経済的利益も、益金に含まれるケースがあります。
いわば、事業活動を通じて得た経済的価値全般が対象になると考えると整理しやすいかもしれません。

ただし、出資の受け入れや剰余金の分配といった資本等取引に該当するものは、益金には含まれません。
このように、益金の範囲は税法で明確に区切られており、会計上の収益とは異ななる意味合いを持っています。

損金とは何か?費用や損失との関係

次に「損金」ですが、こちらは益金を得るために要した費用や損失などが該当します。
売上原価や販管費のほか、減価償却費や一部の損失も含まれます。

損金として認められるかどうかは、いくつかの条件によって決まります。
たとえば、費用であっても、その事業年度の終了時点までに債務が確定していなければ、原則として損金に算入することはできません。

また、資本の増加や剰余金の分配など、いわゆる資本等取引に関する支出も、損金には含まれない仕組みになっています。
このように、損金として計上できる範囲には一定の制約があり、すべての費用が損金になるわけではありません。

会計との違いが生じる背景

会計と税務の違いが表れる代表的なポイントとして、「費用認識の時期」や「見積もりの扱い」が挙げられます。
会計処理では、将来的な支出が見込まれる場合にも、その合理性が認められれば費用として計上されることがありますが、税務上は原則として実際の債務確定が求められるケースが多くなります。

また、損失についても同様で、見積もりベースで評価される会計処理と、実際に発生したことが確認できる損失を基に処理される税務との間で差が出る場合があります。

こうした差異を踏まえると、法人税の計算では、単純に会計上の損益計算書を転記するわけにはいかず、別途、税務調整が必要となることが一般的です。

適切な損金処理が納税額を左右する

法人税の計算においては、益金の把握もさることながら、どのような支出が損金として認められるかという判断が大きく影響します。
損金算入が適切に行われれば、それにより課税所得が抑えられるため、結果として税負担が軽減されることになります。

一方で、税法上の要件を満たさない支出を損金に含めてしまうと、後々の調査や修正申告のリスクが生じかねません。
そのため、会計上の費用をそのまま損金として扱うのではなく、税務上の判断基準に即した処理が求められます。

このように、益金と損金という二つの柱は、法人税の課税標準を構成する上で非常に重要な要素です。
次章では、これらの項目がいつの事業年度に計上されるのか、いわゆる「収益・費用の帰属年度」について詳しく見ていきましょう。

Chapter 3 | 収益・費用の帰属事業年度

計上の「タイミング」が税額を左右する

法人税の課税対象となる所得金額は、益金から損金を差し引いて算出されます。
ただし、いくらの金額を計上するかと同じくらい、「いつ」その金額を計上するかという判断も、非常に重要になります。

収益や費用の発生が複数の事業年度にまたがる場合、その帰属年度をどのように決定するかによって、各年度の所得金額が変動し、結果として納税額にも影響を与えることがあります。
ここでは、法人税法における収益・費用の帰属年度の原則や例外について整理しておきます。

原則は「引渡し等の日」に基づく認識

法人税法においては、資産の販売や役務の提供といった取引に伴う収益は、原則として、目的物の引渡しや役務提供が行われた日の属する事業年度に益金として認識することとされています。
いわゆる実現主義の考え方に基づいた処理方法です。

たとえば、出荷日や検収日、作業完了日、サービスの提供が完了した日などが、収益の帰属基準となることがあります。

公正処理基準による「近接日」の取り扱い

一方で、一定の条件を満たす場合には、引渡し等の日に近接する別の日に属する事業年度でも、収益を計上することが認められています。
この扱いは、会計処理において「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に基づいて処理されている場合に適用されます。
たとえば、契約効力の発生日や仕切書の到達日、検針日などが、収益認識の時期として採用されることもありえます。

なお、いったん引渡し日またはその近接日に基づいて収益を計上した場合には、申告調整によりそれ以外の期間に修正することはできない点には注意が必要です。

無償取引や現物分配などの特殊ケース

法人が無償で資産を譲渡した場合や、現物資産をもって利益・剰余金を分配するような行為があった場合にも、一定の価額をもって収益を認識することが求められます。

この際の評価は、譲渡された資産の時価、または提供された役務に対して通常得られると想定される金額を基準とします。
たとえ将来的に貸倒れや返品の可能性があるとしても、その時点ではそれらの可能性は考慮せず、実行時点の価値で評価を行うというのが法人税法上の考え方とされています。

長期契約取引に関する特例の考え方

一部の取引については、原則的な引渡し基準とは異なる方法で収益や費用の帰属年度を決定する特例が設けられています。

リース取引の取り扱い

たとえば、リース取引において資産の引渡しが行われた場合、その取引は売買があったものとして取り扱われます。
この際、法人はリース資産の譲渡に係る収益および費用の計上方法として、一定の要件のもと、所定の計算方法に従い、それぞれの事業年度に金額を按分して処理(延払基準)することができます。

具体的には、リース期間全体にわたる対価のうち元本相当額や利息相当額、原価部分をそれぞれのリース期間に応じて按分し、各年度に対応する収益および費用として処理します。
これにより、実態に即した収益の認識と費用配分が可能となります。
このような取扱いにおいては、計算方法が複数存在しており、契約内容や実務の対応方針に応じて適切な方法を選択することが求められます。

工事進行基準の強制適用

工事の請負に関しては、一定規模を超える長期工事に対して、いわゆる「工事進行基準」が強制的に適用されます。
対象となるのは、工期が1年以上、契約金額が10億円以上、かつ代金の2分の1以上が引渡しの期日から1年を超えた日以降に支払われることが定められていない工事(つまり工事代金の半分が引き渡し後1年以内に支払われる工事)です。

この場合、工事の進行度合いに応じて収益と費用を按分して計上する必要があります。
具体的には、原価ベースで進捗割合を算出し、それに契約金額を乗じて収益額を求める手法が取られます。

帰属年度の判断には慎重な対応が必要

収益や費用の計上時期を誤ると、事業年度ごとの所得金額にズレが生じ、結果として不必要な修正申告や税務上の指摘につながるおそれもあります。
そのため、取引の性質に応じた適切な判断が求められます。

加えて、特例を適用する場合には、一定の条件を満たしているかどうかを事前に確認し、税務署への提出書類や帳簿との整合性も丁寧に管理しておくことが実務上のポイントといえるでしょう。

免責事項

本記事は、法人税に関する制度や実務の理解を深める目的で作成されたものであり、特定の取引や課税に対する判断を提供するものではありません。
実際の税務申告や処理にあたっては、最新の法令や通達、及び各社の実態に基づいた個別の検討が必要です。
また、本記事の内容は将来的な制度改正等により変更される可能性があります。
税務上の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談いただくようお願いいたします。

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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