太陽光発電投資の始め方 制度・コスト・導入手続きの基礎知識

目次

第1章|太陽光発電投資とは何か―“電気を売る”ビジネスの全体像

はじめに: 太陽光発電は“つくって売る”仕組み

太陽光発電投資は、発電した電気を売ることで収益を得るビジネスモデルです。
土地や屋根に設置されたパネルが太陽光を電気に変換し、これを電力会社などの受け手に販売することで売電収入が発生します。
設備を所有する側にとっては、一定の初期投資に対し、中長期にわたる投資回収を目指す構造といえます。

近年では再生可能エネルギーの重要性が高まり、太陽光を中心とした導入も進んでいます。
ただし、設備の規模や接続方式によって手続きや収益性に違いがあるため、まずは投資対象としての全体像を把握しておく必要があります。

太陽光発電の導入規模と主な区分

国内では、太陽光発電設備の導入が年間で数GW(ギガワット)単位で進んでおり、2023年12月時点の累積導入量は70GWを超える水準となっています。
住宅の屋根や工場敷地、未利用地など、設置場所は多様化しており、住宅用・非住宅用の両方で導入が進んでいます。

導入形態は、大きく「低圧」「高圧」「特別高圧」の3つに分類され、これは発電出力に基づいた区分となります。
出力が50kW 未満のものは「低圧」に分類され、小規模な事業用や個人投資向け案件が多く該当します。
一方で、数百kW~数MW規模の設備は「高圧」「特別高圧」とされ、大型の事業用施設や工場の敷地などで活用されています。

この区分は、電力系統への接続方法や提出書類、工事内容、さらには制度的な規制にも関係してくるため、投資判断においては重要な要素です。

投資収益の仕組みと日射量の影響

太陽光発電の売電収入は、主に「発電量」と「売電単価」の積によって決まります。
設置したパネルの規模とその地域の日射量によって、年間に生み出される電力量がおおよそ見積もられ、それに売電単価を乗じた額の売電収入が得られるという構成です。

国内における発電量の目安としては、1kWあたり年間1,200kWh前後とされており、地域によってはこれを上回るケースもあります。
たとえば、日照条件の良好な地域では、1,350kWhを超える発電が期待できる例も確認されています。
日射量の分布には地域差があるため、土地選定の際にはこの点も考慮することが重要です。
※1kWあたり年間1,200kWhとは、太陽光発電システムの設備容量1kWに対して、年間で1,200kWhの電力量が発電されるということを意味しています。

売電単価は制度的な枠組みによって変動しますが、一定期間固定される場合もあり、発電量と合わせて予測が立てやすい点が特徴です。
加えて、近年は制度に依存しない販売方法も拡大しており、選択肢の幅が広がっています。

低圧モデルが選ばれる理由

特に個人投資家や小規模な法人が参入しやすいのは、出力50kW未満の「低圧」案件です。このクラスでは、電力会社に提出する書類が比較的簡素化されており、導入時のハードルが低く設定されています。具体的には、申込書、結線図、機器の認証書類など、限られた書類で手続きを進められるケースが一般的です。

また、設備の設置にあたって必要となる工事費負担金も、規模に比例して抑えられる傾向があり、初期費用の観点でも投資の敷居が低いと言えます。これにより、一定の資金があれば個人でも現実的に取り組める投資対象となっており、実際に数百万円~数千万円の資金規模での導入例が増えています。

遠隔監視の普及と運用面の変化

近年では、運用開始後の設備管理においても変化が見られます。かつては現地での点検が主流でしたが、現在では遠隔監視システムの低価格化が進み、クラウドやAI技術を活用したモニタリングが広く導入されています。
これにより、故障の早期発見やメンテナンスの効率化が図られ、ランニングコストの圧縮にもつながっています。

このような技術の進展により、小規模な事業者であっても、専門的な知識や人員を持たずとも、設備の安定運用が実現しやすい環境が整いつつある状況です。

この章のまとめ

太陽光発電投資は、制度・設備・運用の各面で着実に整備が進んできています。
とりわけ、 低圧案件を中心に、個人でも取り組みやすい環境が整ってきたことは注目に値します。
もちろん、収益性は立地条件や制度動向に左右されるため、慎重な検討が必要となる場面もありますが、事実として導入事例は着実に増加しています。

第2章|固定価格買取制度(FIT) とFIP – 売電単価が決まるロジック

はじめに: 収益を支える制度設計

太陽光発電による売電収入は、単なる需給バランスだけで決まるものではありません。制度上、国が定める一定の仕組みによって、売電価格の基準が設けられており、その内容を正しく理解しておくことは、投資判断において極めて重要です。
なかでも中心となるのが「固定価格買取制度(FIT)」と「フィードインプレミアム制度 (FIP)」の二つです。どちらも再生可能エネルギーの導入促進を目的とした制度ではありますが、仕組みには本質的な違いがあります。

FIT制度の仕組みと価格の推移

固定価格買取制度(FIT)は、発電した電気を一定期間、あらかじめ決められた価格で買い取ってもらう仕組みです。
再生可能エネルギーの導入初期において、発電コストが高止まりしていた状況を支援するために設けられました。
価格は年度ごとに見直されており、当初は1kWhあたり40円という水準からスタートしましたが、その後は段階的に引き下げられ、直近では 10円前後まで下がっています。

買取期間は事業用の太陽光発電で20年間(家庭用など、10kW未満は10年)とされており、契約期間中は同一価格が維持されるのが特徴です。これにより、投資初期の収支計画が立てやすく、金融機関からの融資の際にも安定収益が見込めるという点でメリットがあります。

ただし、期間が満了すれば契約は終了し、その後は自由契約による売電や自家消費といった選択肢に移行する必要があります。

FIP制度の特徴とプレミアムの考え方

一方、は、発電した電力を市場価格で売却したうえで、一定の補助額(プレミアム)を追加で受け取るという仕組みです。発電事業者が自ら売電先を選び、市場の変動に応じた価格で電気を供給することを前提としています。

プレミアムの額は、単純化すると市場での売電価格(参照価格)と事前に定められた基準価格との差額で計算されます。
たとえば、基準価格が15円で参照価格が12円であれば、差額3円がプレミアムとして加算されることになります。
この仕組みにより、価格の変動に柔軟に対応しつつ、最低限の収益を確保することが可能になります。

ただし、FIP制度は価格変動の影響を直接受けるため、売電タイミングの見極めや発電量の予測が重要になります。また、需給の不一致によるペナルティが課されるリスクもあるため、計画的な運用体制が求められます。

固定価格と変動価格、それぞれの特徴

制度の違いは、そのままリスクとリターンの考え方にも直結します。
固定価格のメリットは、収入が安定することにあり、長期にわたってキャッシュフローを見通しやすくなります。
これにより、投資回収の予測も比較的シンプルに構築できます。

一方、変動価格であるFIP制度では、市場の動向を捉えながら柔軟な価格設定が可能になります。
タイミングを見て高値で売電することができれば、固定価格を上回る収益を得る可能性もあります。
ただし、市場が低調なときにはプレミアムを含めても想定を下回る収益になるおそれもあるため、予測力や運用ノウハウが問われる局面も出てきます。

どちらを選ぶかは、投資家のリスク許容度や事業運営の体制、また金融機関との調整状況などを総合的に踏まえて判断する必要があります。

売電期間と卒FIT後の選択肢

FIT制度の20年間(家庭用など、10kW未満は10年)という買取期間が終了すると、いわゆる「卒FIT」と呼ばれる段階に入ります。この時点で得られる選択肢としては、相対契約による新たな売電、地域内での電力取引、自家消費への切り替えなど、複数の方向性が考えられます。

ただし、卒FIT後の売電価格は契約当初の固定価格よりも低く設定されることが一般的であり、事前に出口戦略を意識したプランニングが求められます。蓄電池の併用や電力需要とのマッチングを図ることで、売電以外の経済効果を見込むことも一つの視点となります。

制度変更と単価の影響

制度の見直しは今後も継続的に行われる可能性があります。
これまでの例では、特定地域における出力抑制の履歴や、制度変更による価格改定、海外における先行事例に見られる売電単価の急激な下落などが参考になります。とくに、FITから FIPへの移行を進めた国においては、導入直後に価格が下落したケースも確認されています。

そのため、制度の枠組みに依存しすぎることなく、市場環境に応じた柔軟な対応を検討する視点が求められます。安定と変動、どちらを優先するかは事業者の意向次第ですが、今後の動向を注視する姿勢が肝要です。

この章のまとめ

売電単価は、単なる市場価格ではなく、制度的な仕組みを通じて形成されるものであり、その理解が投資判断の前提となります。
固定と変動、それぞれに利点と注意点があるため、自身の資金計画や事業運営体制に応じて、判断することが重要です。

第3章 | 売電ビジネスを支える法規・コスト要素

制度上の手続きと認定プロセス

太陽光発電による売電事業を行うには、所定の認定手続きと系統接続の準備が必要となります。
具体的には、事業計画の認定申請と電力系統への接続に関する同意取得が基本的なフローです。

事業計画認定には接続同意書の添付が求められます。
このため、あらかじめ送配電事業者との調整を経たうえで、電力系統への接続可否を確認し、その結果を踏まえて手続きを進めていくことになります。

地域や出力規模によっては、住民説明や関連法規への対応が求められることもあるため、事前に必要書類の確認を行い、 抜け漏れなく対応することが重要です。

接続工事費用とスケジュール感

系統接続には一定の工事費用が発生します。
これは、引込線の設置や変圧器の増強といった物理的な設備対応にかかる費用であり、出力や距離、既存設備の状況によって変動します。
例えば、50kW未満の低圧案件では数十万円台に収まるケースもあるようです。

一方で、設備の拡張が必要な場合は負担が増える可能性があるため、工事負担金の見積取得は早期に行うことが望ましいといえます。

工期については、地域や電力会社の状況、低圧案件か高圧案件かによって大きく変動しますが、接続検討から着工・完工までの一連のプロセスが、認定申請との並行処理を含めると4~6か月程度(低圧案件の場合早ければ1~2か月程度も)が目安となることがあります。
高圧になるとさらに長期化しやすいため、投資計画のなかで余裕を持った工程設計が必要です。

ランニングコストと設備寿命の考え方

稼働後のコスト面に目を向けると、太陽光発電は比較的メンテナンス頻度の少ない設備とはいえ、一定の維持費が発生します。
主なランニングコストとして、保守点検費、保険料、固定資産税などが挙げられます。

50kW規模の設備では、年間15万円~30万円前後が一つの目安とされることもあります。
保険は一括払いや年払い方式があり、設備取得額の数%が初期費用としてかかるケースもあります。
火災や自然災害に対する補償範囲は、設備の設置地域や気候条件を踏まえて選定される傾向にあります。

また、減価償却資産としての法定耐用年数は17年とされる一方で、パネル自体の実用寿命は25~30年を見込むケースもあり、長期保有を前提とした計画策定が望ましいとされます。
PCS (パワーコンディショナ) は設計上15年程度が目安となっており、更新費用を見越した準備も必要です。

この章のまとめ

売電ビジネスを成立させるには、制度理解だけでなく、各種コストや設備寿命を踏まえた運営計画が不可欠です。
特に、導入初期の手続き、接続までの工程、運用後の費用見通しを丁寧に積み上げておくことで、長期的な収支管理が安定しやすくなります。

免責事項

本記事は、太陽光発電投資に関する制度・法令・市場動向などの一般的な情報をもとに、投資検討中の方への参考情報として提供しています。内容には最新の調査結果や公的資料をもとにした記載が含まれますが、正確性・完全性を保証するものではありません。

また、太陽光発電事業に関する法令や制度は変更される可能性があり、実際の投資に際しては、最新の情報をご自身でご確認いただくとともに、必要に応じて専門家へのご相談をお願いいたします。

本記事によるいかなる損害についても、筆者および当サイトは一切の責任を負いかねます。投資判断はあくまで自己責任にてお願いいたします。

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この記事を書いた人

運営者:はち(執筆・運営・構成)
会計プロフェッショナル資格保有/簿記上級資格保有/ファイナンス実務経験者

上場企業・IPO準備企業・中小企業に対して、会計処理の確認及び助言・内部統制構築・M&A支援・資金調達支援・買収後の統合支援等を経験。
10社以上の企業に財務面から携わってきた実務家です。

静かな資産形成=数字に惑わされず、自分の判断軸で積み上げていくことを信条に、投資初心者にもやさしく、かつ本質的な記事を執筆しています。

Quiet Money Labでは、不動産クラファン、投資信託、ロボアド、自動売買FXなどの少額投資記事を中心に、数字から投資のリテラシーを育てる内容を構成・執筆しています。

運営者:はな(監修・ライフプラン・保険分野)
ファイナンシャルプランナー資格保有/保険会社勤務

資産設計・保障見直しに携わる現役FP。
保険・NISA・iDeCoなど、資産形成とライフプランに関わる相談業務を行っています。

Quiet Money Labでは、主に積立NISA・ロボアド・保険と資産形成のバランスといったテーマについて、内容の正確性・実用性の監修を担当。

「難しい言葉ではなく、伝わる言葉で安心を届ける」をモットーに、読者にとって等身大の情報提供を意識しています。

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